第1538話 別の日本人が見つけた植物のようでした



「んでその人、幸村っていうんだけど……」

「幸村? それってもしかして」

「うん、日本人なら多くの人が聞いた事のある、真田幸村だね。いや、当然別人だし偽名なんだけど。本名はなんだったかな……僕も面白くなって、幸村って呼んでいたから。確か、薫とか渚とかだったと思うけど」

「忘れたらかわいそうな気もするけど、本人が偽名を名乗っていたなら、いいのかな?」


 薫、渚……本当にそのどちらかなのかはわからないけど、その人は女性っぽいな。

 歴女、というのがあるくらいだし、歴史好き、武士好きの女性がいてもなんらおかしい事はない。

 真田幸村も、フィクションの影響で女性人気があったし。


「その女性は……」

「待って待ってタクミ君。幸村は男だよ」

「え……? あ、そうなんだ」


 紛らわしい……でもそうか、薫とか渚って中性的で男性にも使える名前か。

 まぁ本当にその名前ならだけど。


「じゃあ、幸村に憧れてかな」

「うん、確か本人はそう言っていた気がするよ」


 真田幸村の幸村という名は、創作だとか正しくは別の名だと言われているけど、だからこそそれを偽名に使ったのかもしれない。

 自分の名前が好きじゃなくて、偽名を名乗るのに正しくはないけど有名な名前として。

 大体想像ではあるけど。


「んでまぁ話を戻すけど……その幸村がね、ある程度薬草にも詳しかったんだよ。歴史を学ぶ上で、だったんだと思うけど」

「まぁ、日本は山も多いし、水源も豊富だから植物は昔から多かったから」


 古くは聖徳太子が薬草と薬を扱う施薬院を作った、とも言われているし、それより以前から日本人は植物で病などに対抗して生活してきた民族……だと思う。

 だから、歴史を調べれば植物に関しての記述とかも、もしかしたらあるのかもな。

 俺は自分から歴史を調べるまではやっていないから、わからないけど。


「日本史専門、って本人が苦笑いしていたから、詳しいのも日本の薬草ばかりだったけどね。ともかく、その幸村がこちらの世界で発見したのがジュウヤク。見た目とか臭いがそっくりだったんだって」


 発見して名付けたわけだな。

 ドクダミではなく、ジュウヤクというのは多分別名とか日本名とか、薬草としての名前だったりするんだろう。


「それで、そのジュウヤクが一体?」

「ついつい、余談が長くなっちゃってたね。幸村が見つけたんだけど、数が少なくてねぇ。日本のドクダミだと、いくらでも繁殖するはずなのにとは言っていたけど、こちらではそうでもないみたいなんだ。だから、少数なら見かける事はあっても一般には出回っていない」

「こっちでは繁殖しないんだ。うーん」


 土などが合わないためか、それともジュウヤクがそもそも日本の物とは別なのか。

 いや、そっくりだけど効果のかなり強い薬草があるんだから、こちらの世界では繁殖力が弱い物なのかもしれないな。


「だからね、そのジュウヤクをタクミ君に作って欲しくて。色々便利なんだよ」

「便利……そういえば、効果とかはどうなんだろう? ドクダミに似ている見た目と言われても、俺は詳しくないから」


 ドクダミ茶が健康にいい、というのは聞いた事があるけど、具体的にどういう効果なのかは知らない。

 そもそも、こちらの世界では違う効果だったり、強い効果だったりするし。


「臭いが強いなら、ヤイバナの事もあるし……あまり作りたくないんだけど」

「僕は近くにいなかったからわからないけど、すごい臭いだったみたいだね。でも大丈夫、ちゃんと取り扱いに注意すれば、臭いはそれほど気にならないよ。まぁレオちゃん達のように、嗅覚が鋭いならあんまり近付かない方がいいだろうけど。人間なら、鼻に近付けて嗅がないとそこまできついと感じないくらいだね」


 悪臭とはいえ、強い臭いでヤイバナみたいに広範囲に広がり過ぎるような事はないみたいだ。

 なら、レオ達には近づかないよう注意しておけば大丈夫かな? 鼻を近付けないと、というくらいならレオ達の場合少しくらい離れていても嗅いでしまいそうだけど、ヤイバナのような事にはならないだろう。


「それで、ジュウヤクの効果なんだけど……消毒なんだ」

「消毒? それって、アルコール消毒みたいな?」


 消毒と聞いてすぐに思い浮かぶのはそれだ。

 手洗いうがいだけでは、どうしても取り除けない菌を減らす方法。


「同じような物として使えるね。消毒……殺菌とか滅菌とか、色々あるけど。うーん、殺菌、滅菌、除菌、抗菌……イメージとしては殺菌消毒が近いかな? 言葉の意味としては微妙かもしれないけど」

「殺菌消毒。それじゃあ、ジュウヤクがあれば病気の予防に?」


 飛沫感染はともかく、接触感染で多いのはやっぱり手に付いた菌からだ。

 手で誰か、もしくは何かを触ってそれから自分の口や鼻、目などに触れて感染する、というのが多いはず。

 手の消毒ができるなら、それらを極力減らす事ができる。


「タクミ君は、薬草とか薬を扱っているから、どうしても病気の方に考えが偏りがちだね。まぁ、広がった疫病への対処とかしていたみたいだから、仕方ないんだろうけど。それに、僕が求めているのも大きくは違わないけど」

「確かに、そうかもしれないけど……それじゃ、どういう目的でそのジュウヤクの殺菌消毒の効果が?」


 ヘルサル周辺や、ランジ村で起こった病の流行。

 発端はともかく、直接病にかかった人達を見たし、対処のための薬草を大量に作ったのもあって、そちらにばかり意識が向くのはユートさんの指摘通りだろう。

 それに、薬を作ったりして怪我や病気に対しては、少し敏感になっているのもあるかな。


「卵だよ、タクミ君」

「卵……もしかして!?」

「多分、タクミ君も思い当たったと思うけど、卵は消毒しないといけない食べ物、だよね?」

「まぁ……日本にいる時はどこでも売っているような物だし、卵を使った料理もありふれているからあまり意識はしていなかったけど」


 保存、という意味だと生のままの卵なんだけど、食べるとなった時にこの世界では火を通すのが当たり前。

 生卵を食べられるように火を通すという認識だし、それが当然になっている。

 だから、ヘレーナさんと料理の相談をする時も卵は生では使わないし、使えない。

 食中毒は怖いから、当然の事でもあるかな――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る