第1532話 フェリーへのお願いと建築の手伝いに向かいました



「では、エルミーネさんにクレア様の着替えをお持ちするよう、伝えて参ります。チタさんはそのままレオ様を。ジェーンさんはクレア様にタオルをお願いできますか?」

「お任せ下さい!」

「すぐに!」


 という風に、他の人達への指示も欠かさないし、エルミーネさんにも自分で動いて行ったり。

 本当になんとなくだけど、少しだけ張り詰めているような気がして、頑張り過ぎていないかだけが心配だ。

 ほんのちょっと、初めて会った時のゲルダさんに似ているような気がしなくもない。

 緊張し過ぎているわけではないんだけど、もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃないかな?



 お風呂から上がった後は、ライラさんの心配をしつつも俺がそのままだとクレアが出て来れない可能性もあるので、レオをブラッシングしているメイドさん達に見られないように、物陰で手早く着替える。

 子供達は皆、お風呂上りのフェンリル達の所に行ったと報告を受けつつ、気持ちよさそうにブラッシングを受けるレオを任せ、俺は屋敷の外へ。

 ガラグリオさん達、フェンリルの小屋を作るのを手伝いにだな。

 その前に……。


「小屋の中で過ごすのは自由だけど、暴れて壊さないように。あと、資材を運ぶのはもう手伝ってもらっているけど……。あ、それからペータさん達と一緒に、森に入るフェンリルを数体を……」

「グルゥ、グルル」


 先に庭へと向かってリーザとフェリーを呼んで、伝えておくべき事や注意点を話す。

 小屋を壊さない事、小屋作りの手伝いに関する事、さらに森に入って畑を区切るための木々を持って帰るのに協力してもらう事などを伝えた。

 フェリーは、特に何か不満そうにするでもなく、それくらいは当然という様子で頷いている。

 人と一緒に暮らす、共存するうえでの心得みたいなのもわかっているみたいだ、やっぱりフェンリルは頭がいい。


 まぁフェリー曰く、暴れないのは当然だしそんな事させないと通訳のリーザ越しに言っていた。

 のんびり屋が多いように見えるフェンリルだから、暴れるとかは俺もあまり心配していなかったけど、そう言って確約してくれるのは助かる。

 基本的に敵意には人より敏感らしいので、それがない人達に囲まれて過ごしていて学んでくれたのかもしれない。

 別邸でも、しばらく一緒に過ごしていたからな。


「そうだ。畑なんだけど、今だけは自由に掘っていいみたいだ。むしろ、掘って欲しいってお願いされた」

「グルゥ!?」


 掘っていい、と言うとフェリーは尻尾を振って大きな反応。

 遠慮していた部分もあるのかもしれないけど、それが自由にと言われて喜ばしく感じているのかもしれない。


「さすがに、掘り過ぎは良くないと思うけど……深さや場所とか、詳しくはペータさんからな。まぁ、フェリー達は人の言葉はわかっても、ペータさん達の方はわからないから、通訳が必要な時は、俺とレオか、リーザ。あとデリアさんを呼べばいい」

「グルゥ、グルルゥ」


 俺とレオがセットなら、レオを通して通訳が可能だし、リーザやデリアさんは直接通訳できる。

 他にもクレアとシェリーも俺と同様だけど、シェリーはともかくクレアはクレアでやる事があって忙しそうだし、ペータさんとか畑に関しては俺の担当だからな。

 ちなみにシェリーは最近、父親のフェンではなくフェルに懐いているようで、よく一緒にいるのを見かける。

 時折、フェンの方から険しい視線が放たれていたりもするけど……フェルはそのうちブレイユ村に行くから、期間限定だろう。


 後シェリーは、もう少しランジ村で懐かれたマルチーズの方を構ってやった方がいいかもしれない、シェリーと会えない日は、落ち着かない様子だとハンネスさんから聞いたりもしたから。

 それはまぁ後で話すとして……ペータさんはデリアさんと同じブレイユ村からきてもらっているし、デリアさんの方が気安いかもしれないけど、タイミング次第だな。

 デリアさんにも手が離せない事だってあるし。

 そのデリアさんは今、子供達とティルラちゃんに混ざってフェンリル達と一緒にいる。


 相変わらず子供達の扱いが上手いけど、目的はそちらではなくフェンリル達との交流を深めるとからしい。

 時折、俺の方を見て耳や尻尾を忙しなく動かしているような気がするのは、多分気のせいだ……撫でて欲しい、とかかもしれないが。

 ともあれ、フェンリル達にはフェリーの方から伝えてもらうように言って、ガラグリオさんの所へ急いだ。

 ……早くしないと、夕食になって手伝えないなんて事になりかねないし。



「それじゃ、ガラグリオさん。よろしくお願いします」


 小屋の建築で、監督役になっているガラグリオさんに頭を下げる。

 

「タクミ様に手伝ってもらわなくても、いいんですけどねぇ」

「いえ、全てを任せっきりというのも悪いですし。多分、性分なんですよ」


 ガラグリオさんとしても、雇い主の俺がいるとやりにくいのかもしれないけど、お願いするだけしておいて全部やってもらうのは性に合わない……というか落ち着かない。

 こればっかりは、変えようにも変えられない性分なんだろうなぁ。

 お願いされたら断れない、という部分は少しずつ変わってきているとは思うけど……まぁ断りたいようなお願いはほとんどされないけど、ユートさん以外。


「あ、もちろん、ガラグリオさん達に全部任せられない、というわけではないですから!」

「ははは、わかっていますよ。伊達に年を取っていません。まだ短いですが、タクミ様がどんなお人柄なのか、少しはわかっているつもりです」


 言い方的に誤解されてはいけない、と思ったけどガラグリオさんはわかってくれていたようだ。

 ただこれまでの言動から、結構大袈裟に考えているような気もするけど……まぁいいか。

 とりあえず今は、フェンリル小屋の建築が優先だ。


「ありがとうございます。それで……力仕事の方は、人手がいらなさそうですね」

「そうですね……俺達も驚いているんですが、かなり助かっています」


 ガラグリオさんと目を向けた先、そこにはフェンリル達が二体ずつ並んで、木材を背中に乗せて誇らし気に歩いて来る姿があった――。



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