第1446話 それぞれの薬の紹介を終えました



 お試しのため、体力回復薬の瓶を持ったエルケリッヒさんとエッケンハルトさんは、グイッと一気に飲み干したが、従業員さん達は恐る恐るといった感じだ。

 まぁ、初めて見る薬だから、そういった反応になるのも仕方ない。

 皆が飲み終わって、ミリナちゃんがジェーンさん達と一緒に、空瓶を回収してから少し……。


「む、何やら疲れが取れたような? いや、昨夜レオ様と会えて、興奮し過ぎたからかあまりよく寝られなかったのだが……その疲れが全くなくなっているな」

「ふむ、私は疲労回復薬草も試した事がありますが、それよりは効果が出るのに少々間があるようです。ですが、確かに効果が出ていると感じます」

「ほっ……」


 エルケリッヒさんやエッケンハルトさんが、疲れが取れたと実感しているのを見て、ミリナちゃんが安心したように息を吐く。

 何度も試して、効果が出る物だとわかっていても緊張してしまうものなんだろう……かくいう俺も、ちょっとだけ体に力が入ってしまっていたのを、意識的に解した。

 ミリナちゃんの事は信頼しているし、今では俺より薬草や薬の知識があって師匠と呼ばれる身でありながら恥ずかしい限りではあるが、原料が自分の作った薬草でもあるからな。

 信じて任せた人への心配もあって、無意識のうちに緊張していたようだ。


 そうして徐々に、従業員さん達の方でも実感が湧くくらいに効果が出たようで、目を見開いたり、感心したりと反応は様々だ。

 特に、さっき到着して荷物を運んだりしていた人達は、疲れが顕著だったんだろう。

 大きめの反応をしている。


「先ほど言っていた眠気に関してだが、確かに少しだけ感じるような……気がする程度だな」

「は、はい。以前試作した物は我慢できるとはいえ、強めに感じていて……そのまま眠れてしまう事もありましたが、今は感じられている通り、ほとんどありません!」


 眠気の副作用も、ミリナちゃんが言う通りほぼ感じられないくらいになっており、よっぽど眠い時でないとそのまま寝るなんて事はない程度になっているようだ。

 疲れて寝そうになっている時だともしかして、と思ったけど……疲れている時程、体力が回復して元気になるので、むしろ起きていられるはずだ。


「タクミ殿……これは、売れるな」

「はい。元々は、傷薬よりもこちらを目玉商品にしようと考えて、ミリナちゃんにお願いしていましたから。間違いなく実感できる効果です。絶対に売れるでしょう」


 ニヤリと怪しい笑みを浮かべて俺に言うエッケンハルトさんに、こちらからもニヤリと笑い返す。

 まるで、悪代官と越後屋の様相だなと思ってしまったが、多分気のせいだ……悪い事を考えているわけじゃないし。

 ともあれ、体力回復薬は十分に売れる商品として、販売できる事が実証できたと思う。

 もちろん値段も、誰でも買えるとまではいかないまでも、安価で売るように考えている。


「疲れを取る事ができる、という謳い文句の薬はあるが、値段もそれなりのわりに効果が怪しい物も多い。粗悪な薬を淘汰するにもいいだろう」

「はい。そして、そうなった場合の備えもここでこうしている事で、十分というわけですね」

「……中々、タクミ殿もよく考える」

「ふふ、タクミさんはセバスチャンも頼りにする程、広い知識と思慮がありますから」


 エルケリッヒさんに頷く俺に、エッケンハルトさんがさらに怪しい笑みを深くする。

 クレアも微笑んでいるけど……さすがにそれは褒めすぎじゃないかな?

 広い知識といっても、こちらの世界のではなく日本での事だし、思慮はただ深く思考するのが好きという以前に癖みたいなものだからな。

 ちなみに、備えというのは他でもない、公爵家と繋がりがあるという事。


 効果の怪しい物よりも安価で、そして確実な薬があれば当然そちらが売れる……宣伝とか販売戦略とかいろいろあるから、何もせずに売れるわけじゃないけど。

 でも、公爵家が売り出す物とも言えるので、既に信用を得られている事もあって確実に売れる。

 そうして、粗悪な薬が淘汰された場合、それを売っていた人達の意識はこちらに向く事になる。

 それが単なる興味だけならいいけど、恨み嫉みなんかもありそうだ。


 けど、公爵家と繋がりがある事で安易に手は出せない。

 エッケンハルトさん達が何かをしなくても、守ってもらえるような物だな。

 さらに言えば、もしそんな事も関係ないとばかりに、俺や周囲の人たちに何かしようとしても、こちらにはレオやフェンリル達が付いているわけで。

 力でなんとかするのは不可能と言える……まぁこれを考えられたのは、大分前にライラさんから人を雇う際の注意点を言われていたからなんだけど。


 どこにでも、悪い人間はいるものだから警戒するに越した事はない、もちろん警戒し過ぎるのもどうかと思うけど。

 あと、フェンリル達は完全に偶然だったりする。

 力という意味では、レオと護衛さん達で十分と考えていたし、フェンリル達が今程好意的に協力してくれるとは思っていなかったから。


「以上が、薬草畑、そして薬草や薬の販売を開始した際の新商品となります。もちろん、これ以外にも一般的な薬草や薬の販売は行います」


 新しく作った薬だけだったら、多くの人を助ける、薬や薬草を行き渡らせる事にはならないからな。

 それに、薬草畑を作るためにランジ村に居を構える必要までなくなってしまう。 

 あくまで、今紹介した薬は運営をするための利益にプラスして、『雑草栽培』に気付かれないための物だから。


 嘘の中に真実を混ぜるのは詐欺の手口だから、あまりいいイメージじゃないが、ありふれた薬草や薬の中に、隠したい能力を使って作った物を混ぜて販売するってわけだ。

 騙しているわけじゃない。

 まぁ、色々と穴があるので完璧な考えとは言えないのは自覚しているけど。


「始める前から新商品を用意しているのは面白いな」

「そうでしょう、父上」


 笑い合うエルケリッヒさんとエッケンハルトさん。


「まぁ、ミリナちゃんが頑張った結果です」

「そ、そんな。私はただ、少しでもししょ……タクミ様のお役に立てたらと思っただけですから」

「謙遜しなくていいんだよ。これらの薬は、提案はしたけど本当はもっと後にできる物だと思っていたくらいだからね」


 謙遜するミリナちゃんに、笑いかけて認めるよう言葉をかけた――。



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