第1537話 ユートさんから植物の話を聞かれました



「む……閣下とタクミ殿となると、面白そうな話が聞けそうな気はしますが、わかりました」

「はい!」

「ティルラちゃん、汗で冷えないように気を付けてね」

「もちろんです!」

「……タクミ殿、私には言ってくれないのか?」


 いや、エッケンハルトさんは風邪とか引きそうにないですし、動いた後の対処は慣れたものでしょうに。

 ティルラちゃんと同じように言って欲しかったのか、寂しそうに背中を丸めながら屋敷へと入っていくエッケンハルトさんを見送った。


「レオやリーザは……」

「あぁ、別に大事な話とかじゃないから……ある意味大事かな? でもまぁ、レオちゃん達が気にする程じゃないからね。タクミ君と一緒にいたいならここにいてもいいし、先に戻っていても構わないよ」

「それじゃ、レオとリーザは先に部屋に戻っていてくれるか? 話をするだけみたいだし」

「ワフ!」

「うん、わかったー!」


 ユートさんの言うある意味大事、というのがどの程度かわからないけど……まぁレオとリーザにはあまり関係ない話みたいだし、ここで一緒にいても退屈だろうから先に戻ってもらう事にした。

 あと、リーザも素振りに参加してグルカナイフを元気よく振るっていたため、汗だくだから体を冷やさないようにだ。

 ライラさんに言えば、お風呂に入れてくれるか体を拭いてくれるだろうし。

 汗が出ているのは俺もだけど、まぁタオルで拭きながら話を聞こう。


「それでえっと、俺に話っていうのは? 森での異変と関係があったり?」


 レオとリーザも見送って、汗を拭きつつユートさんに聞く。


「いやいや、それとは全然別の話。タクミ君、ドクダミって知ってる?」

「ドクダミ? まぁ……ドクダミ茶とか有名だし、知ってはいるけど」


 ドクダミという植物を使ったお茶の事は、俺も聞いた事がある……飲んだ事はないけど。

 かなり癖があって、好む人は少ないらしいが体にいいとか、その癖を好む人が愛飲していたり罰ゲームのために使われたりとか。

 まぁ、罰ゲームは青汁の方がよく使われているイメージだけど。


「飲んだ事はないかな。よく飲むのは、もっぱらコーヒーだったから」


 主に、カフェイン摂取のためだけど。

 眠気覚ましに飲む事が多く、味も好きだ……最初は苦くて忌避していたけど、いつしかあれがないとという体になってしまった。

 こちらに来てからは、必要がなくなったので代用のダンデリーオン茶を飲んだりするくらいか。


「あぁ、違う違う。ドクダミ茶の方じゃなくてね、ドクダミって植物の事だよ。まぁお茶の方を知っているって事は、ドクダミを知っているって事でもいいのかな?」

「植物の方……まぁ一応知っているうちに入るかな。どういう植物かまでは、わからないけど」


 お茶になるくらいだから、ドクダミが植物って事は当然知っている。

 けどそれがどんな見た目か、とかまではわからない。


「育てている人も周囲にはいなかったし……」

「あれを育てるのは、あんまり多くいないのかもね。結構臭いがあるみたいだし。僕も日本にいた時に聞いた事があるくらいだけど……」


 ユートさんが聞いた話では、ドクダミは臭いがそれなりにあるため好んで栽培する人は、そんなに多くいないかもしれないとの事。

 むしろ手入れいらずで繁殖力が強く、駆除する対象としての印象が強い人も結構いるのだとか。

 地下茎が長く横に伸びるため、地上の葉や茎を取り除いても除草できず、放っておくとミントや竹とまでは言わなくても勝手に増えるらしい。


 ちなみに、ミントは繁殖能力の強さが高くて有名だけど、制御するのは実は難しくない……手間ではあるし、怠ったら大変な事になるけど。

 けど、竹はその制御が難しくコンクリートすら突き破る地下茎を持っているので、実は最強の繁殖力とも言えるんだけど、まぁこれは余談か。


「僕はその場にいなかったけど、今朝悪臭事件があったじゃない? それで、思い出したんだよ」

「悪臭事件って……まぁ、レオ達にとっては事件と言いたいくらいの出来事だったかもしれないけど」


 ヤイバナが原因で、逃げ惑うフェンリル達や、レオとラーレによる焼却処分など、ちょっとした興味で試した事が、大きくなってしまったのはユートさん達にも知られている。

 というか、騒ぎを聞きつけたエッケンハルトさん達が、笑いながら屋敷から出てきたからね。

 面白そうなことに首を突っ込もうとするのは、大公爵と公爵としてどうなのかと思う……セバスチャンさんとルグレッタさんが同時に溜め息を吐いていたし。


「ドクダミって、今朝の……ヤイバナだっけ? あれ程ではないけど、独特な悪臭を放つんだよ。それで思い出したんだけどね」

「あぁ、臭いを放つ植物って事で記憶が刺激されたんだ」

「そうそう」


 お茶に癖があるのはその悪臭が原因なのか、俺にはわからないけど……悪臭、というからにはそれなりの臭いなんだろう。

 ヤイバナの件があるから、そのドクダミをちょっと作ってみようか、となる程の興味は持てないけど。


「そのドクダミなんだけどね、ちょっと特殊な薬草なんだ。こっちではジュウヤクと呼ばれているんだけど」

「薬草? ジュウヤク……」


 頭の中ですぐに、重役という文字が浮かんだけど薬草、つまり薬になる植物であるなら違うだろう。

 多分……十薬、かな。


「こっちに来ていた、タクミ君以外の日本人。まぁジョセフィーヌさん程じゃなくても、かなり昔にいたんだ」

「もしかして、武士道の本を書いた人?」

「うん、その人。歴史好きでねぇ、侍とか武士道にもかなりの関心があって、日本にいた時はかなり調べていたみたいだよ」


 孤児院に残っているらしい、ニコラさんが武士道に目覚めるきっかけを作った本、それを書いた人かぁ。

 影響を受けていて口調にも反映されているニコラさんだけど、武士と言えば、侍と言えば、という物語でもよくあるコテコテの武士語をあまり使っていないのを考えるに、日本人が書いたんだろうな、と思っていた。

 まぁ、そのコテコテの武士語を使った物語を書くのも、日本人が多かったりもするんだけど。


 とはいえ、海外の人のイメージで書かれたものではないんだろうなとは……語尾にござるを付けたりとかな。

 まぁ自分の事を某(それがし)とか、エッケンハルトさんの事を御屋形様とか、時代がかった言葉遣いはしているけど――。



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