第1536話 フェンリル達に注意をしました



「今日はさっきまで一度もなかったので、大丈夫だと安心してもいました。ですが……」


 まさか、俺に向かって木材が飛ぶとは思っていなかったんだろうし、ガラグリオさんは責められない。

 一応の注意はしていたんだし。


「ガラグリオさんは気にしないで下さい。ただ、今後同じようにフェンリル達に関して困った事があれば、報告して欲しいです」

「は、はい! 必ず!」


 フェンリルに関する全てを報告、というわけではないけど困った事や、強く言えない場合は俺に任せて欲しい……確実に俺の言う事を聞いてくれる、というわけじゃないかもしれないが、注意するくらいはできるし、解決策を考える事だってできるから。

 報連相は大事だ。

 それに木材が飛んで行く事だって、フェンリルにとってはなんでもない事で、対処も簡単にできるとしても、もしそれが今回のように誰かに向かった時、恐怖心を与える事になってしまいかねない。


 飛んで来る速度は、あくまで目測だけど数十キロはくだらないうえ、回転は長さ二メートルはある物が速すぎてゆっくり回転しているような目の錯覚が発生するくらいだだったし。

 人の腕二つ分以上はある太さの木材から、激しい風切り音が聞こえるってなんだろうな……。


 とにかく直接的な被害はなくて、数十メートルという距離があるからよかったけど、それだけでも恐怖心どころか、トラウマを植え付けられかねない。

 他の魔物を圧倒する身体能力や魔法といい、フェンリルって本当に強い魔物だからこそ、加減とかも含めて考えないといけないんだなと改めて思った。

 そのフェンリル以上らしいレオは、屋内で生活しているけど……かなり加減したり気を遣って動いてくれているんだなぁ。

 子供達と遊ぶのはフェンリルも一緒だから、そちらでもちゃんと加減しているんだろうけど。


「いいか、並んで歩く時……走る時もだけど、できるだけ毛がお互いに当たったりしないよう、距離を取っておく事」

「ガウ!」


 建築のお手伝いをしてくれているフェンリル達を集め、お座りしてもらってそれらの前に立ち、注意をしていく。

 車間距離ならぬ、フェンリル距離? を取る事で、尻尾などが当たって変な刺激で事故を起こさないためでもある。

 まぁ、走っている時はお互い適切な距離を取っているようなのは、何度も見ていて知っているし、かなりの速度で走っていても密集している木を縫って走れるみたいだから、念のためだけど。


「人を傷付ければ、怖がられてもう遊んでくれなくなったりもするから、これも注意な?」

「キューン……」

「クゥーン……」


 遊んでくれなくなる、という部分に高い鳴き声を出すフェンリル達。

 そこは狼じゃなくて、犬なんだな。

 ただ、絶対に人を傷付けるな、とは言わない。

 もしフェンリルに何かしようと考える人だっているかもしれないし、直接フェンリルにと考えなくても、近しい誰かを傷付ける人がいるかもしれないからな。 


 フェンリルの自衛も考えて……とはいえ、全力でとかではなくできるだけ加減をして、多少の怪我は仕方ないかもしれないけど、動けなくして捕まえる程度とは一応伝えておいた。

 まぁ、ユートさん以外で、フェンリルが複数いるところに何かしでかそうと考える人は、ほとんどいないだろうとは思うけど。

 一体でも全力で戦うフェンリルを相手にする場合、人間側は軍隊を用意しなければ、と以前エッケンハルトさんが言っていたくらいだからな。


「あとはそうだな……並んで歩く時は、距離も大事だけど……」


 真っ直ぐ一列に並んでいるから、真後ろにいるフェンリルに尻尾が触れたりする事故が起こるわけで。

 なら、ずらして歩けばそんな事故も起こらない。

 念のため距離は取るようにして、フェンリルに言って別の並び方を試してもらう。


「うん、これなら尻尾を振り回しても大丈夫だろう。くれぐれも、注意は怠らないようにな?」

「ガフ!」

「ガウ!」


 威勢のいい鳴き声を上げるフェンリル達。

 今フェンリル達は、俺の言った通りに並んでいる……勝手に命名、フォーメーション一、二、一、二(いち、に、いち、に)だ。

 先頭に一体のフェンリルを配置し、その後ろには二体のフェンリルが距離を離して横並びになる。

 さらに後ろはまた一体でその後ろは二体。


 そうする事で、正面から見たら三体並んでいるようにも見えて、一番自由に動いてしまう尻尾の真後ろには何もない状態が作り出せるわけだ。

 ちゃんと注意していれば、事故は起こらないだろうけど……その注意を覚え込むために、以後はこのフォーメーションを基本にして動くようにしてもらった。

 何故かこのフォーメーションを伝えている時に、フェンリル達が全て尻尾を激しく振って楽しそうだったけど、気に入ってくれたなら良かった、かな。

 こういった、群れでの行動や統率の取れた動きとかが好きなのかもしれない。



 フェンリル達の注意やフォーメーションの確認を終えた頃、屋敷からリーザとティルラちゃんを乗せたレオが夕食だと呼びに来てくれた。

 わざわざありがとう、とお礼を伝えて撫でた後、ガラグリオさん達にも夕食だから作業を切り上げるように伝える。

 それと同時に、木を削る作業が全て終わったと向こうから伝えられた


「……もう終わってしまってたかぁ」


 もう少しやれただろうに、とちょっとだけ残念に思いながら呟き、ちょっとだけ肩を落としたのをレオに心配されながら、リーザやティルラちゃんにやっていた事を話しつつ、屋敷へと戻った。

 ただ、レオは後でフェンリル達に物申したい様子だったけど……多分、木材を飛ばした事に対してだろう。

 俺から注意もしておいたからと、あまり強く言わないようにとは伝えておいたが、どうなるやら――。



「そういえばさ、タクミ君」

「ん?」


 建築の手伝いをしたり、フェンリル達への注意を終えた後の夕食。

 さらにそれが終わって、そろそろ寝る前の素振りも再開しなければと、エッケンハルトさんやティルラちゃんと話して終えた後、屋敷へ入ろうとする俺に見物していたユートさんから話かけられた。


「あ、ハルトとティルラちゃんは先に入ってていいよ。僕はちょっとタクミ君と話があるから」


 ユートさんへと体を向ける俺とは別に、一緒にいたエッケンハルトさんやティルラちゃんも立ち止まったのに対し、気にしないでという風に手を振って言った――。



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