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第1443話 傷薬の効果を確かめました
第1443話 傷薬の効果を確かめました
傷薬は治療薬なのでちょっと違うが、俺の中では絆創膏みたいな扱いだ……塗るので貼りはしないが、近いからでもある。
ちょっとした切り傷や擦り傷に対して使う、というくらいの位置付け。
簡単に手が届く物であり、確実に効果が出る物として売れるのを期待している。
別邸での試作後、大きな怪我に対しては、大量に投与……というか塗り薬なので、患部に分厚く塗り込めば多少なんとかなる、という効能も判明した。
ロエみたいにすぐに治すわけじゃないし、完全に治癒するまでは望めないし、骨折もそうだが塗り薬だからか外傷以外に効果がないのは難点ではある。
まぁこれは、ロエもそうだから大きな問題じゃない。
飲み薬での治療効果のある薬も、いずれは作りたい……内臓系とかに効くやつとか。
「どれだけの効能があるのか、見なければ少々判断に困るな」
「傷薬ですから、怪我をした人がいないと……」
当然ながら、エッケンハルトさんも言っているように気になるのは効能。
ロエが材料になっているから、効果があるのは疑っていないようだけど……他の傷薬として売られているのと、どう違うのかが知りたいんだろう。
とはいえ怪我をした人がいないと、と考えていると従業員さんの中から一人、手を挙げる人がいた。
「よ、よろしいでしょうか?」
「どうしましたか?」
エッケンハルトさん達や、皆の注目が集まっているからだろう、手を挙げつつもおずおずと窺うように声を出したのは、フォイゲさん。
三十代手前くらいで、背が高く少し目が細い……見ようによっては鋭く見える人だ。
最初に面談をした中にいた人で、あの時は三番さんだったか、今日到着した一人でもある。
「その、村に到着して荷物の整理をしている時に、少々腕を切ってしまいまして……」
「……見せてもらえますか?」
「はい」
フォイゲさんに近付き、袖を捲ってもらうと二の腕あたりに確かに切ったような傷があった。
鋭い刃物でというよりは、硬い物でひっかいたような感じだな。
荷物の整理と言っていたから、おそらく木箱を運んでいた時だろう……ダンボールなんてないから、この世界では荷物を入れるのは、革や麻袋か木箱が多い。
深くはないので、既に血は止まっているし滲んでもいない。
「放っておけばすぐに治るとは思いますが……」
傷そのものは、フォイゲさん本人が言う通り放っておいても跡が残る事もなく、治りそうなくらいのもの。
不衛生にして化膿すれば別だけど、ちゃんと洗っていて清潔にしてあるみたいだしな。
「そうですね、傷薬を試すのに丁度良さそうです。――ミリナちゃん?」
「は、はい!」
フォイゲさんに頷き、ミリナちゃんを呼んで傷薬を試してもらう。
皆に注目されて、ガチガチになりながらも瓶から指で薬を掬い取って、同じく緊張しているフォイゲさんの傷に塗っていく。
そういえば、試作した傷薬は見たし実際に護衛さん達が使って、確かな効果が出ているのは聞いたけど、使用するところを見るのは初めてだな。
「これで、少しだけ待つと……そろそろいいかな? あ、ありがとうございます。失礼しますね」
傷の具合からの判断か、傷薬を薄く塗ったミリナちゃんの言う通り、少し待つ。
その間に、ジェーンさんがタオルを持ってミリナちゃんに渡す。
お礼を言いつつ、フォイゲさんに塗った薬を拭きとると……。
「おぉ……傷が塞がっています」
「ほぉ」
「ちゃんとした効能が出ていますね」
さっきまで痛そうなひっかき傷があったフォイゲさんの腕は、それらしき跡がなくなって綺麗に治っていた。
少し驚いた様子のフォイゲさんだけでなく、成り行きを見守っていたエッケンハルトさんやクレア達からも、感心するような声。
「こ、この通り、傷薬としての効能は間違い、あ、ありません! ただ、やはりロエとは違って、薬を塗って少し、ま、待つ必要があります。傷の深さによって、塗る量と時間も増える……です!」
薬の効果を目の当たりにして、さらに注目が集まったミリナちゃんは、時折つっかえながらも傷薬を紹介し終えた。
よく頑張ったと思う。
「これは……間違いなく売れるだろうな。他にも効く物、効かない物と千差万別の傷薬はあるため、販売開始直後から売れるのは難しいだろうがな。ただ、効能を実感した者は、必ずまた買いに来るだろう」
ミリナちゃんと一緒に元居た場所に戻ると、テーブルに置いてあった別の傷薬の瓶を持ちながら、唸るように言うエッケンハルトさん。
エルケリッヒさんも、同じく感心したように見ている。
「確かな効能ですが、使ってみないとわからないので最初は仕方ないですね」
他の薬草や薬でもそうだが、わざと怪我をして実演するわけにもいかないので、こちらの説明に納得いった人が買い、効果を実感してもらうしかない。
ただし、エッケンハルトさんの言う通り間違いのない物とわかれば、その後も売れ続けてくれるだろう。
「評判になれば……数を売る事も可能ですし、皆そちらに目が行くので……」
「ロエを使っているとわからなければ、目玉商品として色々な事から皆の目を逸らす事ができるわけだな。うむ、いい考えだと思う」
ここにいる人達は『雑草栽培』の事を知っているので、材料がロエだと話しているけど、販売時には当然秘密。
お客さんに嘘を吐くわけにはいかないので、聞かれても独自の製法でとか言って誤魔化す事になっている。
まぁ薬を売っている店が、その商売の種である調合法やら何やらを教えないのは当たり前の事だから、問題はない、と言われている。
もしなんらかの形で、権力者とかの圧力で教えろと強制しようとしても、こちらは公爵家と直接繋がっているからな。
知っていればそんな馬鹿な事をしようとする輩はいないだろうし、いても対処可能という事だ。
ただ、本来『雑草栽培』に対する目隠し用には別の薬を作っていたんだけど、それよりも傷薬の方が大きな役目を持ってくれそうだったりもするけど、悪い事じゃないからいいか。
傷薬の重要度が、俺達の中で少し上がるくらいだ。
「中々面白い事を考えるな。私は、タクミ殿の作る薬草をもっと多く、領内に行き渡らせれば助かる者が多いと思っていただけなのだが」
「そのうえで、公爵家としても潤うし領民も助かって、という考えですよね?」
エッケンハルトさんの言葉に、ちょっとだけ口角を上げてそれだけではない狙いを指摘した――。
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