第1444話 体力回復薬の話に移りました



「む、わかっていたのか。さすがだな……」

「ふふ……」


 狙いを指摘されて感心するエッケンハルトさん。

 クレアは、俺とエッケンハルトさんのやり取りを微笑んで見ている。

 実は今言った公爵家としての狙いの部分、エッケンハルトさんが考えている事や、潤うといった内容は、クレアやセバスチャンさんから教えられた事だったりする。

 エッケンハルトさんは、利益を得る事で俺やギフトを利用すると思われるのではないか、と考えて言えなかったみたいだ、ともクレア達から言われた。


 多くの人を助けるのは間違いないし、領民をないがしろにして利益を得ようというわけではない。

 お互いウィンウィンという関係なので、俺は利用されているとも思わないし言われても協力していただろうに。

 まぁエッケンハルトさんはエッケンハルトさんで、考えがあるし気にしなければいけない事があるんだろうと思う事にした。


「薬草だけでも十分に上手くいって運営できるでしょうけど、それなら多少の利益を得て、働いている人達皆も笑顔になればと。目玉商品があれば、目立ちはしますが隠しておきたい事からは目を逸らせますからね」

「実利も兼ねてか。確かにタクミ殿の能力は、広く知られない方がいいからな。よく考えてある」


 俺一人ではなく、セバスチャンさん達使用人さん、それから新しく雇った使用人さん達からの助言あってこそだ。

 俺だけだったら、深く考えていなかっただろうから、そういう人達がいてくれるのは心強い。

 公爵家ゆかりの人達ばかりだから、今回は深く考えていなくても良かったかもしれないけど。


「それじゃ、最後は……」

「こ、こちらになります」


 傷薬の紹介を終えたら、最後にもう一つ……唯一問題があって、販売をどうしようかと考えていた薬、体力回復薬だ。

 試作段階では、安眠薬草の効果が少しだが残っていて、使い方次第で悪事にも利用できそうだったためだな。


「ふむ、それはどんな薬なのだ?」

「こ、これは体力回復薬と言います。その名の通り、体力……体と筋肉の疲労を取るもの、です」

「体と筋肉……それはどちらも同じなのではないか?」


 一生懸命説明しようとするミリナちゃんに、首を傾げるエルケリッヒさん。

 疲労回復薬草と筋肉回復薬草を知らないから、当然の疑問だな。

 同じく、従業員さん達やテオ君も不思議そうな表情をしていた。


「いえ、父上。タクミ殿の作った薬草には、疲労回復と、筋肉回復の二種類があるのです」

「エッケンハルトさんの言う通り、二種類の薬草があって……」


 エッケンハルトさんの言葉を継いで、皆に説明していく。

 疲労回復薬草は、その名の通り疲れが取れる物だけど、唯一酷使した筋肉の疲れは取れない……鍛錬の時に使うと違いがよくわかるんだけど、とにかく翌日以降に起こる筋肉痛を防げないと思えばいいか。

 筋肉回復薬草は逆に、筋肉の疲れが取れてどれだけ酷使しても薬草を食べれば、筋肉痛知らずなんだけど、疲れまでは取れない……だるさみたいなものが取れないと考えればいいかもしれない。

 最初の頃は不思議で、なぜそうなるのか考えていたりもしたけど、どうしても理由がわからないのでとにかくそういう事だと考えるようになった。


 もしかしたら、成分から何まで全て事細かに研究して調べればわかるかもしれないけど、できないので後回しとか考えないようにしたともいう。

 そして、体力回復薬はその両方の効果を実現させているので、疲労とか筋肉ではなく体力とした……ミリナちゃんが考えた事だけどな。


「そのような薬草が……タクミ殿の『雑草栽培』があれば、他にも様々な事がと考えてしまうな」

「でしょう、父上。タクミ殿自身が、あまり『雑草栽培』をすごい能力だと思っていない部分もあるのですが、私としてはギフトの中でもかなり有用だと考えています」


 俺の話を聞いて、唸るエルケリッヒさんに何故か得意気なエッケンハルトさん。

 けど今はもう、俺自身のギフトが取るに足らない能力だなんて一切考えていない。

 初めて『雑草栽培』というギフト名を聞いた時は、どうなのかな? とか思ったし、使い慣れていないうちは倒れてしまった事もあって、ちょっと便利くらいの認識だったけど。

 けど今、こうして俺の『雑草栽培』を起点として、薬草畑を運営するために皆が集まってくれているし、俺も役に立とうとしているのだから、過小評価するつもりはないししていないからな。


 そういう話をしていないから、初めて会った時くらいの印象でエッケンハルトさんは考えてしまっているのかもしれないけど。

 あの頃は、とりあえず薬草を売りつつ少しでもお世話になった公爵家の人達に、恩返しができたらと思っていたくらいだ。


「そうだな。閣下……いや、ワシの知っているギフトは、個人として凄まじいのは間違いないが、タクミ殿のギフトは多くの者に影響させる事ができる」


 途中で言い淀んだエルケリッヒさんが言いたかったのは、ユートさんのギフトだろう。

 どんな魔法でも使えるうえ、魔力もギフトの能力が許す限りいくらでも……さらにお酒を飲めば酔わない代わりに能力が使い放題、とまでは言わないが通常よりも多く使う事ができる。

 実際、ユートさん自身も不老という地球の人間が、有史以来求めてやまなかった事を魔法で成し遂げているからな。

 しかも、今ここにある国を興して……初代国王として国を作ったユートさんだけど、そこにギフトの影響とかが全くなかったなんて事はないだろう。


 方向性は違うし、確かに俺のギフトは多くの人に影響を与える事ができるだろう、いい事も悪い事も。

 だけどユートさんも、実際多くの人にギフトによって影響を与えているのは間違いない。


「まぁどれだけの人にどんな能力が影響を与えるかはともかく、体力回復薬ですが……」 

「おぉ、そうだったな。すまん、タクミ殿」

「いえ」


 話がギフトの方へ逸れそうだったので、ちょっと強引に戻す。

 エルケリッヒさんが謝るのに対し、首を振って応えた。

 ギフトに関しては、ティルラちゃんの事もあるからまた改めてだな。


「ミリナちゃん、体力回復薬の説明をお願い」

「わ、わかりました! え、えっと……こちらは先程も申しました通り、体力を回復し、体の疲労を取り除く薬で……」


 ミリナちゃんを促して、体力回復薬に関する話を始める。

 皆の注目が集まると相変わらず緊張してしまい、所々つっかえたり丁寧すぎるくらいの言葉になりながらも、薬の意図などを話してくれた――。



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