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第1440話 フェリーの相談に乗りました
第1440話 フェリーの相談に乗りました
「うむ。いつまでも先代が居座っていては、現当主がやりにくいと思ってな」
「そう言いつつ、お爺様達は悠々自適に暮らしたいがために、本邸を出たのだよタクミ殿。私に多くの仕事を押し付けて」
「……当主なのだから、やるべき仕事をしないといけないだろう。量に関わらずな。だがまぁ、本邸を離れて少数の使用人や護衛と共に過ごすのは、心休まる時間だと実感してゆっくり過ごさせてもらってはいるがな」
なんて、楽隠居みたいな感じでエルケリッヒが言って、エッケンハルトさんがジト目をしていた。
理由はともかく、これまで頑張っていたからこそのんびり過ごしたいし、過ごしてみて楽しいという気持ちはわかる。
培ってきた経験は、まだ若輩者と言える俺はエルケリッヒさんに遠く及ばないけど……この世界に来て多少の忙しさはあれど、のんびりできる事も多くなって実感している事だから。
ちなみに、エルケリッヒさん達の暮らす屋敷は別邸と同じくらいの規模で、少数の使用人や護衛って一体……なんて思ってしまったけど。
別邸って、使用人さんと護衛さんを合わせたら百人以上いたはずだけどなぁ。
まぁ別邸は公爵家にとって別荘扱いらしいし、エルケリッヒさん達が住んでいるのも同じ扱いと考えれば納得でき……るかなぁ?
のんびり過ごす事ができているなら、いいのかもしれないと思いつつ、食後のティータイムを終えた――。
「グルゥ、グルルゥ」
「ん、どうしたんだフェリー?」
「ワフ?」
食事会が終わり、屋敷に入ろうとした俺やレオを、フェリーの鳴き声に引き留められた。
この後は、昨日に引き続き皆で集まって今後の話し合いが行われる予定になっているんだが……昼食での話は、あくまで雑談だからな。
ちなみにレオとリーザは、村や児童館の子供達と遊ぶ予定なので、おやつを持って出かける事になっている。
おやつは革袋に入れられたソーセージが、唐草模様の風呂敷に包まれており、既にレオの首に括りつけられている……お出掛け準備万端だ。
レオのだけでなく、子供達とも一緒に食べるように言ってあるから、遊んだ後の休憩にもいいだろうし、量は多くないので夕食にも差し支えないはず。
甘い物じゃないのは砂糖が貴重だからだ。
「グル、グルルルゥ! グルゥ……」
「えーっと……?」
何やら、中庭にいる他のフェンリル達に向かって前足を上げながら、訴えかけるように鳴くフェリー。
レオの背中に乗っているリーザに通訳してもらうと……フェンリル達にやる気がない、と言ってため息を吐いているようだった。
気になって詳しく聞いてみると、今朝散歩と称して村の周囲を走り回ったような事を、フェリーが他のフェンリル達にもと考えたようだ。
フェリーとしては別邸でもやっていた、毎日の散歩のつもりだったらしい。
だけど、敷地外のフェンリル達が爆走するレオ……というより、それになんとかついて行っていたフェリー達を見ていて、尻込みしているという事らしい。
あと、戻ってきた時にフェリー、フェン、リルルの疲れている様子を、敷地内のフェンリル達が見ているのも。
それが相互に伝わって、恐ろしい訓練が……! みたいな印象となってやる気が失われていると、フェリーは感じられたと。
だから、フェン達にはフェリーも視線を向けなかったし、リルルが他のフェンリル達を睨んでいるのか。
「だから、ママやパパに活を入れて欲しいって言っているよ、パパ!」
「ありがとうリーザ。うーんそうだなぁ……フェリーは、レオと走ったようなのを今後も続けたいのか?」
「グル!? グルルルゥ、グルグル!」
通訳してくれたリーザにお礼を言って、少し考えてからフェリーに聞く。
しかしフェリーは、驚いたあとに全力で首を振った。
フェリーは散歩とはいっても、レオについて走った時みたいな速度は出す気はないみたいだ。
「そうか……でも、あれを見た後に散歩って言われると、他のフェンリル達も同じ事をすると思うんじゃないか?」
「グルゥ? グルル」
そんな気はないと、もう一度首を振るフェリー。
これは、意思の疎通がちゃんとできていない典型だな。
「散歩って言って、俺がフェリー達を連れ回したのも悪いと思うけど……」
「グルゥ、グルグル……」
散歩はストレス解消とか適度な運動とか、基本的に楽しい行動だ。
だから、それを嫌な事や辛い事だという認識にはなって欲しくないので、フェリーとフェンリルの間にある誤解を解くように伝える。
まぁ外に出たくないと考える、散歩嫌いの犬もいるようだけど……フェンリル達は違うからな、元々野外というか森で暮らしていたわけだし。
「だから、散歩をするとただ伝えるだけじゃなくて、別邸……えっと、ここの屋敷に来る前にいた場所でやっていたような、自由にのんびり走り回る事くらいで伝えないとな」
「グルゥ! グル、グルルゥ」
「ははは、こんな事くらいなら、いつでも相談してくれ。ただ、自由にと言ってもあまり遠くまではいかないようにな? 戻ってこれないなんて心配はしていないけど、一応。それと、散歩に行く時は必ず誰か人を載せて連れて行く事。いいか?」
「グルゥ、グル!」
フェリーが言葉足らずだったと気付き、俺に対して頭を下げたので笑いかけて撫でてやる。
もう一度、俺に感謝をするように鳴いたあと頷き、フェンリル達の所へ駆けて行ったフェリー……これですぐに誤解は解けるだろう。
人を連れて行くのは、当然ながらフェンリルが自由に行動していて、村や屋敷の人達以外に見られたらら大変な事になるかもしれないからだ。
フェンリルを怖がって、自己防衛のために攻撃とかされたらいけないからな。
反撃は場合によっては許可、だけど控えるように言ってあるから大丈夫かもしれなくても、もし万が一にでもフェンリル達が怪我をしちゃいけないし。
人が一緒にいれば、ある程度そういった悲しいすれ違いは起きないと思うし、避けられる。
あと、フェンリル達に判断できない事もできるし。
そう考えながら、アルフレットさんに別邸での散歩と同じように、使用人さんを何人か……あと希望者がいれば護衛さんや村の人達からも、募って見る事を伝えた。
護衛さん達は機会が少ないけど、人気でフェンリルに乗りたいと思っている人も結構いるみたいだし、村の人達にも慣れてもらえればな。
そうしていると、フェリーを見送っていたレオが溜め息を吐いた――。
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