第9話 能力設定を決めずに物語を書き始めるとすんごい苦労する



「で、もう一つの聞きたいことなんですが……」

「唐突じゃのう! 物語の始まりと言うのはもっと緩やかに始まるもんじゃぞ?」


 王様のくせにメタい事言わないでもらいたい。

 っていうか、てめぇが前回いらんネタぶち込むから、尺に収まんなくなって次話に持ち越してるんだよ!


 冒頭で時間がかかっては物語が長くなるから、たまにはセリフから始まってもいいじゃないですか!



「そう言うのはいいので質問させてください」

「せっかちさんじゃのう! まあよかろう何でも聞いてみるがよい!」


 結局茶番で長くなった。

 まあでもこれでやっと王様と真面目な話が出来る。


「この世界って魔法はありますよね? 他に何か特殊能力的なものってあったりしませんか?」


 ぶっちゃけると俺がチート無双できそうなやつ。


「もちろん魔法はあるぞ? 他にと言うと……どういう事じゃ?」


 やはり魔法はあるで間違いないようだ。

 まあ俺が異世界に飛ばされて来た時点で、召喚魔法が使われているんだから魔法はあるだろう。



「考えてみたんですが、この世界に来て言葉も通じるし知らない文字も読めるんですよ! 普通に考えるとおかしくないですか?」

「なるほどの! それは召喚時に自動で付与された特性じゃ」


 特性!?

 もしかしてこの世界には異世界らしく魔法のほかにスキルやレベルの概念があったりするのだろうか。

 もしそうなら俺が異世界チートで無双する物語がここから始まるかもしれない!


「特性ですか!? それはどう言った物なんですか!」

「まあ落ち着くのじゃ。焦らんでも説明してやるわい」



 俺は王様から特性について詳しく聞くことが出来た。


 ①特性は原則一人に対して一つ。

 個人の特別な能力と言うわけではなく、同じ特性を持っている人もいるらしい。


 ②特性と共に称号が付与されせれる。

 この称号次第で同じ特性であったとしても優劣が決まるらしい。

 優劣の差は上達の速さなどに関係するそうだ。


 ③特性の種類は多種多様。

 魔法の特性もあれば商売の特性もある。

 変わり種だと、早食いの特性や早寝の特性もあるらしい。


 なるほど……例えば、剣技の特性持ちが二人いたとして、それぞれの称号が剣士と達人の場合、同じ訓練をしても達人の方が上達が早いということだろう。


 ここまで聞くと特性とはその人が持つ才能で、称号はその才能のランクといったところだろう。

 だが魔法もある世界に召喚された以上、俺の特性次第では無双できるんじゃないのか?


 特性は原則一人に付き一つって事だけど、王様曰く言葉がわかる特性は召喚時に付与されたものだ。

 別の世界から召喚された俺は、この世界におけるイレギュラー……つまり日本に居た時から持っている何らかの特性があるのではないだろうか。

 これは是が非でも俺自身の特性が気になる。


「俺の特性とか称号って調べることが可能なんですか?」

「出来るが……先も言った通り特性は一人一つじゃ。お主の特性は言語に関するもので決まりじゃろうから、後は称号を確認するだけになるが構わんか?」


 どうやら王様には、この世界に来る前から持っている特性がある可能性が頭にないらしい。

 クク……さんざん人をおちょくりやがって、見てろよ! ギャフンと言わせてやるぜ!


「はい! ぜひお願いします!」


 この特性次第で、俺の今後が大きく左右される。

 怖い気もするがまずは調べてもらわない事には始まらない。

 そう考えていると王様はおもむろに股間のあたりをまさぐり始めた。


「あったあった! これじゃ!」

「おい! 今どこから出した!」


 そう言うと王様は股間からまさぐりだした一枚の紙を俺の方に差し出してきた。

 俺の異世界チート無双の為だ背に腹は変えられん……俺は王様のそばまで行き紙を受け取とった。

 あぁ……生暖かい……


「それをおでこに当ててこう叫ぶのじゃ!」

「えぇ……おでこですか……」


 誰が好き好んでジジイの股間にあった紙をおでこに当てるというのか。

 しかし、当てないと先に進まない

 そう思い紙を見てみるといたってシンプルな少し厚みのある長方形の紙だった。

 形としては七夕の短冊が一番近いかもしれない。


「さあおでこに当てるのじゃ! そして叫ぶのじゃ!」

「は、はい」


 王様の鬼気迫る表情を見て俺はしぶしぶ受け取った紙をおでこに当てた。

 紙をおでこに当てた俺を見て王様は呪文を唱えだした。


「ステータス・オープンじゃ!」

「やめてよぉ!!」


 おいジジイ!

 なぜ今朝の失態を知っている!? あれか? もしかして監視されている!?


「我が国の言い伝えでの……転移者に特性の説明をする時に言うと面白い反応をするからやってみろというものがあってのう……本当に反応するんじゃな」


 何だよその言い伝え!! ピンポイントで俺の心を攻撃してるじゃんか!?

 まぁでも、監視はされていないようなので、安心した。


「では、改めて……特性鑑定って言ってみ?」

「と、特性鑑定」


 おでこの紙から白い煙と共に肉が焼けるような音が聞こえる。


「あっつい! そして臭えぇ!!」


 俺は紙を床にたたきつけた。

 踏んだり蹴ったりである。

 おでこがヒリヒリするし、なんか臭い。


「紙を見てみい! 特性の結果がもうでとるはずじゃ!」


 床にたたきつけた紙を見てみると何か文字が浮かんでいた。

 俺は紙を床から拾い上げ読んでみる。


「言語マスター……?」


「言語が特性でマスターが称号じゃ。それにしてもマスターの称号とはすごいの! マスターの称号持ちはほとんどおらんのじゃぞ?」


 王様も驚いているしこれはすごいのではないだろうか?

 だが待ってほしい……言語マスター以外に何も書かれていない。


「その特性は言葉や文字を理解できる特性じゃな! マスターと言うからには、その気になればすべての言語理解できるんじゃないかのう?」

「それは良いんですが……あの……俺って別の世界から来たんですよ? だったら言語の特性が付与される前から持っていた、他の特性があっても良くないですか?」

「他にじゃと? お主の世界には特性や称号といったものはあったのか? あれば特性が二つあってもおかしくはないと思うが、無ければ何もないところに言語の特性が付いたのじゃろ」


 ……ギャフン


 文字や言葉が分かるって異世界物なら普通じゃないの?

 異世界に飛ばされる前に会った神様が、言葉や文字が分からないと不便だからわかるようにしておくね~ってな感じで付けてくれる、チートとは別の無料オプション的なやつじゃん!!


「じ、じゃあ魔法は? 俺は魔法は使えるんですか?」

「魔法に関する特性では無いからのう、まず無理じゃろ」


 終わった……

 異世界に飛ばされて、やっと光明が見えたと思った矢先に俺の異世界無双計画がとん挫した…



「何が不満なのかわからんが、お主が知らん言葉や文字がすぐにわかるんじゃぞ? 十分凄いとは思わんのか?」

「いや凄いとは思うんですが…そもそもこの世界ってそんなに言葉の種類が多いんですか?」


 もしここが地球と同じなら俺はアメリカ、中国、ロシアどこに行っても瞬間的に会話が出来ると言うことになる。

 バイリンガルを超えてマルチリンガルって事だ。

 ……あれ? 異世界のチート能力としては微妙かもしれないが十分に凄いんじゃ……


「言葉の種類? この国がある大陸は統一言語じゃから、他の大陸に行かない限りは基本的に一種類じゃのう?」

「この特性ほとんど意味なくね!?」


 今のところ、別の大陸に行く予定なんかない。

 チートではあるが、チートじゃない……あらすじに偽りはございませんでした!!



「そんなに落ち込まんでもよかろう、わしは十分すごいことだと思うぞ?」

「はい…ありがとうございます…」


 王様から励まされた気がした。

 とりあえずお金だけもらって今日は帰ろう…

 もう疲れたよ……


「生活費を用意させるでの? それまでこれでも読んでみてはどうかの?」


 そう言うと王様は、また股間のあたりをまさぐり始めた。

 突っ込む気力も失せた俺に王様は一冊の古ぼけた本を手渡した。

 やはり、生暖かい……


「これは何ですか?」


「300年前に召喚されて来た者が残していった書物じゃよ。わしらじゃ読めんが、お主なら読むことが出来るかもしれん」


 え!? 俺の先人? 地球からか? もしくは更に別の世界!?

 何にせよ、何か有力な情報が乗っているのかも―――――――




【日記】


 著者:鈴木太郎


 2015年7月5日

 俺は家でゴロゴロしていると突然、異世界に召喚された。

 特性の説明を受ける前に異世界だキャッホゥゥとなった俺は、大勢の前で意気揚々とステータスオープンをやって赤っ恥をかいた。

 俺以降に召喚される者の中には、同じぐらいの時代の日本人もいる可能性がある。

 もし趣味が同じで異世界転移ものの小説を読んでいる人なら俺と同じ失敗をしているかもしれない。


 俺だけ恥をかくのはなんかムカつくので、俺以降に来る者にはステータスオープンってやると面白い反応するよと、王様に吹き込んでおくことにした。




 ―――――――俺はそっと本を閉じ、全力で床にたたきつけた。


 王城でのステータスオープンは、てめぇのせいか!!

 余計なことすんじゃねーよ!!!

 何よりも書いたやつ鈴木太郎ってゴリゴリの日本人じゃねえか、日本語の日記なら特性無くても読めるわ!


 床に叩きつけた本を睨め付けながら興奮しているとドアをノックする音が聞こえた。


「生活費の用意が出来たんようじゃ……お主大丈夫か? 医者の紹介が必要か?」


 エルにならともかくこのジジイにまで病気だと思われては敵わない。

 早いとこ生活費だけ受け取って今日はもう帰ろう。


「大丈夫です……ありがとうございます」

「そうかのう…? 入ってもよいぞ!」


 王様の声を聴き、入り口の扉が開いた。

 扉の先には魔法使い風の武道家が立っていた。


「失礼します。王様より言われていたもの持ってまいりました。」

「すまんのう! それをタケル殿に渡してやってくれ!」


 魔法使い風武道家の男は俺の前まで歩いてきて片膝をつき小さめの麻袋を俺に手渡そうとしてきた。


「こちら王様からの当分の生活費とのことです。お受け取りください」

「ありがとうございます。」


 麻袋を受け取った俺は中を確認した。

 王様の前で確認するのも失礼かと思ったが、このジジイならお金を入れていない可能性すらある気がしたからだ。

 そんな事を思いながら中を見てみると金貨のような物が数十枚入っていた。

 ひとまずは安心した。


「無駄づかいはせんようにの? また何かあったらくるのじゃよ?」

「はい! ありがとうございました。 また何かあったら来ます! それでは失礼します。」


 生活費を受け取りこの世界の事を少しだけ理解できた俺は部屋を出ようとした。


「あっ! 待つのじゃ!」

「どうされましたか…?」


 なんだ…?

 長い話などは勘弁してほしいのだが…


「ゴホン……ンンッ、別にまた来てほしいなんて思ってないんだからね!勘違いしないでよね!ばかぁ……なのじゃ!」


 こんなことの為に呼び止められたのか。

 多分、300年前の日本人に色々吹き込まれた結果なのだろう。


 良かったな…今日の俺は色々あって疲弊していている。

 だが次会った時が貴様の命日だ。

 次は絶対に殴る。

 そんな事を思いながら王城を俺は後にした。




「疲れた……もう今日は帰って寝たい」


 無意識に口に出していた。

 本当は帰って寝たいのだが、この後店長に会い行くと言う重大なイベントがある。

 昨日払えなかったお金を払いに行かないといけない。


 憂鬱である。

 だが行かないとあの店長に殺されかねない。

 そんな事を思いながら、エルとキャッキャッウフフしながら歩いた道のりを一人でトボトボと歩く。

 風俗街の入り口に差し掛かった時、聞き覚えのある声に呼びかけられる。


「タケルちゃん~待ってたわよん~」


 店長が風俗街の入り口に店長がたたずんでいた。

 なに? 出迎え? 怖い。


「わざわざ迎えに来てくれたんですか?」

「そうよ~タケルちゃんが迷子になってお金払えなかったら困るでしょ?」


 まるでヤクザの集金だ……だがヤクザより怖い。


「大丈夫ですよ! 王様に会ってきましたので、問題ありません!」

「そうなのぉ~? 王様に会えるなんて、やっぱりタケルちゃん凄いのね~王様と何してたの?」


 店長が興味を持つあたりあんなジジイでも王様は王様らしい。

 やはり気軽には会えないようだ。

 だが王様があんな感じの人だと皆知っているのだろうか。


「えっと……特性について聞いてあと生活費をいただきましたね」

「あら! 生活費貰えて良かったじゃない! それに特性も調べてもらえたの? タケルちゃんの特性は何だったの? 聞いても良いかしら?」


 話しながら店長はヌッチャリーグッチョリーの方向に歩き出した。

 後を追うように俺も店長の横について行った。


「言語のマスターって言われました。」

「大陸で統一言語だから他のところに行くときは便利よぉん! けどマスターの称号ってすごいわね!」


 やはりマスターの称号は中々すごいみたいだ。

 そんな事よりも俺は気になることがあった。

 この店長の特性についてである。


「ありがとうございます! あの……もしよかったら店長の特性も聞いても良いですか…?」

「私の特性? 知りたいの~? 当ててごらんなさい?」


 そう言って店長は歩きながらくねくねしだした。

 呪われそうだ。

 店長は特性を当てろと言ったが、店長である以上商売系の特性なのだろうか。


「そうですね……商売の特性とかですか?」

「はずれぇ~私の特性は~」


 ドゥルルルルルルー……デンッ!

 店長は口で音を出すのではなく、自分の胸を叩きドラミングして音を出している。

 リアルな音だなぁ……ゴリラより迫力がある。


「特性は筋肉! 称号はビューティマッスルよん~!」

「ハハァン、つまり筋トレで美しい筋肉がつきやすいってことなんですね」

「そうなのぉ~」


 ビューティマッスルの称号がどの程度のものかわかりにくい……この世界いったい何なんだろう。

 そしてこの店長は本当に人間なのだろうか。

 そんな事を思っているとヌッチャリーグッチョリーの前までたどり着いていた。

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