第1447話 本日付けで皆の所属が変わりました



 新しく作った薬は、実用できたとしても、まだまだ先の事だと思っていたのをミリナちゃんがやり遂げてくれたんだから、胸を張っていいと思う。

 薬の調合をするために、知識の記された書物をセバスチャンさんに頼んでいたり、寝る間も惜しんで勉強して頑張っていたのは、ライラさんから聞いているから。


 調合係にミリナちゃんを据えているけど、新しく商品開発部門を任せたり、役職手当みたいな形で給金を上げられるよう、キースさんと相談しておかなきゃな。

 俺は頑張ればちゃんと評価できる上司を目指したい……できるかどうかはこれから次第だな。


「では次に、薬草畑に関してです。畑のための用地は確保してありますので、順次耕すなりで薬草を栽培できる環境を整えたいと思います」


 畑の用地は、前に来た時に確認しているから、後は整えるだけだ。


「こちらには、今はまだ他にやる事がないフェンリル達と協力して行って下さい」


 耕すと言うのとちょっと違うかもしれないが、穴を掘る、土をかけるなどの作業はフェンリル達のお手の物だ。


「本格的に開始するのはもう少し先なので、無理をしないように。ペータさんが到着してからと考えているので、今はちょっと運動をするくらいのつもりでいて下さい。まずは、この村に慣れる事や引っ越して来たばかりなので、そちらを優先する事」

「「「「はい!」」」」


 大きく頷いてくれる、従業員さん達。

 早く仕事がしたい、と言った様子の人もいたから……主にガラグリオさんとかだけど、これくらいでいいだろう。

 もちろん、仕事の一環でもあるのでただ働きをさせるつもりはない。


「今日この日を起点にして、村に到着した人から順に給金を発生させて計算します。ですので、早く働かないとお金に困る、という事はありません」

「それは……よろしいのでしょうか?」


 俺の言葉に訝し気にこちらを伺うのは、面談の時に会った十七番さんのアノールさんだ。

 確か、計算関係が得意な人らしく、収支などの経理職をしてもらえればと雇った人だ。

 だからこそ、まだ本格的に始まっていないのに、給金を出すと言った俺に疑問を感じたんだろう。

 要は、運営するうえでの財務は大丈夫なのか? ってとこだ。


「まぁまだ全体としての利益を得る前なので、心配になるのもわかりますが大丈夫です。安心して下さい。――ですよね、キースさん?」


 アノールさんに答えてから、キースさんに話を振る。

 こういったお金関係……任せっきりというわけではないけど、経理に関してはキースさんが頼りになる。

 それに、アノールさんも俺一人より他の人からも言われた方が、安心できるだろう。

 保証というわけではないけれど。


「はい。今はまだ、開始前であり状況から見れば無収入。一切の利益がないようにも思われますが……すでにタクミ様は、いえ、旦那様は公爵家との薬草売買の契約を結んでおります。そして、先程披露された薬は別ですが、既に薬草の販売もしているのです。その利益をもって、皆様の給金は賄えます」

「そ、そうですか。わかりました、ありがとうございます」

「いえ、心配になるのも無理はありませんから、疑問は当然です」


 キースさんが説明してくれて、納得してくれたアノールさんが頭を下げる。

 給金が出ると言われると嬉しいけど、それで本当に運営は大丈夫なのかはやっぱり心配になるよな。

 それに、ただただお金がもらえる事を喜ぶだけじゃなく、ちゃんと質問をしてくれるのはアノールさんが優秀な証拠でもある気がする。

 一応運営するトップである俺やクレア、それにエッケンハルトさん達が見ている中で、疑問に思っても口に出せるのは考えがしっかりしているからだろうと思うから。


「それに、少しとはいえ仕事をさせる事になるんですから、給金を払うのは当然の事です」


 ラクトスに卸している薬草でかなりの収入があって、使いどころに困るくらいだからな。

 むしろこの機会に、少しでも溜め込んでしまっているお金を減らしたい。

 どうしても、保管に気を遣ってしまうし……なんとなく、大金が身近な場所にずっとあるというのは、防犯意識とはまた違った意味で落ち着かない小心者だから。

 そんな事を考えながら、しておかなければいけない話を口に出す。


「あ、そうでした。先程言うのを忘れていましたが、屋敷で働く使用人さん達も今日から俺預かりとなります。まぁ、これまでとほとんど変わりはないですけど……」


 本当に忘れていたわけではなく、これもちょっとしたパフォーマンスだったりする……俺だと本当に忘れる事もあり得るけど。

 完璧になるよう装って、隙がなさそうな運営者よりもこっちの方が親しみやすいかなーとね、せめて身内と言える人達に対しては。

 ……アルフレットさんは反対とまでいかなくとも難色を示していたんだが、ライラさんからは思うようにと言われたのでこうした。


「はい、畏まりました。微力ながら、旦那様のお手伝いをさせて頂きます」

「粉骨砕身、旦那様をお支えするよう努めます」


 俺の言葉に続き、一歩前に出て皆に向かって礼をするライラさんとアルフレットさん。

 さっきキースさんが一度言い直したように、これからはタクミ様ではなく旦那様と呼ばれる。

 それは、俺に雇われると決まっていても一応公爵家所属となっていたからだな。

 今日これからは、俺が正式に雇った使用人となる……ちょっと回りくどいけど、区切りとして一番タイミングが良さそうだったから。


 変わるのは給金が俺から出る事と、俺への呼び方くらいで、それ以外はほとんど変わらないんだけどな。

 リーザは既にお嬢様と呼ばれているし、レオは最初からレオ様だ。

 ……せめて、様を付けて呼ばれるのはむず痒いからと止めてもらおうとしたんだけど、むしろ雇われているから当然の事と言われ、さらにアルフレットさんからは慣れて下さいとも言われた。

 さん付けとか、それくらいでいいのになぁ……仕方ないか。


「皆、公爵家の所属ではなくなったが、クレアもいる事だ。傍から見ればほぼ変わらんだろう。励むようにな」

「「はい!」」


 進み出たライラさん達に、エッケンハルトさんからのお言葉。

 それに対し、意気込みを感じさせる様子で頷くライラさん他、大広間に集まっている使用人さん達。

 俺が雇った人達だけでなく、クレア側の使用人さん達も一緒だ。

 皆それぞれやる気が満ち溢れているのは、嬉しい事だと思う……無茶な事を言って困らせたり、嫌な職場だと思われたりしないよう、頑張ろう――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る