第1481話 リーザが前向きに取り組めるよう考えました



 撫でているリーザを見ながら、もしかしたらこれからリーザが成長していくにつれて、人間にあるような反抗期みたいに男親を嫌がる事だってあるかもしれない、なんて考えが浮かぶ。

 でもまぁとりあえず今は、リーザが言った俺を嫌だっていう事がないという言葉に、込み上げる嬉しさを噛み締めておこう。

 もちろん、デリアさんも見ているし変なとこを皆に見せるわけにはいかないので、表には出さないが。

 ……少しだけ、口元が緩んでいるかもしれないがそれはともかくだ。


「今までだって、俺が別の事をしている間にリーザはレオやティルラちゃん、フェンリル達と遊んでいた事があっただろう? それとあんまり変わらないよ」

「うん……それなら……わかった」

「うん、リーザはいい子だ」


 勉強が苦手、というわけじゃなくて遊ぶ時間や俺達といる時間が減るのが嫌、といった様子のリーザだけど、納得してくれたのか頷いてくれた。

 ホッと一安心だけど、親代わりの俺の押し付けになっていないかと唐突に不安な気持ちが湧いて来る。

 うーん、リーザがもっと前向きに勉強に取り組んでくれたらいいんだけどなぁ。


 その子のためと決めつけて、無理に納得させるのは好きじゃない……とはいえ勉強をした方がいいというのは間違いない。

 最低限、読み書きとちょっとした計算くらいはなぁ。

 でも、このくらいの遊ぶ事が第一と言える年代の子に、前向きに勉強に取り組んでもらうにはどうしたら……。


「あ、そうだ」

「パパ?」

「リーザ、もしお勉強を頑張ったら俺と一緒にいる時間が増えるかもしれないぞ?」

「ほんと!?」


 ふと思いついた事。

 押し付けかもしれないけど、前向きに考えてもらうためには、何か目標を定めてあげればいい。

 小さい事では、これができたらご褒美を……みたいな。


 レオだって、お手やおかわりを教えた時には、おやつをご褒美にあげたりしていたから。

 まぁあくまで目標というか目的なだけで、本当におやつをあげるって話じゃないけど。

 ……頑張った時のご褒美のおやつとかは、ヘレーナさんに相談しておいてもいいかもしれないな。


「デリアさんに教わって、読み書きとかができるようになったら、俺がやっているお仕事も手伝えるかもしれない。そうしたら、一緒にいられるぞ?」

「パパのお手伝い! リーザやりたい!」

「そうかぁ。うん、それじゃあお勉強を頑張って、一緒にいる時間を増やそうな?」

「うん、頑張る!」


 先程とは打って変わって、表情も明るく元気に尻尾をブンブンと回すように振っているリーザ。

 自分で言っていて、俺といられる時間が……というのは照れ臭いが、でもそれでリーザがやる気になってくれるなら安いもんだ。

 書類仕事をする時は基本的に執務室になるだろうし、リーザが文字を読めたら、一緒にいる事も可能だろう。

 さすがに読み書きを覚えただけじゃ、全部理解できるかは難しいし、リーザが読めたから確認も完了になるわけじゃないけどな。


 とはいえ、一緒にいてリーザがわからない事を俺が教える事だってできるだろうし。

 ……その時までに、リーザが成長して「パパとはいたくない!」なんて言わない事を願っておこう。


「よしよし……まぁちょっとズレましたけど、リーザも前向きになったみたいなので。デリアさん、よろしくお願いします」

「デリアお姉ちゃん、よろしくお願い……します?」

「ワフッ」


 リーザの頭をもう一度しっかり撫でておいて、デリアさんに話を戻す。

 俺が頭を下げるのに続いて、真似をするようにリーザがペコリと両手を後ろに伸ばしてお辞儀……ペンギンを彷彿とさせるな。

 それから、レオも鳴いて頷くようにデリアさんに頭を下げた。


「あ、は、はい! こちらこそよろしくお願いします、リーザ様!」

「ははは、そんなに畏まらなくても。リーザの事は、様じゃなくて呼び捨てか……ちゃんを付けて呼んで下さい。――な、リーザ?」

「うん!」

「で、では……リーザちゃんとお呼びさせて頂きます……」


 座ったままではあるけど、俺達に合わせて頭を下げるデリアさん。

 苦笑しながら、もう少し気軽に呼ぶよう伝えてリーザにも聞くと、これまた元気のいい返事。

 とりあえず、デリアさんからリーザへの呼び方はちゃん付けで決まった。

 一応デリアさんは教える側だからな、リーザは敬われて相手を下に見るような子じゃないけど、様付けで呼ばれて教わるより情操教育に良さそうだから、多分。


「それじゃえっと、まず持ってきた荷物とかを整理しないといけませんね。屋敷に部屋を用意してあるので……リーザの事は、それが終わって落ち着いたらで構いませんよ。ペータさんも、まずはそちらを」

「はい。村から、持ってきた物はあまり多くありませんが……」

「私は、リーザちゃんの勉強に使えそうな本……といっても、私が村の人達から習った時に使っていた物ですけど。それらがあるくらいでしょうか」


 家庭教師は今日からというわけではないので、とりあえずデリアさんやペータさんには、住環境を整えてもらう方が先決だ。

 二人共、あまり多くの物を持って来ていないようだけど、とりあえずの家具とかは既にこちらで用意しているのでなんとかなるだろう。

 ちょっとした物なら、村の方で売っているし……必要があればラクトスまで買いに行けばいいだろう。

 もちろん、デリアさん達だけじゃなくて、他の人達もだ。


「私達もお手伝いいたします」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」


 ライラさんが、お茶のおかわりを注いでくれる際に、ペータさんとデリアさんに申し出る。

 細々とした物はともかく、部屋に運び込む際には使用人さんに手伝ってもらった方が、早く済ませられるからな。


「あの~、タクミ様。私の仕事なんですけど……」

「どうしましたか? あ、いつ始めるかとか、今決めておいた方が?」

「そうではなくて……私も、リーザちゃんに勉強を教えるだけでなく、何か仕事をさせて欲しいと……」

「デリアさんが? うーん、そうですね……」


 おずおずと手を挙げるデリアさんは、家庭教師以外にも仕事が欲しいようだ。

 最初は、会うまでデリアさんが獣人という事はわかっていなかったし、採用したら畑の方なりで働いてもらうように考えていた。

 人手が足りているかどうかは、始めて見ないとわからない部分もあるけど……仕事かぁ――。



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