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第1529話 レオから逆にお風呂を勧められました
第1529話 レオから逆にお風呂を勧められました
「はい、是非!」
「ははは、まぁこちらが落ち着いてからだけど」
今すぐ行きたい、と言わんばかりのクレアはティルラちゃんへの心配はどこへやら、勢いよく頷いた。
なくなったわけじゃないはずだけど、楽しそうな事、嬉しい事があるとそちらに夢中になるのは、リーベルト家の特徴なのかもしれない。
エッケンハルトさんとか、ティルラちゃんもそうだし。
「それはそうと……レオ、水風呂とかにはもう入ったのか?」
話を続けるのがなんだか照れくさくなってしまい、レオの方へと話しかける。
まぁ、あれ以上続けると、お風呂場の中でデートの内容を話すとかなにしているんだ? って状況になりそうだったからな。
「ワウワフ」
「そうか、まだだったか。まぁフェンリル達を見ているのも大変だっただろうから……」
フェンリル達よりも、子供達に泡だらけにされないようにする方が大変っぽかったけど。
それはともかく。
「それじゃ、一度入ってみたらどうだ? 体が冷えるとかなら無理強いはしないけど……川は好きだろ?」
水風呂、とは言っても冷たすぎないようにお湯も足されているので、川みたいに冷水ではない。
だから今以上に冷えるなら別の機会でと思うけど、それ以外でレオが自然じゃないとかで嫌がるなら、無理に入る必要はないかもしれない。
ちゃんと洗われて、毛の汚れは落ちているみたいだし。
「ワフ……ワウゥ?」
俺やクレアを窺い、水風呂の方へと視線を向けるレオ。
体が冷えてはいないけど……と言うように鳴いているみたいだ。
「とりあえず入ってみて、嫌ならすぐ出ればいいんじゃないか? 広いし……まぁさすがに川とは違うけど」
川のようにレオの体の大きさでも、自由に泳げるくらいの広さはさすがにないけど。
それでも水風呂は、人間の俺からするもうお風呂というより、プールと言える大きさだ。
多分、日本のちょっとした部屋ならスッポリ入るくらいの大きさだな。
まぁ別邸での浴槽はそれ以上に大きかったし、水風呂じゃなく俺達が浸かるための浴槽も別にあって、そちらもかなり大きいんだけど。
さっきまではさすがに手狭に感じはしたけど、フェンリルが三体とレオ、さらに使用人さんや子供達が一度にいれられるのだから、ちょっとした大きめのお風呂施設と言えるだろう。
露天風呂がないのが少し残念だ。
「ワゥ……ワッフ!」
少しだけ考えていたレオだけど、やる気になったのか俺に顔を向けて頷いた。
お湯に浸かるのは嫌でも、水なら大丈夫だと判断したんだろう。
「お、入ってみる気になったか。それじゃ……ん?」
「レオ様?」
「ワフ」
早速レオを水風呂へ連れて……と思ったら、何故かレオは俺とクレアの背中を鼻先で押して近付ける。
何がしたいんだ?
「ワウーワフワフ! ワッフワフ」
「え、ちょっとそれって……」
レオはどうやら俺とクレアにも一緒に入れ、と言うように鳴いた。
さすがに水風呂ではなく、別の温かいお湯の方にとも言っているけど。
「タクミさん、レオ様?」
レオの言葉が直接わからないクレアは、首を傾げているけど……そのまま伝えていいのかどうか。
一緒にって事は、混浴になるわけだろ?
俺もクレアも、ここに来る前にそれぞれ濡れてもいい服に着替えては来ているけど。
でもさすがに、同じお風呂に浸かるというのはなんというか、色々駄目な気がするんだけど。
「ワウゥ? ワッフワウワフ!」
「いや、そりゃレオは気にしないだろうけど……」
何を俺が気にしているのか、わからないレオは首を傾げた後に、早くと急かすように俺の背中を押す。
男女でお風呂になんて気にするのは人ぐらいだろうから、レオにとってはよくわからない事なんだろう。
いつもレオと一緒に入った後は、俺がお風呂に浸かっているのを知っているし、嫌いではなくむしろ好きなわけで、だからレオから見たら尚更不思議なんだろう。
「……一体どうしたのですか、レオ様もタクミさんも」
「あー、えっと……」
力強くはないけど、レオに背中を押される俺とクレア。
何故押されているかわかっていないクレアは、わけがわからず戸惑うばかりだ。
どうするか……覚悟を決めて一緒に入るか? いやでも……というかその前に、クレアに説明しないとな。
最低限、レオが何を言っているのかは伝えないといけないし、言っていいものか悩むけど、レオが誤魔化す事を許してくれそうにない。
「えっとね、クレア。落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
レオが俺とクレアも一緒に、と望んでいる事を伝える。
「っ! わ、私とタクミさんが、一緒に……ですか!?」
一瞬で顔を真っ赤に染めて驚くクレア。
そりゃそうなるよなぁ。
別に裸というわけでもないし、ただお湯に浸かるだけ……極論を言えば、温水プールに男女混合で入るようなもの……かもしれない。
とはいえ、現在他の人達はフェンリル達にかかりきりのため、俺とクレアしかいないわけで。
感覚としては、プールに入るだけと思い込もうとしても、難しい。
そもそも、クレアにはプールに入るという考えがほぼないと思うからな。
……さすがのユートさんでも、遊泳するためのプール施設を作っているとは思えないし。
「ワフ、ワッフ。ワフー!」
「あ、ちょ、こらレオ!」
「レオ様、ちょ、ちょっと待ってくださ……!」
俺とクレアの戸惑いや照れ、恥ずかしさ等々……諸々の感情を無視して、少し強引になったレオが背中を押す。
抗議や止めようとする声も無視だ。
レオめ……俺に水とはいえお風呂に入れと言われて、実際今日洗われているのもあって、仕返しをしようみたいに考えているんじゃなかろうか?
いや、クレアと一緒にお風呂だなんて、嫌なわけないというのが男としての感想ではあるから、仕返しにはならないような気もするけど。
ただ俺の感情やクレアの感情は、まだ整理が付いていないから云々かんぬん……。
あれこれ考えている間に、レオは俺達をお湯の方の浴槽へと押して行った――。
「その……タクミさん?」
「う、うん。なんというか、ごめん。レオが強引に……」
広い浴槽の中、肩までお湯に浸かった俺とクレアが、お互いに背中を向けてぎこちなく話す。
「あ、いえ……嫌なわけではありませんから……」
嫌じゃないだって!?
いやいや、落ち着け俺……服を着ているし、ただお湯に浸かっているだけの状況だ。
服を着ているという妙な状況ではあるけど、二人とも決してやましい事をしているわけではない、はずだ!
と、心の中で誰に伝えようとしているのかわからない主張を叫んだ――。
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