第1482話 デリアさんは家庭教師以外もしたいようでした



「あ、もちろんそれで多めに給金をもらおうというわけじゃないんです」

「いえ、働いてもらうのであれば、給金は当然払います。働きすぎにならないよう気を付けてもらいますし、それは他の人にも見ていてもらいますが、働きに見合った給金を払う。これは絶対です」


 これは、日本での仕事を経験して追い詰められていた俺として、絶対に外せない事だ。

 ブラックではなくホワイトを目指している、とまで大きくは言えないが、働きづめにならない事と給金はそれに見合う分だけ払う、というのは決めているしキースさんとも話してある。

 まぁもっとも、俺が働いていた会社はサービス残業はあれど、給料が低かったわけではないんだけどな。


 ともあれ、デリアさんの他の仕事か……給金を増やして欲しい、というわけじゃないならどうしてそこまで仕事をしたいんだろうか、ちょっと不思議だ。

 仕事をするというのは、第一にお金を得るための手段でもあるはずだから。


「デリアさんは、どうして家庭教師以外にも仕事をと? 給金は払いますが、さっき言っていた事を考えるとお金が欲しいというわけじゃないようですし」

「それは……お恥ずかしながら、できるだけタクミ様やレオ様のお役に立てればと……」


 一応聞いて見ると、デリアさんは俺やレオのためにもっと仕事をしたい、という意気込みがあるようだ。

 最初は、レオの近くでリーザに読み書きを教えると聞いて、満足している部分があったみたいなんだけど、主な原因は俺がブレイユ村に行った時の事。

 デリアさんが恥ずかしそうにして教えてくれたので、色々省くが……要は俺の役に立って褒めてもらうとか、撫でてもらおうというのが動機らしい。

 レオの方は、と思ったらそれは獣人としての本能みたいなのが、当然だと叫んでいるとまで言っていたので深くは追及しない。


 ともかく、ブレイユ村に行った時俺が頭を撫でた時の事を忘れられないとかなんとか……。

 話を聞いていて、俺の方が恥ずかしくなってしまった。

 ……特別な撫で方をしているつもりはないんだけどなぁ。

 そりゃ確かに、リーザやレオ、フェンリル達も俺に撫でられると嬉しそうにしているし、それを見る俺も嬉しいんだけど。


 できるだけ喜んでもらえるようにと、気を付けながら撫でているのはあるけど。

 ただまぁ、デリアさんは獣人とはいえ女性なので、気軽にいつでも頭を撫でるのは躊躇われるから。

 あと、一応クレアから許可というか、話をしておかないといけないなとなんとなく思ってしまってもいる。


「ま、まぁ、話はわかりました。一応ですが……」

「で、では!」

「えーっと、デリアさんはリーザの家庭教師と考えていたので、すぐに別の仕事もとはさすがに。でも、何か探してみます」

「はい、よろしくお願いします!」


 嬉しそうにしているデリアさん。

 どんな仕事があるかは、ペータさんやアルフレットさん、キースさんとも相談しないとな。

 人手が足りすぎていて仕事がない、と言う状況じゃない限り、やる気があって働いてくれる人は大歓迎だ。


「それじゃあ、話はまとまったという事で……ペータさんは薬草畑のまとめ役。デリアさんはリーザの家庭教師。できれば、読み書きだけでなく獣人としてわかる事とかも、教えてあげて下さい」

「畏まりました」

「私も、自分以外の獣人はリーザちゃん以外と会った事がありませんし、特殊な事情ですが……わかる事、できる限りの事はお教えさせて頂きます」


 デリアさんには、獣人として俺達人間がわからない事での教師になってもらう事も考えているからな。

 尻尾が二本になったリーザや、伸びたデリアさんのように、身体的にもこれからまだ何かあるかもしれないわけで。

 そういった事の心構えとか教えてもらえると助かる。

 もちろん、俺も教えてもらわないといけない事もあるだろうけど。


「はい、それで構いません。よろしくお願いします。っと、長話ばかりしていてもいけませんね。村に到着したばかりで疲れているでしょうから」


 デリアさんに頷き、もう一度リーザと一緒に頭を下げてから立ち上がる。

 フェルに乗って来たとは言っても、長時間の移動で疲れているだろうから、早めに荷物整理して休んだ方がいいだろう。

 そう思って、レオやリーザを連れて客室を辞す……けど、その前に。


「あ、また夕食の時に。美味しい物を期待していて下さい」

「はい! タクミ様の作ったハンバーグ、村の皆も今では誰でも作れるようになるくらいの人気ですから。こちらでの料理も楽しみにしています!……ん? また?」


 ハンバーグ、ブレイユ村でも人気料理になったのか……まぁ美味しいし、アレンジも色々やれるからな。

 さすが日本でも大人も子供も人気のある食べ物だ。

 風切り音がこちらに聞こえるくらい、尻尾をブンブンを振っているデリアさん。

 俺が言った、またという言葉に首を傾げてもいたけど、そのまま部屋を出た。


 どうやら、従業員さんは全員食事と言えば内容はともかく、俺やクレアとは別々でと考えているみたいだからな。

 昨夜も、夕食を皆で同じテーブルでと聞いた時、一部のよくわかっていない子供以外は、驚いて固まっていたらしいと今朝アルフレットさんから聞いた。

 ちなみに、今日も朝食と昼食はできる限り皆で食べた。

 さすがに朝は、それぞれの起きる習慣や疲れてゆっくり寝ていたい人もいるし、村の方に住み始めた人は屋敷までわざわざ来るのは手間だろうから、人数は少な目だったけど。


 そんな事を考えながら、仕事の続きのために……の前に、フェルの様子を見に行こうとレオ達を連れて中庭へと向かった。

 ……あ、デリアさんの頭を撫で忘れたな……まぁ、クレアと相談してからどうするか決めよう。

 なんとなくクレアに告白してからは、他の女性と不用意に近付いちゃいけない気がする。

 クレアに、少しでも嫌な思いはして欲しくないからな。


「ガフ、ガフガフー」

「キャウキャウー!」

「ガゥ……」

「ガウワゥ!」

「ふふふ、フェルは面倒見がいいみたいね。シェリーも楽しそう」


 中庭では、シェリーがフェルに甘えるように体を擦り付け、それをフェンが羨ましそうにしつつリルルに吠えられていた。

 クレアは、シェリーが楽しそうにしているのを微笑ましく見ていて、フェンやリルルの様子には気付いていていないようだな――。



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