第4話 オネェキャラはベタだが王道
前回エルに愛の告白を華麗にスルーされ、トントン拍子ににおもてなしされる事になった俺は、件の店ヌッチャリーグッチョリーへと案内され、既に店の中に入っている。
道中のことは色々割愛させてもらい、店内の内装を見た上で率直な意見を言わせてもらおうと思う。
「ヌッチャリーグッチョリーってキャバクラかよ!!」
店名の響きだけで、それはもうすんごいお店を想像していた。
もちろん15才でキャバクラで働いているのもおかしいのだが、ひとまずはすんごいお店でなくて安心した。
思いのほか大声になってしまったため、横にいるエルをまた驚かせてしまったようだ。
「また突然大きな声を出してどうしたんですか? 病気ですかでしょうか?」
辛辣ぅ、エルって割と言葉をオブラートに包まない時があるな、心配してくれたのは嬉しいがお兄さん泣いちゃうよ?
「ようこそ! あなたがタケルちゃんね? まぁ! とっても可愛い! お姉さん会えて嬉しいわ」
店の奥から突然声をかけられ、驚いた俺は声がした方向を見て更に驚愕することになる。
お姉さんを名乗るその人物は、髪の毛はカラスの濡れ羽色で艷やかなセミロング。
瞳は怪しい赤紫をしており妖艶な雰囲気を醸し出しているが、身長は目算で2メートル近く、胸元が鳩尾まで大きく開いたエアロビのレオタードのような衣装を身に纏っている。
腕は俺の足よりも太く胸板は鋼のように引き締まっていて、何かでも油を塗っているのか、露出した胸元は謎のテラテラとした輝きを放っているおっさんだった。
そうおっさんだったのだ。
「いやお姉さんじゃねえし! お前の様なお姉さんがいるか!」
「あ゛ぁん?」
獣のような低い声。
そして怪物も逃げ出しそうな睨みを利かせられた。
【ヤクザより怖い】
「ひぇ……何でもないでしゅ……ごめんなさい」
本気で怒らせたら小指一本で殺されると思った俺は即座に謝った。
まさに蛇に睨まれた蛙状態だった。
「もぅ! 冗談よ! それにしても二人は今日会ったばかりなんでしょ? もう打ち解けているなんて、お姉さん嫉妬しちゃうわ!」
「そんなおしどり夫婦のようだなんて……デヘヘ」
「?? 店長はそのような事、仰ってませんでしたけど......」
うわぁ素で返されちゃったよ。
どうやら俺の熱い想いはまだ、エルに伝わってないようだ。
……って店長!?
「私の名前はヌッチャリー。ここの店長よ。よろしくね!」
両腕を折りたため内股になり小指を立てる。
店長はよくあるオネェのポーズをしてキャピキャピしながらクネクネと小刻みに動いている。
ただ腕と太ももの筋肉がぶ厚すぎて、脇と股が閉じきれておらず、オネェのポーズというより空手のサンチン立ちの構えようになっていた。
【ヤクザより怖い】
店名のヌッチャリーはアンタの名前かよ! という突っ込みは怖かったので心で押し殺した。
グッチョリーも人の名前なんだろうか……この世界のネーミングセンスは極端に日本語と相性が悪いらしい。
「立ち話も何でしょ。さぁさぁ座ってん」
俺とエルは店長に案内されるがままにソファーに座った。
が、恐怖のあまりきちんと自己紹介すらしていない事に気づき慌てて立ち上がった。
「御手洗 健と言います。 王様に言われ来ましたよろしくお願いします。」
店長と名乗ったその男に深々とお辞儀をした。
そうするとなぜか横に座っていたエルもつられて立ち上がりお辞儀をしていた。
何この子可愛い……結婚したい。
「そんなにかしこまらないで? さっきのはジョークよ。おねーさんジョーク!」
ジョークとは先程の言動のことか、もしくは存在そのものをさしているのか判断はつかない。
それに畏敬の念をもってかしこまっている訳ではない。
なにか粗相をすれば、殺されるかもしれないという畏怖の念でかしこまっているのだ。
歌舞伎町で勤めていた以上そういう人にも会ってはいたが間違いなく、今まで見てきたどんな人間よりも怖かった。
「タケルちゃんはこの街を盛り上げる為に来てくれたのよねん?キャピ☆」
「今自分でキャピって言ったよ、この人!」
「あ゛ぁん?」
【ヤクザより怖い】
「しゅみません……そうですぅ。盛り上げるために来ました。」
再び蛇に蛙状態になり、突っ込むと怒られるので俺は考えることをやめた。
「突然で悪いんだけどタケルちゃん。うちのお店の相談をしても良いかしら支配人にもそう言われてるし。」
相談内容はやはり、街全体の活気のなさについてだった。
風俗街全体が流行っていないため、当然この店も流行っていない。流行っていないからお客様のいないので活気がないとの事。
経営陣もまずいと判断し、問題の改善のためにお客様と町の人にアンケートをしたそうだ。
で、そのアンケート結果が……
【お客様アンケート】
従業員のサービスがなにかおかしい。
入ってみたがなんのお店なのかわからない。
【町の人アンケート】
奴隷にお金を払ってまで行きたいと思わない。
怖いイメージがある
【お客様アンケート】
店長が(書いたものを消すために何十にも線が引かれている)可愛い
最後の用紙には、水滴が落ちた後のような形跡がある。
涙かな?涙じゃないよね?涙じゃありませんように!
色々な話を聞いたが基本的にマイナスなイメージしかなく、似たような意見が多いのが現状の様だった。
「だからまず接客を見て欲しいのだけど…今はオープン前でエルちゃんしかいないの。この子が接客する事になるけど問題ないと思うわ。お願いねエルちゃん?」
「はい! わかりました。頑張ります!」
良い返事だ。両の手ギュッと握り気合十分の様子。結婚したい。
「ありがとっ! タケルちゃんもお願いね?」
そう言いながら店長が投げキッスをしてきた。
俺は心を躍らせた。
もちろん店長の投げキッスが嬉しかったわけではない。
エルに接客をして貰えると言う天にも昇らんばかりの魅力的なワードが嬉しかったのだ。
ちなみに投げキッスは心の中で華麗に躱している。
「じゃあエルちゃん準備してきて?準備が終わったらタケルちゃんがお客様で入店から始めるわよ!」
「はい! 緊張しますが精いっぱいおもてなししますので、タケル様もよろしくおねがいします!」
なんと健気な娘だろうか。効果はバツグンだ!
嗚呼、初めて出会った時よりも、エルに対してドキドキが大きくなっている。
原因は恐らく、目の前の店長だろう。つまりは吊り橋効果である。
エルのあまりの愛らしさに卒倒しそうになったが、ここは根性で持ちこたえなければいけない。
なぜならエルが店長にビビっていた時の俺ほどではないが緊張しているからだ。
ここはエルの緊張を和らげるのと、好感度を上げるためにも最高にイカすセリフをエルに贈ろう。
「安心しろエル! 俺が優しく教えてやびゅ!」
噛んだ。
舌も痛いが、心も痛い、そして何より俺の存在自体がとてもイタい。
大事なところで噛んだしまったが、エルは既にこの場に居なかった。
どうやら俺が素敵ワードを脳内でこねくり回しているうちに、ここを離れていたのだろう。
エルのつれなさに若干ゾクゾクしながらも、かっこ悪いところを見られずに済んだと安心した。
ふと横を見ると、店長が上腕二頭筋をアピールするポージングをしていた。
【ヤクザより怖い】
そして俺はこの後、この世界のキャバクラがどう言う物なのかを思い知ることとなる。
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