第3話 現世界転生(?)
突然世界が光に満ち溢れる。
……。
何のことはない。今、俺はおそらくベッドの上に寝ていて、これまたおそらく数時間かあるいは数日ぶりに目覚め、天井から煌々と部屋を照らす照明を直視しているのだろう。
しばらく眩しさにくらむ目を瞬いていると、次第にその明るさに慣れてくる。
あー……これが『見知らぬ天井』ってやつかぁ。
飾り気のない真っ白な天井には、これまた味もそっけもない、教室やオフィスなどで活躍している直型蛍光灯を二本ワンセットで使った照明が数基並んでいる。
視線を巡らせるとどうやらここはカーテンで仕切られた大部屋のようだ。
意識不明の状態で担ぎ込まれた、どこかの救急病院だろうか。
こういうのって部屋のグレードで料金とか変わるのかな?
そんなとりとめもないことを考えていて、思い出した。
そうだ、俺、トラックにはねられたんだった……。
口元が少し自嘲気味に緩んでくる。
あーあ、なんだよあのへんな夢。
異世界転生モノのラノベやアニメじゃあるまいし、神様とご対面とか……。
アニメの見すぎだよなぁ、俺。
もっとしっかりしないとなぁ……。
微妙に消沈。
それにしても眩しい。
照明がつけっぱなしだけど、窓も時計も見えないから今が何時ごろか、昼か夜かもわからない。
というか、事故からどのくらい経ったんだろう?
手足はもう動かせるのだろうか?
少し試してみる。
左足を少し動かしたところ、問題はないようだ。
だが右足を動かそうとすると少し痛みがある。
どうやら骨折でもしているのだろう、ギプスで固めて吊ってある感じだろうか。
そういえばベッドの足元の方にそんな感じの吊るための器具が置いてあるのが見える。
脚をやっちゃったのか……。
まあ事務仕事メインの俺にはさほど大きな支障にはならないと思うが、通勤は大変かもしれないなぁ……。
体の他の部分はどうだろうと、試行を続けてみる。
左腕は特に問題なく動かせるようだ。
だが、右腕はまるで何か重いものが乗っているかのように動かない。
ああ、なんてこった、利き腕じゃないか。
しかも痛みではない微妙に痺れたような感覚といい、こっちはかなりヤバいことになっているんじゃないのか?
無事退院できても、これでは仕事ができるかわからない。
別に仕事人間のつもりはないけれど、とにもかくにも働けないならこれからの生活がどうなるかわからない。
保険とか大丈夫だろうか。
一応被害者なはずだけど、保障とかちゃんとしてもらえるだろうか。
今の仕事を続けられなくなったら、転職とかどうしようか……。
不安が雪崩のように心に圧し掛かってくる。
変な汗が出てきて、心拍数が上がる。
張り詰めた意識が五感を鋭くさせるのか、周囲の音が心なしか大きく聞こえてくる。
窓を揺らす風の音、廊下を歩く人の足音、多分ナースステーションで鳴っているのであろう電話のコール音、規則正しい誰かの寝息。
……寝息?
隣のベッドの人だろうか?
それにしてはやけに近い。
ふと、右腕の圧迫感が移動した気がする。
どういう症状?俺の右腕はどうなっているの?
首を上げて右腕の方を見る。
右腕自体を見ることはできなかった。
まず掛布団がかかっていたから。
そしてその上にベッドのわきから見知らぬ人物がうつぶせになり、眠っていたから。
……誰?
腰までありそうな長く伸びたストレートの、アニメキャラのような薄紫色がかった光沢のある銀髪。
多少幼さの残った整った顔立ち。
瞼は閉じていて瞳の色はわからないが、睫はきれいに長く伸びている。
穏やかで規則正しい寝息とともにかすかに上下する肩から背中のラインは小柄で華奢な体格を思わせる。
年の頃は二十代になったばかり?もしかしたらまだ十代かもしれない。
……。
いや、だから誰!?
美少女?うん、確かにそうだ。
でもこんな美少女、俺の人生の中で遭遇したことはおろか、ニアミスしたことだってないぞ!?
看護師?いや、看護師さんが患者のベッドわきで寝てるわけないよな。
そもそも看護師だったら服装がおかしい。彼女が着ているのはいわゆるナース服ではなく、快活そうなデニム生地のジャケットだ。
じゃあ、誰!?
物心付く前に生き別れた妹とか、数年ぶりに出会ったら全然印象が変わっていた幼馴染とか、そういったフィクション的存在?
いやいやいやいや。
……。
いやいやいやいや。
現実かどうかも怪しい目の前の状況に俺は狼狽しきって、思考があらぬ方向へと発散していくのを感じる。
どうなっているんだ、どうしたらいいんだ、ここからどうなるんだ?
とにかく俺は右腕のしびれの原因であるこの美少女に恐る恐る声をかけ、下敷きになった腕で揺すってみる。
「あ、あの……」
それに反応したのか、彼女の瞼がかすかに震え、ゆっくり開いた。
その瞳が俺を見つめ、目が合う。
緑がかった瞳がまるで俺の視線を何かの力でとらえたように釘付けにする。
吸い込まれそうな瞳って、こういうことか……。
そして彼女はゆっくりと起き上がり、微笑みながら一言。
「大悟、やっと目が覚めたのですね」
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