第2話 神様登場

 ふわふわする。

 痛みとかは特に感じないから、麻酔されているんだろうか?

 ん?麻酔?なんで?

 ……。

 ちょっと混乱しているみたいだ。

 えーっと、イベントの帰りに横断歩道を渡っていて……。


「目覚めたかのぅ、伊勢原大悟よ」


 突然どこからか声が聞こえる。

 だが周囲を見渡しても誰もいない。

 というよりもあたりは真っ暗な空間だけが広がっている。


 いや、空間というか、真っ暗なので広いのか狭いのかすらわからない。

 にもかかわらず、自分の体ははっきりと見ることができた。

 まるで体が発光しているみたいだ。


 とにかく相手がどこにいるのかわからない。

 姿を見せてくれないだろうか?


「あのー、どなたでしょう?姿が見えないのですが……」


 ……我ながら間抜けなことを口走っている気がする。

 だが相手の姿は相変わらず見えないながらも、すぐに返事があった。


「儂の姿を其方が見ることはできんよ。儂は明確な姿を持ってはおらんのでな」


 なんのこっちゃ。


「姿を見ることができないって……、あなたは誰なんですか?」


 透明人間とかそういうやつ?まさかね。


「儂はいわゆる『かみ』というやつじゃな」


 紙?上?髪?ああそうか、神か。

 なに?神?神様ってこと?

 俺も別に強固に超自然的存在を否定したりはしないけれど、いきなり神様かー。


「そう……ですか。それでその神様が俺に一体何の用でしょうか?」


 ちょっと不遜だったかもしれない。

 逆鱗に触れたりしなかっただろうか?


「其方をここへ呼んだのはほかでもない。其方は残念ながらこの世界での生を終えたわけだが……」


 生を終えた?


「それって死んだってことですか?」


「そういうことじゃ。」


 なんてこった、そりゃないよ神様。


「そこで一つ提案なのじゃが……」


 提案?もう死んでいるのに?


「提案ってなんですか?」


「其方の住む世界とは別の世界へ転生してみる気はないかな?」


 え、それって!?


「もしかして、異世界転生ってやつですか!?」


「そうそう、アニメとかラノベとかでもよくあるじゃろぅ?」


 そういうこと、ほんとにあるのかー、って!神様アニメ見るのかよ!?と心の中で思わずツッコミ。


「それはあれですか?異世界に転生するにあたってなにか特殊な能力を頂けるとかいう……」


「その通りじゃ。いや其方は話が早いのぅ。なので望むものがあれば、それを……」


 と、突然どこからか鐘の音が聞こえてくる。

 教会なんかで聞くイメージのあるやつだ。


「ありゃぁ」


「どうしたんです、神様?」


「いや、たった今、今期の転生枠が全部埋まってしまってのぅ。悪いがこの話はなかったことに……」


 ……?

 ……。

 ……!


「な、なんだそりゃ~~~!」


 一瞬何を言っているのかわからなかったが、理解すると同時に思わずツッコミを入れてしまった。


「いやいやいやいや、神様!いくらなんでもそれは酷いんじゃありませんか!?こんだけ期待させておいて、残念でしたって!」


「まあ其方の言い分も尤もだとは思うのじゃがな、何分枠が一杯になってしまってはなぁ」


 神様何言ってるの!?


「ていうか異世界転生に『枠』だの『期』だのがあるんですか!?」


「何事も過ぎたるは及ばざるが如しと言ってな、際限なく転生させるわけにもいかんのじゃよ」


「じゃあ俺はどうなるんです?次の期までここでふわふわ待ちぼうけですか!?」


 こんななにもないところで、それは嫌だ。


「いや、其方はこのまま通常枠で現世に転生してもらうことになるかのぅ」


「どういうことです?通常枠って」


「今世を終えて、新たに生まれ直すということじゃなぁ」


「……それってつまりフツーに死ぬってことじゃないですか!?」


「そういうことになるのぅ」


 もっと悪いよ、それ!


「だいたい今の感じだと他でも候補者と話を進めてたってことじゃないですか!それってダブルブッキングですか!?神様的にそういう雑な仕事はありなんですか!?」


「いやはや、面目ないのぅ」


 この神様、ゆるすぎる……。


「そもそも候補者として連れてこられたってことは、俺が死んだのは神様のせいってことじゃないですか!?そんなの酷すぎでしょう!」


「そういうわけでもないんじゃがなぁ」


「俺だってこれからの人生いろいろやりたいことも……まあなかったわけじゃないんですから!それを残念でしたで済ませられたら、かないませんよ!」


「ふむ、なるほどのぅ……。では現世に戻すということでどうかの?」


「いやいやいや、ただ戻すだけってのもさすがに酷いでしょう!誠意が見えませんよ!なんかもっとこう他にないんですか!?」


「ふーむ、確かに。では其方にひとつだけなにか望む能力を与えるとしようかのぅ。ただし其方の現世をあまり混乱させるわけにはいかんので、あまり強力なものは無理じゃがな」


 おお!?なんか意外な譲歩を引き出すことができた!

 もしかして俺って交渉上手?


「どんな能力が良いかの?」


 ここは思案のしどころだ……。

 俺が行くのは元の現実世界だからバトル系の能力なんていらないし、変身とかテレポートみたいな能力も上手く使いこなせるかどうか。

 技術系や知識系なら堅実で役に立ちそうだけれども、そういうのよりももっと独特で夢のある感じの……。

 よし、ダメでもともと!


「……じゃあ、こういうのはどうでしょう?俺が考えた理想の嫁を創り出す能力っていうのは」


 どうだろう、強力なものはだめって言ってたけど……人を作り出すって結構影響あるかもしれないし。


「ふ~む……よかろう」


 あれ、あっさり許されたよ。ちょっと拍子抜けだなぁ。


「そうですか!ありがとうございます!」


 じゃあさっそく理想の嫁について考えないとな……さてどうしようか。


「では其方、現世へ戻るがよい。残りの人生に幸多からんことを願っておるぞ」


 え、ちょっとまって。まだどんな嫁にするのか考え中





-暗転-

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