第1473話 ついに待望の料理が出てきました



 テーブルの区分け、使用人さん達のさらに向こう側には、一部の護衛さん。

 今は、ニコラさんとルグレッタさん、近衛護衛さん達がいてさらに向こうに、リアネアさん達従業員さんがいる。

 こうして見ると、かなりの人数が一堂に会しているというか、よく皆が座れる巨大なテーブルがあったなと感心する……リアネアさんの声もこちらからの声も、なんとか届くといったくらいだ。

 まぁ、ハインさんの雑貨屋で注文したのは俺なんだけど。


 大所帯になりそうで、外で食事ができるなら必要だと思ったわけで、その考えは間違っていなかったようだ。

 ともあれ、この席順区分けは暫定なので、こちらも後々変えられればなと思っている。

 せっかく一緒に食事をしているのに、席が遠すぎたらあまり話ができないからな。

 と、これらの事をかいつまんでリアネアさん達に説明。


「わ、わかりました。私達のような者でも、末席に加えて下さるのは光栄な事。タクミ様のおかげで、こうしていられる事を噛み締めたいと存じます」

「あー……あまり畏まらないでいいですからね?」

「うむ、気楽にやっていこうではないか。もちろん、タクミ殿だけでなく私ともな」


 恐縮した様子のリアネアさんに、俺とエッケンハルトさんが声を掛けるけど……それだけで本当にリラックスをというわけにはいかないようだ。

 そりゃそうか。

 まぁあれだ、最初は緊張してしまっても追々慣れて行ってくれればと思う。

 レオやフェンリル達に慣れてくれるように……まだ完全に慣れたわけじゃないだろうけど。


 そうして、お互い風通しのいい関係になっていければいいなと。

 これだけで全てが上手くいくわけじゃないけど、その第一歩として、だな。


「では、皆様に料理を」

「はい、お願いします」


 準備が整ったと見て、ライラさんとアルフレットさんが動き、エルミーネさん達他の使用人さん達も同様に屋敷へと向かい、それぞれワゴンを押してテーブルに並べられていく。

 料理人さんの一部は同じテーブルに座っているけど、それ以外のヘレーナさん達は同じく料理を並べるのを手伝ってくれているようだ。

 並べられるのは、サラダや肉料理の他に平皿とお椀に近い陶器のお皿。

 使用人さん達が料理の載ったお皿と、何も載っていないお皿やお椀を並べ、そこにワゴンを押した料理人さんが来る。


 ワゴンには、大きな桶……と言うよりおひつと、寸胴鍋が載っていてそこからお皿やお椀に注いでいくという方式になっているようだ。

 そうしないと、冷めたり乾燥したりするからだろう。

 もちろん、おひつの中身は炊いたお米で、寸胴鍋は味噌汁だった……よし、味噌汁もちゃんと作ってくれたんだ、と隠れてコッソリガッツポーズ再び。

 レオやフェンリル達は、味噌汁はなくお米は少量、肉料理メインでサラダも俺達より少し多めにしてあるようだ。


 フェンリル達はわからないが、レオはあんまりお米が好きじゃなかったからな……食べなくはないけど。

 しばらくして、全ての準備が整う頃にヘレーナさんが俺の所にきた。


「タクミ様のご要望通り、お米を炊き味噌汁という物を作ってみました。お口に合えばと思いますが……」

「大丈夫ですよ、お米……というよりご飯ですね。ご飯もお味噌汁も、見た目も香も完璧で美味しそうな匂いですから」


 初めて作る料理だからだろう、俺やユートさんから作り方などを聞いて、味見をしたとしても不安は残るのは仕方ない。

 さらに、今まで扱った事のない食材だからなおさらだ。

 とはいえ、不安気なヘレーナさんだけど、盛りつけられたご飯と陶器のお椀に注がれた味噌汁の見た目は、俺がよく知っているのと遜色なく、さらに美味しそうな匂いも漂っている。

 味噌汁の具は……定番のワカメやお麩、豆腐などが入っていないのは残念だけど。


 ない物はないで仕方ないが、ジャガイモや玉ねぎなどが入っていて、具沢山のスープといった感じでそれはそれで美味しそうだ。

 多分味噌を使ったスープと、ヘレーナさんは考えたんだろうというのが窺える。

 ご飯なんて、米粒一つ一つが立ってツヤツヤと輝いているようにすら見えて、とても美味しそうだ。

 久しぶりに見たからかもしれないが、それでもヘレーナさんが作り方をちゃんと覚えてくれて、やってくれたんだとわかる。


「味噌汁はともかく、ご飯……お米を炊くのは、結構手間だったんじゃないですか?」

「はい。慣れない作業という事もありましたが、工程が多くて。ですが、繊細な作業を要するわけではありませんので、なんとか。多少臼で挽く時に腕が疲れるくらいでしょうか。やってくれた者達は、あそこで座っておりますが」

「ははは……」


 チラリとヘレーナさんが視線を向けた先には、テーブルについている料理人さん達。

 籾状態の米を、炊けるまでの状態にするのは結構重労働だったんだろう、時折腕を自分で揉んでいる姿も見えた。


「それとタクミ様、こちらを……」

「これは……」


 スッと、俺の前に幾つかの物が載ったお皿を差し出すヘレーナさん。


「タクミ様からお聞きした、焼きおにぎりという物です。焼いていない物もありますが」


 ヘレーナさんに言われるまでもなく、一目見ただけでそれが何かわかった。

 焼きおにぎり……三角型に固められ、こんがり焼き色の付いている醤油を塗った物から、味噌を塗っている物まで。

 慣れないためか、所々焼き過ぎだったり、味噌が一部で厚く固まっているのもあったけど、それでも目にした瞬間の感動はひとしおだ。


「焼いていないのは、塩むすび……でしたか。ちょうどいいしょっぱさにするため、数人が色々と試していました」

「あ、それであっちは……」


 塩むすびを作る際の、塩加減を試作して試行錯誤してくれたんだろう……この分だと、ご飯や味噌汁、それから焼きおにぎりも試食しているっぽいな。

 配膳を手伝っていた料理人さんが、俺とヘレーナさんが話すのを見つつ、お腹を押さえて苦笑していたから。

 食べ過ぎたのかな? 


「これだけの物を用意して下さって、ありがとうございます」

「いえ、珍しい食材に調味料、そして新しい料理となれば、こちらこそお礼を言いたいくらいです。では、私はこれくらいで。冷めてしまってもいけませんので」

「そうですね。皆、食べるのを待ちきれないようですから」


 ヘレーナさんに促されて、皆の方を見ながら苦笑した。

 皆、匂いに釣られてか初めて見るご飯や味噌汁を凝視してるみたいだからな――。



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