第1445話 体力回復薬の問題はほぼ解消済みでした



 大広間で、ミリナちゃんによる体力回復薬を説明する言葉が響く……緊張しているせいで堂々と、ではないけどしっかり伝えるべき事を伝えているので、見ていて安心だ。

 体力回復薬の原料は、疲労回復薬草と筋肉回復薬草、それから安眠薬草が使われている。

 これは、他の一般的な薬草ではなく俺が『雑草栽培』で作った物だ。

 この世界に同じ物があるかはともかく、ギフトの消費としてはラモギとかよりも多いと感じる物なので、量産は少しだけ難しい。


 まぁ、そういった難しい物もできるだけ量産するために、薬草畑を作るんだけどそれはともかく。

 安眠薬草は眠気を強くするため、一般販売はできない物だと考えているけど、疲労や筋肉の回復薬草もそのまま販売するのは難しい。

 効果が強すぎるから。

 売ろうとした時の売値などは決めていないけど、やろうと思えば本当に二十四時間どころか、数日以上も戦えてしまう物だからな。


 本当にそうなった時、体に支障はないのかとか色々考える事はあるけど、多分できてしまう。

 依存性がないらしいとしても、お金に任せて買い集め、無茶な事をする人が出ないようにするため、今のところ販売はしないとしている。

 無理にならない範囲で、親しい人には一つや二つくらいは融通するけどな。

 ともあれ、体力回復薬に関して……効果は、体の疲れと筋肉を多少回復させる程度。


 一度に大量に服用してもその効果は一定しか出ず、効果自体も強い物じゃない。

 精々が、寝不足で取れなかったちょっとした疲労や、筋トレ後に飲めば筋肉痛にはならないけど、筋肉疲労はまだ残っているのを実感できる程度だ。

 完全に全身の疲れを取る事はできない。


 ミリナちゃんが試作して、フィリップさんとか護衛さんに試してもらったところ、大体三分の一から半分くらい回復する感覚だったと聞いている。

 その三分の一や半分が、何から導き出されているのかわからないが、とにかくそれくらいという実感だとか。

 俺のイメージではファイト一発でお馴染みの栄養ドリンクだったんだけど、あれは個人的に元気になったかな? というくらいでしかないから、実感があって本当に元気になれる体力回復薬は凄いと思う。

 日本にいた時これがあればなぁ……いやいや、そうだったらもっと無茶な働き方をさせられて、レオの事がおろそかになっていただろう、ただでさえ伯父さん達に預かってもらう事が多かったのに。


「一度に飲んでもダメと言っていたが、どれくらいの間を空ければ次の効果が見込めるのだ? 一時間程度だとかならば、先程聞いた疲労回復薬草とそう変わらない使い方ができそうだが……」

「だ、大体ですが、一日くらい間を空けなければいけません。ピッタリ一日ではなく、人によって数時間くらいの誤差はあるみたいですが……」


 エルケリッヒさんの問いかけに、体を固めて答えるミリナちゃん。

 そんなに緊張しなくてもいいと思うけど、やっぱり先代の公爵家当主様だから仕方ないか……公爵家現当主様やその娘の姉妹、さらに多くの人が注目しているしな。

 とにかく、誤差は個人差はあるみたいだけど、大体二十時間以上間を空けないと次の効果が出ないらしい。


 なら、大量購入大量服用で、薬草のように無茶な事まではできないだろう。

 ちなみに他の二種類の薬と違って、体力回復薬は飲み薬のため、大量に飲んでしまうとお腹がたぷたぷになったりする。

 何事も用法用量を守ってだな。


「購入者にはそれらの説明をしますが、それ以外に一つだけ問題があります。ほぼ解決はしたのですが……」

「問題?」

「は、はい。この薬を飲むと、少しだけ眠くなってしまうのです。試作した段階では、それが強く出てしまっていて、販売できるかどうかだったのですけど……」


 首を傾げるエルケリッヒさんだけでなく、他の人達にも向けて問題点を話すミリナちゃん。

 体力回復薬を飲んで感じる眠気は、我慢できない程じゃない。

 だけど、安眠薬草程じゃなくとも悪用できてしまう可能性があるので、本当に販売していいのか悩ましかった。

 無責任でいられたら、買った人達の自己責任だし悪用したならいずれ捕まるだろう、くらいでいたと思うけど。


 でも自分が作った物が、誰か被害者を作ってしまうような事になっても平気な程、無責任じゃない。

 ……何事も抜け道があるし、全てが絶対悪用されないよう気を付ける事もできないけど。

 ともあれ、ミリナちゃんの頑張りで、その眠気を誘発する副作用も改善された。


「材料は先程師匠……タクミ様が言った通りの物なのですが、その調合法を少し変えてみたんです」


 試作品は、疲労回復薬草、筋肉回復薬草、安眠薬草をそれぞれ一つ。

 さらにそれらを井戸水を使って調合する事で、効果を弱めた体力回復ができていたんだ。

 ちなみに、眠気の副作用を失くそうとして安眠薬草を除いてしまうと、疲労回復薬草と筋肉回復薬草の効果が完全に失われてしまうので、薬にならない。

 水と油を安眠薬草という界面活性剤で混ぜるようなイメージだろうか。


 とにかく、体力回復薬としての効果を保ちつつ、せめて副作用の眠気をもう少し抑えられたら……と考えていた時、ミリナちゃんが逆転の発想で安眠薬草を多く調合してみたらしい。

 一対一対一だったのが、一対一対二にしたとかそんな感じだ。

 すると何故か、眠気の副作用がこれまでより薄くなり、ほとんど感じられなくなったものができ上がったと。

 どうしてそうなるのかは不明だけど、眠気の副作用の元になっているはずの安眠薬草を、さらに増やす事で副作用が減退するというのは、不思議だ。


「そ、それで……ですね。この体力回復薬は、眠気がほとんど感じられない物になっています。全くないわけじゃないのですけど……」

「ふむ。少し、試してもいいか?」

「えぇ、どうぞ」


 ミリナちゃんの説明を終えて、興味深々だったエルケリッヒさん。

 どうしたらと俺を見るミリナちゃんに頷き、エルケリッヒさんにテーブルにあった物の中から一つ渡す。


「ついでですので、他の人達も……特に、今日到着した人達は疲れていると思いますから」

「タクミ殿、私ももらっても良いか?」

「もちろんです」


 ミリナちゃんが作ってくれた体力回復薬を、ついでだからと従業員さんに渡して試してもらう。

 同じく興味を持ったエッケンハルトさんにもだ。

 それぞれ、瓶の蓋を開けて飲んでいくのを見守った――。



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