第1480話 リーザと勉強に関して話しました



「うん、わかった! ――デリアお姉ちゃん、よろしくお願いします!」

「はい! お任せ下さい!」


 リーザも聴覚が鋭いので、耳の傍で伝えた俺に大きく頷いたあと立ち上がり、テテテ……とテーブルを迂回してデリアさんの近くまで駆け寄って、ぺこりとお辞儀。

 請け負うように、微笑んで頷くデリアさん。

 ブレイユ村でも子供達の相手をしていたし、デリアさんとリーザは同じ獣人だから、これが一番緊張が解れるかなと思ったが、正解だったみたいだ。

 ようやく、デリアさんが笑うところが見れたな。


「にゃふー」

「ふふふ、この耳の付け根が気持ちいいんですよねー」

「うんー!」


 少し後、座ったデリアさんがリーザを膝枕して耳の辺りを撫でている。

 気持ち良さそうな声を出すリーザに、デリアさんが微笑んでいる姿を見れば、予想以上に緊張が解れたみたいで良かった。

 リーザは、皆の心を柔らかくする可愛さがあるからな、うん、当然の事でもあったか……なんて心の中でだけ親バカを発揮しておく。


「それで、デリアさん。リーザの事なんですけど……」

「はい! ちゃんと読み書きを教えられるよう、出発前まで村のお爺ちゃんやお婆ちゃんたちから教わっておきました!」

「そ、そうですか」

「ちょっと、不安な部分もありましたけど……今は大丈夫です!」


 まぁ、デリアさんが大丈夫と言うならいいか。

 改めて勉強をさせてしまって、少し申し訳なく思ったけど……デリアさんにとっても悪い事じゃないと思う。


「それじゃえーっと、リーザの部屋があるので、勉強はそこがいいですね」

「畏まりました!」


 執務室は仕事のためだし、俺の部屋よりはリーザの部屋でやった方がいいだろうな。

 折角用意しているんだから、部屋も使ってやらないといけないし……いずれ、リーザが自分の部屋に慣れたらそちらで寝るようになるだろうし。


「リーザお勉強?」

「そうだよリーザ。今日からすぐに、というわけじゃないけど……読み書きは覚えておいた方が良さそうだからね」


 デリアさんの膝枕から少し顔を上げるリーザ。

 これからリーザがどうなっていくか、それはリーザ次第だけど、何かをしたいと思った時に読み書きができない事が障害になっちゃいけないからな。

 必要にならない仕事もあるかもしれないけど、街とかで仕事を得ようとしたら、読み書き必須というかできる前提らしいし。


「うー、ティルラお姉ちゃんが、お勉強は難しくて苦手って言ってたけど……」

「ははは、ティルラちゃんは勉強よりも体を動かしている方が好きそうだから。まぁ、遊ぶ時間は少なくなってしまうかもしれないけど」


 ちょっとだけ嫌そうな表情になるリーザ。

 ティルラちゃんから勉強の事を聞いていたのか……まぁ、学ぶ内容とかは全く違うんだろうけど。


「パパやママと遊べなくなるの?」

「そうじゃないよ。今より少なくなるくらいだから。そうだなぁ、これまで遊んでいた時間を少し、勉強のために使うって感じかな?」

「うーん……」


 あまり気が進まない様子のリーザ。

 遊ぶ時間が減るって考えたら、喜ぶ子供はそうはいないだろうから仕方ない。


「まぁでも、最初のうちは勉強といっても難しい内容じゃないし……」


 読み書きくらいだからな。

 計算とかも多少はやるかもしれないけど、まずは文字を読んで書けるようにだ。


「レオと一緒に勉強するのだって構わないよ」

「ママと?」

「ワフ?」

「そう。――デリアさん、レオがいても大丈夫ですか?」

「そ、それはもちろんです! レオ様のお傍にいられるのは、私にとっても光栄な事なので」


 首を傾げるリーザやレオに頷いて、デリアさんに聞いてみると激しく頷かれた。

 獣人にとっても、シルバーフェンリルの近くにいる事は喜ばしい事らしい……フェンリル達も、似たような事を言っていたっけな。


「まぁレオにとっては退屈かもしれないけど……」


 レオは体というか手足の構造的に、書く事は難しくても、文字を読むのはできるみたいだからな。

 以前、ミリナちゃんと薬草の本を見ながら勉強した時に、後ろから覗き込んでいて、後から確認したらちゃんと読んでいたらしい。

 フェンリル達は人の使う文字を読めないらしいから、シルバーフェンリルが特別なのか、それとも俺と同じでよくわからないけど読めるって事なのか。

 俺も、この世界の文字は知らないはずなのに、日本語で書いたらこの世界の文字に変換されるし、読む事もできているからな。


「ワフ、ワフワフゥ」

「そうか、ありがとうなレオ」


 読み書きを教えるだけなので、レオにとっては特に楽しい事じゃなく退屈させるだけかなと思ったら、リーザの近くにいられるならと、問題ないと言うように頷いてくれた。

 遊んでいる時もそうだし、すっかりレオもリーザの保護者だ……最初は、シェリーの保護者代わりになる者だと思っていたけど。

 まぁ、シェリーは本当の保護者、というか両親が見つかって一緒にいるからな。


「……」

「ん、どうしたリーザ?」


 レオの承諾を得ていると、デリアさんから離れたリーザが俺の所まで来て、服を引っ張った。

 口を少しだけ尖らせて、何やら拗ねているようにも見えるけど。


「パパは、パパとは一緒にいられないの?」

「んー? そんな心配か? 大丈夫だよリーザ」


 遊ぶ時間が減る、と聞いて俺といられる時間も減ったりなくなったりするんじゃないか、とリーザは考えたみたいだ。

 そんな事はないと伝えるために、リーザと目を合わせて頭を耳と一緒に撫でながら言う。


「リーザがお勉強をしている間は、俺も仕事をしなきゃいけないし……もしリーザがお勉強をしなくても、俺といる時間は減るかもしれない」


 まぁ、リーザがどうしても寂しがるようなら、リーザを連れて仕事をする事もできるだろうけど……全部はさすがに難しいか。


「でも、リーザと俺が一緒にいられない、なんて事は絶対ないよ。食事は一緒だし、仕事やお勉強がない時も一緒だ。もちろん、リーザが嫌だって言わない限りはね」

「んに……リーザが、パパの事を嫌だって言う事なんてないよ……ふにゅ……」

「うん、ありがとう。だったら大丈夫だ。お勉強や俺の仕事で、これまでより少しだけ離れている事があっても、一緒にいるから。な?」


 頭を撫でられて、時折気持ち良そうに声を漏らすリーザに対して、安心してもらえるように言葉を掛けていった――。



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