第3話 どうやら下ネタで笑いを取ろうという安直な考えをしているようだ



「あの......大丈夫ですか?」


 目を覚ました俺は天国にきてしまったと思った。

 目の前にまだ天使と見紛う彼女が居たからだ。


 彼女は俺の近くまで来て中腰になり俺の肩を突いている。

 パンツは……惜しくもこの角度からだと見えない。

 心配している彼女を不安にしてはいけないと思い俺は口を開いた。


「結婚してください……あ、間違えた。大丈夫だよ」


 俺が無事を告げると安心したのか、彼女は俺に熱い視線を投げかけてくれた。

 透き通った青い目が少し黒く濁って見えるのは気のせいだろう。

 なにか変なことを言っただろうか? そんな記憶はない。


 もし仮に万が一、いや億が一の確率で蔑んだ目で俺を見ているとしたら…ふむ、悪くない。

 そんなことを考えていると彼女は口を開いた。


「あのぅ......ミタライ様であってますか?」


 軽く首を傾げながら、小鳥の調のような声で俺の名前を口にした。

 俺の名前を知っているのはなぜなのか、王様が風俗街からの付き人を送ると言っていたが彼女がそうなのか?

 やれば出来るじゃないか! 家が質素なんて文句言ってごめんね!


「異世界最高うぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ひっ......なっなんですか突然!」


 どうやら声に出ていたらしい。

 突然大声を出した俺に驚いたのか彼女は後ずさりする形で俺から少し離れた。

 彼女からの質問に答えなければと思った俺は口を開いた。


「結婚してください。なんでもしますから」


 また、間違えてしまった。

 変なテンションから戻って来れない。

 だが俺は悪くない。彼女が美しすぎるのがいけないのだ。


 彼女の瞳は更にどす黒くなりそれはさながら悪魔の瞳だ、まあでもこの子なら天使でも悪魔でも構わない。

 そんな事を考えていると天使は俺からさらに距離を取りながら言った。


「すいません。人違いみたいなので失礼しますね」


 人を人として見ていないようなその眼差しを俺に投げかけたあと、彼女は入って来た入り口に振りかえり歩き出した。


「待って合ってる! だから待って! 俺が御手洗で合ってるよ! ごめんなさい!」


 息を荒げながら言った俺の言葉に対し彼女は立ち止まって振り返りながら俺に対して恐る恐る口を開いた。


「あの......支配人さんから貴方の案内をするように言われてきたんですけど貴方がミタライ様で本当にあってますか?」

「あってるよ!俺が御手洗健だ!だからそんなに怖がらないで?僕は悪いスライムじゃないよ?」


 気を利かせたRPGジョークを付け加えたのに気のせいか俺が口を開くたびに彼女との距離が離れているきがする。

 なぜだろう、そう思った俺は客観的に今の自分を考えてみることにした。


 初対面でいきなり求婚してきた男が、変なテンションで息を荒げている。

 なるほど、不審者じゃねえか!


「失礼なんですけど......本当に貴方が遠い国から来た大賢者様ですか?」


 どうやら俺が異世界から来たということは知らされていないらしい。

 それにしても大賢者って……王様の城で違うと言っておいたはずだが訂正されていないようだ。

 だが、それよりも彼女がだいぶ俺を怪しんでいる気がする。

 ここは誤解を解きつつ自己紹介で話をそらそう。



「色々違うけど合ってるよ! 改めて自己紹介するね。俺は御手洗健、良かったら君の名前を教えてくれないかな?」

「私はリエルと言います。名乗りが遅れて申し訳ありません...分からない事があるだろうから色々と案内するように支配人さんに言われてきました。」


 色々と言う素敵ワードに一瞬妄想を広げそうになったが、また彼女に怪しまれそうなので妄想は夜にする事にした。

 楽しみだ!


「俺のことはタケルって呼んでいいから君の事は何て呼んだらいいかな?」

「かしこまりました。タケル様ですね。私の事はご気軽にエルとお呼びください。あの...先ほどは突然叩いたりして申し訳ありませんでした。」

「大丈夫だよ!俺こそ突然ごめんね?じゃあエルって呼ぶようにするね。あと俺の事様なんかで呼ばなくていいよ!」


 彼女は少し考えた後、困った顔をしながら言った。


「私は奴隷ですので、名前は好きに読んでもらって大丈夫です。ですが、タケル様の事は付き人として呼ばれているので様を付けていないと支配人さんに怒られてしまいます」


 一応王様に色々聞いていたが、やはり奴隷と聞くとカルチャーショックなのか少し衝撃を覚える。

 それにしても困った顔も素敵だ。



「けっこ……じゃあ呼び方の問題はゆくゆく考えるとして付き人で案内するって言ってたけど具体的にどう言うことかな?」


 危ない危ない、また求婚して怖がらせるところだった。


「?? 支配人さんには町の案内や私たちの職場の案内あと身の回りの世話をするように言われています。」


 身の回りの世話か、興奮するフレーズだな。


「身の回りの世話って…?何処までおk」


 またテンションが上がり暴走しかけているとエルの眼の色が変わった気がしたので冷静になった。


「あぁ! ごめん! えっと職場の案内って言ってたけど?」

「はい。タケル様に私が働いてる風俗街の案内をするように言われてます。」

「なるほどね、働いてる風俗街の案内ね! 風俗街の案内……って働いてるって君いくつなの!?」


 王様から関係者とは聞いていたが、働いているのは予想外だ。

 驚いた俺はまた少し声を大きくしてしまっていた。エルは少し驚きながら不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「私の年齢ですか? 今は15歳で、今年で16才になります」

「まてまて、15歳で風俗街で働いてる? おかしくない? 裏のお店なの!?」


 エルは怪訝な顔をしつつ続けて言った。


「裏って言うのが、何なのかわかりませんが...正確に言えば研修中なので働いているわけでは無いのですが...」

「えぇ!? どんなお店?」

「えーっと男性やたまに女性のお客さんが来て楽しんでるお店ですね」


 俺の質問にエルは人差し指をその水々しい唇にあて思案顔で答えた。

 なんて可愛らしい仕草だ。結婚したい。


「私も練習中ですが、最近は昔よりうまくなったと思うんです! たまに来るお客様も楽しんでくれてるみたいですし、もしタケル様さえ良ければ、今からお店に来ませんか? 店長さんにも紹介してほしいと言われているので、私で良ければ精一杯おもてなしさせていただきます」


 そ、そんな駄目だよ。

 俺たちは出会ったばかりで、これでは純情な初体験の夢が儚くも散ってしまう。

 だが、据え膳の前ではそのようなことは些事である。


「ゴクリ……そうだね連れってもらえるかな。」

「?? ありがとうございます。では善は急げと言いますし、準備が出来たら行きましょう。」


 ああ、そういえば聞いてなかった事があったな。


「お店の名前は何ていうの?」


 俺の質問にエルは笑顔で答えた。


「ヌッチャリーグッチョリーって言います。」


 うわぁビチョビチョだなぁ。




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