第8話 人の心を最も傷つける行為は、善意から生まれるものかもしれない。

「フン!」

「いいぞぉ~店長! 腹筋、板チョコ! キレてる。キレてるよー!」


「ハァッ!」

「いいぞぉ~店長! ナイスカットォ! 背中に羽が生えてる様だ!」



 -------------------------------------



 朝、目を覚ます。

 昨日は、俺のこれまでの人生の中でも最も衝撃的な1日だった。

 異世界に召喚され、お城で王様との会話、絶世の美少女と運命的な出会いの後、キャバクラもどきで接待、明らかに詰め込みすぎだ。

 加えて化け物の機嫌を損なわない様に、ひたすら褒めそやす悪夢を見ていた気がする。


 常に驚愕にさらされていた為に、疲労が抜けきっていない。

 朝のまどろみの中、ぼーっとしていると外からチュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえる。


 いや、よく考えたら外の鳥の声はスズメではない、恐らくアサチュンだ。

 起き抜けでまだ脳が覚醒していなかったのだろう。


 アサチュンに思考を割いたおかげで目が冴えた俺は、ベッドから起き上がる事ができた。

 ベッドから降りて大きく背筋を伸ばす、するとここで俺に天啓が舞い降りた。


 そうだ。ここは異世界だ。

 昨日は召喚初日のせいで、右も左もわからない俺は周囲に振り回されていた。

 だが昨日一日を思い返してみると、不可思議な点が一つある。

 それは、言葉が通じている事と文字が読めている事だ。

 聞こえる言語、見ている文字は日本語ではない。

 つまり言語チートだ。


 なんだよ~あらすじにチート無しとか書いてあったじゃんか~。

 んん~? これはあらすじを書き直さなければなりませんなぁ。フハハ。


 そして、チートがあるならもう一つ、異世界に召喚されし者としてやらねばならぬ事がある。

 周りに誰もいない事を確認する。

 そのほら、もしこの世界で俺だけに出来たらその……色々面倒くさそうじゃん?


 ヤバい…これから始まる異世界チート無双ライフにワクワクが止まらねぇ。

 よっしゃァァァァ! 行くぞ! 

 天よ唸れ! 地よ轟け! 

 この俺のぉ! 全身全霊のぉぉ!!











「ステータス・オープン!!!」








 ……あれ?何も起こらない。

 なんかあの、自分だけにしか見えない、半透明のウィンドウがこう……ヴゥンって出るんじゃないの?


 言葉が違うのか?

 色々試してみよう。


「ステータス!」

「ヘルプウィンドウ!」

「メニュー!」


  ・

  ・

  ・


 な ん に も 起 き ね ぇ


 俺の叫び声が部屋にこだまするばかりで、なにも変化がない。

 恥ずかしくなってきて途中で止めてしまった。


 何が、俺だけに出来ると色々と面倒じゃん?だ。

 少し前の俺をぶん殴りたい。

 試す前に回りに人気がないことを確認していて本当によかった。

 こんなところを人に見られていたらトラウマになっていまう。


「あの...タケル様...大丈夫ですか? またご病気なんでしょうか」


 声のした方向を見ると、扉から顔をのぞかせたエルがドン引きした表情を浮かべていた。


 だと思ったよ!

 このオチは読めていた。

 そして今回に限っては、悲しことに病気を否定できない。

 病名は中二病だ。


「へぁっ!? エ、エル? いつからそこに……」

「タケル様が右手の人差指をひょこひょこ動かしながら、すてーたすと叫んでいた時からです。ノックしようと思ったんですが、叫び声が聞こえたので何かあったのかなと……」


 ほぼほぼ最初からじゃねーか!

 恐らく人気がいないことを確認した直後に来たのだろう。

 なんと魔の悪いことか……

 このままだと変な人になってしまうのでなにか言い訳を考えないといけない。


「あーこれは……あれさ……俺の国に伝わる朝の体操みたいなものさ」

「そうだったんですね。ではタケル様のお側にいる以上、私もやるべきですね。郷に入らばってやつです」


 えっ? ちょ……


「すてーたす!」


 まって


「へるぷうぃんどう!」


 やめて……


「めにゅー!」


 いっそ殺せぇ!


 エルは眩ばかりの笑顔で、指をひょこひょこさせている。

 エルに悪気はまったくなく、善意での行動がこの世界に来てから一番、俺を傷付けていた。



 一通りエルのとのイチャイチャを終える。

 自分の中で記憶の改竄が見られるが、それは置いていて一つ疑問が頭によぎる。


 そもそもなんでエルがここにいるんだ?

 既に家に入っているエルに聞いてみる。


「ねぇエル? 一つ質問があるんだけど良いかな?」

「はい? 何でしょう?」


 俺は昨日寝る前に家の鍵は閉めたはずなのだ。

 異世界に来て初日何かあってはいけないと、鍵だけはしっかり閉めたのを覚えている。


「鍵閉めてたはずなんだけどなんで入ってこれたの?」

「...? 私、鍵持ってますよ?」


 んん?ホワイ?

 なぜエルが俺の家の鍵を持っている?

 ここが将来エルとの愛の巣になるとしても、俺はまだ鍵を渡してないぞ。


「なんでもってるの?」

「支配人さんにいただきました」


 出たよ! 会ったことないけど偉いだろう支配人!

 いくら偉くても鍵を渡すのはおかしくないだろうか?

 別にエルになら渡してもいいけど、渡しているのならその事を知らせてほしかった。

 知っていれば、朝一であんなことをしてはいない。


「なんでもらったの?」

「...? 私もここに住むからです」


 んん?ホワイ?

 俺の聞き間違いか? なんか今、エルの口から素敵ワードが飛び出したような…

 聞き間違いじゃないならまだ夢の中なのだろうか?


「エルさん? 今なんて言いました?」

「タケル様の世話役ですので、私もここに住むんですよ」


 ほほう……一緒に住むねぇ……ハハァン、そうですか。

 えっ! マジで!? 一緒に住むの!?


 ィィィイイッヤッホォォォオオオ!

 俺は、某赤い帽子の配管工の如く飛び上がり、小躍りを始める。


 夢じゃない? 夢じゃないよな!?

 試しに頬をつねってみる……痛い!

 軽く小躍りしてる時にベットの柱にぶつけた小指……凄く痛ぁい!!

 夢じゃない!!


 ふとエルを見ると、家の入り口付近まで離れていた。


「本当に大丈夫ですか......? タケル様、一度お医者様に見ていただいた方がいいと思います......」


 エルがまるで、店長にビビっていた俺の様に恐れおののいている。

 ジェントルメンな俺の何処に恐れる要素があるのだろうか、自分の行動を客観的に見てみよう。


 これから自分と暮らすと告げた男が、頬をつねりながら小躍りをして小指をぶつけて喜んでいる……

 ホントだこりゃ怖い。


 エルを怖がらせてはいけない…若干手遅れな気もするが、ここは深手を負いつつも気丈に振る舞う男を演出して、エルの恐怖を和らげよう。


「クッ……大丈夫。少し気が動転しただけさ。」

「そうですか......あと昨日は申し訳ありませんでした。お店で寝てしまってたようです」


 うーん。これは伝わってないですねぇ。


「気にしてないよ? エルこそ聖乳だっけ? 飲んでから酔っぱらってたみたいだけどもう大丈夫?」


 そう言えば店長にエルに直接聞くように言われたが、デリケートな問題っぽかったし聞いて大丈夫なんだろうか?

 もしエルが嫌がるようなら深くは聞かないようにしよう。


「あの......体質的な感じで私あれ飲んじゃうと酔っぱらちゃう見たいで......前に店長さんとゆっくり飲んだ時は大丈夫だったんですが昨日はごめんなさい」


 エルが俯いてしまっている。

 どうやらあまり言いたくはないらしい。


「エルが大丈夫だったか不安なだけで気にしてないよ。」


 いつか言いたい時に聞けばそれで問題はない。

 エルが悲しげに俯いてしまったので俺はこれ以上聞くのはやめることにした。


「ありがとうございます。今後は注意します」

「うん! また何かあったらその時に言ってくれればいいからさ」


 エルは俯いたまま軽く頷いた後、俺の方に近づいてきた。


「そう言えば店長さんが“今日は絶対にお店に来てねん”と言っていましたよ。何かあったのですか?」

「あぁ~アハハ。ちょっと約束した事があってね? ちゃんとお店には行くから大丈夫だよ」


 お金が払えなかったなんて、かっこ悪い事は決してエルには言えない。


「タケル様、今日はこの後どうするんですか?」

「店長との約束ごとに関して、今から王様に会いに行かないとかな?」

「王様ですか!? タケル様って本当にすごい人だったんですね!」


 エルさん?

 本当に凄い人って、今までエルの中で俺って何だと思われているんだろう。


 それはそうと王様に会って聞きたいこともあるし、何より生活費をもらわないといけない。

 だが王様に直接会いに行ってすぐに会えるんだろうか。

 アポ無しで行ってもすぐに会えないかもしれないから、昼のうちに王様に会いに行ってみよう。


「エルはこの後どうするの?」

「そうですね......タケル様をお城までご案内して店長さんの所に顔を出そうと思います」


 相変わらずエルは考えるとき唇に指を持って行って考える癖があるようだ。

 俺はエルの癖の中で今のところ、この癖が一番好きである。


「お城ならここからでも見えてるし一人でも行けると思うから案内しなくても大丈夫だよ?」

「いえ! お世話役の以上、万が一の為にもご案内させていただきます!」


 そう言うとエルは両の手を胸の上あたりでぎゅっと握りしめた。

 ちなみにこの癖も一番好きである。

 一番が混在してますなぁ。


 本来俺は、最近の幼稚園などで見られる、かけっこでみんなで手をつないでゴールしてみんな一番なんて意向は好みではない。

 だが、エルの可愛い仕草ランキングにおいてどれも一番っていうのは、特例として有りという事にしておこう。


「ではタケル様、準備が終わったら教えてください! それまでに朝ご飯の用意しておきますので。」

「朝ごはん!? エルが作ってくれるの!?」


 エルのお手製朝ごはんと言う言葉にテンションが上がった俺はまた小躍りをしそうになる。

 だがもしそれでエルが作ってくれなくなったら困る。

 凄く困る。


「はい。私が作ってきた物じゃいやでしょうか?」

「そんな事無いよ。嬉しかっただけだよ!」

「ありがとうございます。では準備してとくのでタケル様も準備してください」


 エルが朝食の準備をしてくれいる間に、俺は身だしなみを整えることにした。


 顔を洗うため、バスルームに向かう。


 家をもらった時に軽くは見ていたがやはり質素な家だ。

 入り口から入ってすぐ右にキッチンとテーブルがあり、左側に扉が二つあり一つがトイレ、もう一つが浴槽がついていないシャワーだけのバスルームだ。

 そして部屋の奥にベッドが一つと言った感じで、ダイニングとリビングに扉や壁の隔たりはない。

 はたしてここは本当に異世界かと思うほどに、よくある一人暮らしの1Kの部屋だ。


 ここで重要な問題に気づく。

 エルは一緒に暮らすと言っていたがどこで寝るんだろう。

 流石に一緒のベッドに寝るわけには行かないだろう。

 まあ最悪俺は床で寝れば良いか。


 それに加えて重要な問題がある。

 服が無ぇ! パンツも無ぇ!

 タオルは一枚あるけれど、生活用品何にも無ぇ!

 オラこんな家いやだ!


 これは王様からお金をせびって、色々買わないといけない。

 そんな事を考えながら俺はバスルームにあった木の桶に、シャワーから水を貯め顔を洗った。

 バスルームにかかっていたタオルで顔を拭きキッチンの方に行くとエルが声をかけてくれた。


「タケル様、準備出来ましたよ。お店で作ってきた物ですが食べてください」

「ありがとう。じゃあ早速いただきます!」


 テーブルの上に並んでいる物は、見た限りはよくあるサンドイッチだ。

 パンの色はライ麦パンのように茶色で、挟んである具材はハムとレタスといったスタンダードなものである。


 エルが作った朝食を見て、俺はふと思った。

 こういう時のお約束としてヒロインの女の子は料理が物凄く上手か、物凄く下手か二択である。


 仮にエルが下手くそであっても俺はそこも含めて愛せるが、出来ることなら美味しい方が嬉しい。

 俺は意を決してエルが作ってくれたサンドイッチを口に含んだ。


「どうですか? 美味しいですか?」


「うん! 凄く美味しいよ!」


 凄く美味いと答えたが、味としては驚くほどに凄く、本当に凄く…普通だった…

 気絶するほどマズイわけでもないし、頬が落ちるほど美味いわけでもない。


 まぁ…そりゃそうだ。

 アニメやマンガじゃあるまいし、女の子の手料理で気絶したり、昇天したりといったファンタジーな事はそうそう起こらない。


「ごちそうさまでした。美味しかったよ」

「よかったです! そんなに喜んでいただけるならまた作りますね。リクエストがあったら言ってくださいね?」


 女の子に手料理を作ってもらえる。

 それだけで、もはや俺にとってはファンタジーだ。


「タケル様? お城に行くなら案内しますがもう準備は大丈夫ですか?」


 お城には既に行ったことがあるが、エルと一緒に歩きたいのでここは案内してもらうことにしよう。


「うん、ありがとう。じゃあ一緒に行こうか」


 エルと家を出て、街を歩く。

 ここは、シコリア王国の王都シコリア。

 円形の城壁が街を囲む都で、円の北側に王城があり、南側にはこの王都の正門が構えていて、王城と正門の間に城壁の円を両断する形で大通りがある。


 俺が無料案内所ごと召喚された風俗街があるのは、円形城壁の最西南。

 現在俺が住む、ボロ部屋はこの風俗街の更に端っこにある。

 風俗街と王城の間には住宅区があり、風俗街のすぐ横には冒険者がよく利用するの宿や食事処が密集している。

 風俗街から大通りに出るには、この食事処の密集地帯を抜けないといけないため、通るたびにニオイでお腹だ空きそうだ。


 大通りまで出て、エルが北側に見える王城を指差す。


「ここをまっすぐ行くとお城です!」


 そのまま大通りを北に進む、王都の西側は風俗街があるので大体の地理は把握しているが、東側については全く知らない。

 ここはエルに説明してもらおう。


「ここの東側には何があるの?」

「東側の南は商業区、お城と商業区の間にはお貴族様達が住まわれている地域があります」

「ありがとう。この商業区は活気があっていい場所だね!」


 王様からお金をもらったら買い物にこよう。


「そうですね! ザーヴェンは色んなお店があっていい場所です。今度案内しますね!」

「ザーヴェンか……うん。お願いするよ」


 少し商業区の名前が怪しい気がする。

 だが俺は突っ込まない。

 いや正確に言うと突っ込んだら逆にアウトだ。

 でも怖いもの見たさで、更に踏み込んで聞いてみる。


「ちなみに風俗街に名前はあるの?」

「風俗街はシュペルマで、今歩いている大通りはハウメ通りって言います」


 うん。

 聞かなきゃ良かったよ……


 そんな事を思っていると王城の前についていた。


「ではタケル様、私はお店に戻っても大丈夫でしょうか? それともここで持っていた方がよろしいですか?」

「後でお店に行くからエルは戻って大丈夫だよ。ここまでありがとうね」

「はい。ではまた後でです! 失礼します。」


 エルは一礼した後、手を振りながハウメ道りを歩いていき、やがて人混みに紛れて見えなくなる。

 歩くエルを見送りながら、さながら彼氏彼女の様だなと思った。フヘヘ。


 エルを見送った後に俺は王城の門番の前に歩いて行った。


「すいません。王様に会いに来たんですが?」

「はっはっはっ! お前のような人間が王様に会えるはずがないだろう!」


 テンプレである。

 なぜどんな物語でも門番は、一度来客した相手を下に見るんだろう。

 これが偉い人だった場合どうするのか。


「あの……御手洗健が会いに来たと伝えてくれれば分かると思うんですが」

「御手洗健? あの遠い国から来た大賢者様の? お前がそうなわけないだろう! がっはっはっはっ!」


 そんな事より早く伝えてくれないだろうか。

 最近は突っ込みすぎて疲れている。

 それに王様に会えないと困るし、どうしたらいいのだろうか。

 そんな事を思っていると、奥からローブを被って杖を持った魔法使いのような人物が歩いてきた。

 召喚された時に王様と一緒に居た人だ。


「おやミタライ様、今日はどのようなご用件で来られたのでしょうか?」

「ああ、ちょうどよかった。王様に聞きたい事があって来たんですけど、王様に会えますか?」


 その話を聞いた門番たちはその場で片膝をつき頭をさげた。


「知らなかったとはいえ大変失礼なことをしました。ミタライ様お許しください。」

「えっと……大丈夫ですよ? それよりも王様に会えますか?」


 手のひら返しだ……なるほど。これもテンプレである。

 そのまま誘導され、門番から少し離れたところで魔法使い風の男が申し訳無さそうに口を開く。


「門番が失礼な事をしたようで申し訳ありません。ですがあの者を責めないでほしいのです」

「はぁ……」


 いや、別に攻める気など無いが…手のひら返しはちょっと気分も良かったし。


「門番はミタライ様を既に存じております。だがあえてあの様に振る舞い、後に手のひらを返して頭を垂れると言うくだりまでが一連の流れとなっておりまして……異世界から来たミタライ様は存じ上げぬと思いますが、この国の伝統文化でございます」


 つまりは、ミニコントじゃねーか。


「お客人に気分良くなってもらう事を目的として、発祥した文化でございます」


 まんまとハメられたよ!

 変な文化だが、確かにちょっと気分良くなってたわ。


「では、参りましょうか」

「……はい」



 先導してくれる魔法使い風の男の後をついて、王城の中に入る。

 お城に入るのは二回目だったが相変わらず凄い場所である。


 どんな場所かって?

 頭の中に大きなお城を想像してもらいたい。

 中にはきらびやかな装飾があるやつだ。

 ……想像できただろうか?

 まさにそれである。

 決してお城の描写を書くのが面倒臭いわけではない。


「もうすぐ王室につきますが準備はよろしいでしょうか?」

「はい大丈夫です。魔法使いさんもご案内ご苦労さまです」


 そんな事を言っているうちに大きな扉の前までついた。


「扉の先に王様がいらっしゃいますので後はよろしくお願いします。あと私は魔法使いではなく武闘家です。」


 その見た目で!?

 突っ込もうとしたがそれよりも先に扉が開いてしまった。

 奥に王様が座っておりこちらを見ている。


「ほっほっほっ よく来たのう。今日はどうしたのじゃ? わしに会いに来たのか?」

「いえ話があってきました。失礼します。」


 俺はそう言いながら王様の部屋の中に入った。


「話とな? もうこの部屋には誰も居らんから楽にしてええぞ?」

「ではお言葉に甘えて……早速ですが言わせてもらっていいでしょうか?」


 相手は王様である。

 つまりこの国で一番偉い。

 いくら楽にしても良いと言われても、少しは遠慮しようと思っていた。


「まってもらえるかのう……わしはそういう顔をした人間によく告白されてたのじゃ、じゃがお主はまだ会って二回目。……友達のままじゃ駄目かのう?」

「勘違いも甚だしいわ! 誰が好き好んで爺さんに告白するんだよ!」


 王様の一言で俺の遠慮の気持ちは消し飛んだ。

 もう遠慮なく言わせてもらおうと思う。


「まず説明が圧倒的に足りない! まあまだそれは風俗街の人たちに聞くからいいですよ!」

「じゃあなんじゃ? まさか…わしの体が目当てか?」


 このジジイ……こいつを王様と思うことはやめよう。


「家をくれたのはありがたいですけど、生活する為のお金はどうしたら良いんですか!!」

「………あっ」


【あっ】って言った! 今このジジイ【あっ】って言ったぞ。

 絶対忘れてやがったな?


「家の中にも何にもないし、なんだよ無一文って! まだRPGの王様の方がお金くれるよ!」


 少なくとも、50ゴールドはもらえるしな!


「テヘへ……忘れてたのじゃ」


 なにがテヘヘだよ! 

 可愛い女の子ならまだしも、ジジイのテヘヘに価値など無い。

 こいつが王様じゃなかったら、俺は一発殴っていたと思う。


「当分の生活費としてお金渡すからそんなに怒らんでくれるかのう?」

「分かりました……じゃああと一ついいですか?」


 とりあえず怒ってばかりでは話は進まないし王様と真面目に話すことにした。


「あと一つ? わしはそう言って真面目な顔をした人間によく告白されてたのじゃ…このまま友達のままじゃ……まてまて、なんで拳にはぁ~って息を吹きかけとるんじゃ? 殴る気か? 殴る気じゃろ!? すごいや! 異世界でもその仕草は共通なんじゃのう!」


 まだお金をもらっていない。

 仕方ない、ここは一旦矛を収めよう。

 しかしあの王様、いやジジイはいつかぶん殴る。

 俺はそう心に強く誓いを立てたのだった。

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