第14話 編入狂詩曲
最近ジャーフィンに関して困った噂が立っているらしい。
まだ個人の特定には至っていないようだけれど、どうも昼間から学校にもいかないで遊んでいる小学生くらいの女の子がいるらしい、というのだ。
これを知ったのは回覧板からなのだけれども……これってまずいよなぁ。
と、言うわけで『ジャーフィン編入プロジェクト』が発足した。
「で、あたしはどうしたらいいの?」
居間でTVを見ながらくつろいでいるジャーフィン本人は、いまいちこの問題に実感が伴っていないらしい。
「学校に入ってもらいたい」
「ソレって世間体のため?」
いやまあ半分はそうなんだけど……。
「それもあるけれど、何より友達とか社会経験とかいろいろあるじゃない」
「ん~?よくわかんない」
「つまりね、子供時代の思い出というのは後々の宝物になるんだよ」
「やっぱりよくわかんない」
「まあもっと言えば学校って楽しいよってこと。面倒くさいこともあるけどね」
「面倒なのは嫌だなぁ」
「まあまあ、とりあえず入ってみればいいんじゃない?このあたりはここの小学校の学区内なはずだから」
「ん?」
「え?」
「あたしって、小学生なの?」
「え……あれ?ジャーフィンって何歳?」
「何歳って言われてもわかんないなぁ。生まれてからどのくらい経ったかって言ったら……2ヶ月ぐらい?」
「ちょっ……」
そういえばそうだ。ジャーフィンも湊夏さんも俺の能力で今の姿で生み出されたのだから、年齢は設定でしかない。
そう考えると……。
「うーん……ジャーフィンは、何歳がいい?」
「あたしが決めるの!?」
「うん、それがいいんじゃないかな」
「ふーん、じゃあ……20歳以上でお酒飲んだりできるんだよね」
「いやいやいや、それは却下!見た目相応な年齢にして!」
「えー……じゃああたしはどのくらいに見えるの?」
「うーん、俺は小学生の高学年ぐらいだと思ってたけど、そうだなぁ……中学生でも行けるかな」
「高校生は?」
「ぎりぎり……かなぁ?ただ高校への編入はちょっとハードル高くなると思う。入試とかあるわけだから」
「そっかー……。小学校っていうと……校舎が変形するやつ?」
「それはアニメ」
「トイレに幽霊……」
「それもアニメ」
「じゃあ探偵……」
「だからアニメだってば」
「じゃあなにがあるの?」
「そうだなあ……先生がいて、同年代の生徒がいて……」
「さすがにそれは判るわよ」
「いろんな教科を勉強して……」
「例えば?」
「国語算数理科社会なんて言ってたなぁ。あと体育や図画工作、音楽、家庭科とか」
「ふーん?」
「給食もあるんじゃないかな」
「給食?」
「学校側が用意してくれるクラスのみんなと食べる食事だよ」
「美味しいの?」
「俺は楽しみにしてたなぁ。でも地域によっては悪質な業者によるまずい弁当でトラウマになった例もあるらしい」
「なにそれ、全然だめじゃん」
「ま、まあ他にも部活動とかあるし」
「なにするの?」
「いろんな部の中から好きなものを選んでやる授業とは違う活動、かな?スポーツをしたり、絵を描いたり、料理をしたり」
「ああ、湊夏がなってたやつ?」
「いや、あれは活動内容というよりもキャラ付けだし、あそこまで酷いのは現実ではそうそうない……?」
背後に殺気を感じて振り返ると、台所で夕飯当番をしていた湊夏さんが睨んでた。
しばらくお説教されてからの夕飯。
今日は湊夏さんの作った肉野菜炒め。
かつての悲劇の痕跡はもはや微塵も感じさせない三つ星級の腕前だ。
「学校ですか」
食卓を囲みながら、湊夏さんも交えてさっきの話の続きをする。
「編入手続きに必要な書類はどうしますか?」
「そうなんだよなぁ……」
「どういうこと?」
「在学証明書とか、色々いるみたいなんだけどね……」
「なによそれ、最初から躓いてるじゃない」
いやはや面目ない。
「それはそうと結局ジャーフィンは何歳にするのですか?」
「どうしよう。小学生って一番大きくて十二歳だっけ?あたしそんなに子供に見えるかなぁ?」
「中身はともかく、見た目はそのくらいだと思うよ」
「ふーん……」
「中学生だと制服がありますね」
「へー、どんなの?」
「このあたりだとブレザーだったと思うよ。ほらコレ」
近所の衣料品店のサイトからカタログを出してみせる。
「へー、結構可愛いじゃない」
ジャーフィンもこういうのに興味あるのか。
「まあどうせ入れないから着られないけどね」
そ、それはちょっと悲しいぞ……。
どうにかしてあげたいけど、どうすればいいのか全然わからない。
アニメとかでは謎の転校生とか普通に出てくるのに、あれってどうなっているんだろう?
うーん。
その夜……変な夢を見た。
ふわふわした不思議な感覚の中、誰かと話している、そんな夢。
「今回は儂、ちょっと頑張っちゃったよ」
そこで目が醒める。
ああ神様。何を頑張ってくださったのやら……。
仕事を終えて帰宅すると、居間のテーブルの上に大型の分厚い封筒が置いてあった。
「その封筒、大悟あてですよ」
「うん、ありがとう」
なんだろう?宛先は俺で、差出人は……「出臼 真紀那」?
ああ、「デウス・エクス・マキナ」か……。
ずっしり重い封筒の中には大量の原稿用紙に書きつけられたジャーフィンの……これは設定資料?頑張っちゃったって、これのこと?
それに学校編入に必要な書類一式。
なんてコンビニエンスな神様……。
神棚作っといたほうがいいかな。
「ねえ、それってなんなの?」
ジャーフィンが興味深そうに覗き込んでくる。
「君の編入に必要な書類と……設定資料らしい。結構おもしろいよ」
「設定資料?ちょっと見せて」
しばらく読んでいたジャーフィンはやがて立ち上がると、TV脇のペンたてから赤ペンを持ってきて原稿用紙に赤入れを始めた。
「ジャーフィンなにを……」
「この設定はないわー」
キュッキュと小気味良い音を立てて神様の力作原稿に赤入れを進めるジャーフィン。
容赦ないな……。
こうしてジャーフィンの設定資料の、決定稿が完成した。
神様なんかごめんなさい。
翌土曜日の午後、小学校へ編入手続きに出向く。
結局ジャーフィンは自分の年齢を、ついこの間誕生日を迎えた12歳とした。
「どうせなら、小学生もやっておきたいじゃない」
とのことだ。
かくしてジャーフィンは週明けから小学生として生活することになった。
ちなみに神様が書いた設定資料は神棚を作ってそこに奉納してある。
様式が和風だけど、問題ないですよね?
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