第1472話 できるだけ大勢と食卓を囲むようにしました



「いや、レオも元はそうだったけど、今は鳴き声も体も違うからなぁ」

「ワウゥ……」


 まぁ、習性というか仕草とかは、体が大きくなってもあまり変わっていない部分もあるので、孤高なイメージのある狼より室内犬とそう変わらない感じではある……とても室内犬で収まる大きさじゃないが。

 そう考えると、ある意味ワンちゃんと呼ぶのもいいのかもしれないが、そう呼ぶ人はこの場にいないだろう、シルバーフェンリルだし。

 とりあえず、慰めるようにちょっとだけしょんぼりするレオの頭をポンポンしておいた。


 ちなみに、孤高のイメージが狼にはあるけど、実際にはよほど特別な事情がない限り、野生の狼は群れる習性があるらしいので、間違ったイメージでもある。

 一匹狼なんて言葉もあるが、それはただ単純に元いた群れを離れて新たに自分の群れを作る、もしくは別の群れへ入れるかを探している最中だったりの場合が多いとか。

 全てがそうじゃないが、嫁探し、婿探しみたいなものだな、多分。


「いいなぁ……」

「お兄たんは、レオ様を撫でたいですか?」

「そうじゃないんだけどね、オーリエ……」


 レオやリーザと戯れていると、何やらテオ君とオーリエちゃんの方から、羨むような視線。

 二人というより、テオ君の方か。

 何を話しているかは、少ししか聞こえなかったけど……もしかして俺に撫でて欲しいとか、そんな事はないだろう。

 多分、レオと一緒にいるのを羨ましがっているだけだと思う。


 テオ君はオーリエちゃんのように、レオとは遊べなかったからな。

 また明日にでも、レオや子供達に混ざって遊んでもらえばいいか。


「お待たせしました。すみません、遅れてしまって……っ」


 そうこうしているうちに、クレアが屋敷から出て来る。

 俺を見て、一瞬だけ目を逸らしたり、頬がほんのり赤みを帯びたりはしたけど、概ね落ち着けたようだ。

 俺も似たようなものだけど、なんとか目は逸らさないでいられた。


「……何かありましたかな?」

「い、いえ、何もありませんよ?」

「そうよセバスチャン、気のせいよ」


 俺とクレアを見てか、鋭いセバスチャンさんが怪しんで目を光らせたけど、隣に座るクレアと一緒に誤魔化した。

 ……セバスチャンさんの事だから、誤魔化せたかどうかは微妙だけど、とりあえずこの場では追及されずに済んだようだ。

 何やら、エルケリッヒさんとセバスチャンさんがニヤニヤしているような気もするけど、気にしない。

 エッケンハルトさんやユートさんは、特に何か感づいた様子もないようで、二人で話している……良かった。


 ここでエッケンハルトさんに怪しまれたら、確実に色々探られていただろう。

 面白がるユートさんも協力しそうだし。


「あ、あの~。タクミ様。す、少しよろしいでしょうか?」

「ん、どうしたんですか、リアネアさん?」


 ホッとしている間もなく、今度はリアネアさんがおずおずと手を挙げた。

 長テーブルの俺がいる方とは反対側にいるので、ちょっと話しづらいけど、仕方ない。


「いえその、私どもも同席して、本当によろしいのでしょうか?」

「あぁ、それは構いません。リアネアさん達は、この屋敷に住まう同居人でもありますし……もちろん、屋敷に住んでいない人も、従業員として働いてもらう人達ですから」

「で、ですが……私達がここにいるというのは、少々どころではなく畏れ多いと言いますか……」


 そう言って、俺とは別の方を窺うリアネアさん。

 視線を追ってみると、離れているからわかりづらいが、どうやらエッケンハルトさん達を窺っているようだ。


「確かに、リアネアさんの気持ちもわかりますけど、許可は取っていますし気にする人達じゃないですから。――ですよね?」

「うむ。何も気にする事はない。こうして、大勢でというのも楽しいものだ。宴のようではないか」

「ハルトの言いようはどうかと思うが、ワシも構わぬぞ。こういった事は経験がないが、面白い試みだ。多くの者と食事を共にするというのは、楽しそうだしな」


 俺が声を掛けると、頷いて答えてくれるエッケンハルトさんとエルケリッヒさん。

 これは、以前話していた皆で食事を……の一環だ。

 やっぱりどうしても、使用人さんは皆のお世話があるため全員一斉にというわけにはいかないみたいだけど、それでも半分くらいは同じく俺達と一緒のテーブルについてくれている。

 エッケンハルトさん達の許可はもらっているし、好きにやればいいとも言われているからな。


 ただ、どうしても席順とまで厳密ではなくとも、一応座る場所の大まかな場所決めはするべきだと、使用人さん達の主張があったため、ある程度わかれてはいる。

 これらの事は、執務室で書類仕事をしている時に決めた……というか、書類の中にそういった主張も混ざっていたりしたんだけども。

 アルフレットさんやライラさんから周知してもらい、そこからの意見を吸い上げて紙にまとめてというわけだ。

 クレアが来る前に、それらの確認を済ませていたからキースさんやアルフレットさんは、片付ける書類を済ませた後は部屋にいなかったんだけど。


 ちなみに座っている区分けとして、屋敷から見てテーブルの左端……要は上座だな。

 そこに手前からシェリー、クレア、俺、リーザ、レオの順……まぁこれも大まかに左端と言うだけで、厳密には決まっていないから変わる事もあるだろうけど。

 そこから、シェリーの右側にエッケンハルトさん、エルケリッヒさん、ティルラちゃんが並ぶ。

 その向かい側、レオの左側にテオ君、オーリエちゃん、ユートさんが並んでコの字になっている。


 テオ君とオーリエちゃんは、身分を隠すといってもお客様扱いなので俺の方側で、エッケンハルトさん達はクレアの親族だから向かい側ってわけだ、

 とりあえず最初だからそれらしく並んで座っているだけで、俺やクレアの近くに座るという大まかな事しか決めていないため、そのうち変わっていくだろう。

 そして、ティルラちゃんやユートさんがいる、いわゆる貴族席的な区分けの向こうには使用人さん。

 今は、ライラさんとアルフレットさん、エルミーネさんとヴァレットさん、それからセバスチャンさん以外の使用人さんが座っている……準備などで動く使用人さんもいるため全員じゃないが――。



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