第1439話 クレアの祖母は凄い人のようでした



「私の前では、そういった様子は見られませんが。ですがそうですね、タクミさんが来るまで……特にお母さまが亡くなってからは、私とお父様が話す機会は多くありませんでしたから」

「見ていないだけだろう。それに、母上はクレアやティルラに、自分のそういった姿を見せるのを嫌っておるからな」

「厳しい姿を見せれば、孫娘に嫌われると思っている節があるな……ワシもそうだが」


 まぁ、エルケリッヒさんもそうだけど、孫にはいい祖父母でいたいというのはわからなくもない。

 孫なんている年齢じゃないけど。

 そんな風に、ちょっと面白いなと思いつつ、リーベルト家の事情を聞いていたらエルケリッヒさんが何かを思い出したようで、クレアを見て言う。


「そうだ、クレアの事を褒めていたぞ」

「お婆様がですか? 私、何かしましたでしょうか?」

「あれだあれ、クレアが見て評価を得た者を使用人にするというやつだ。使用人として働き始めた者達は、不足なく働いてくれているとな」

「そういえば……私が確認した人達を、お爺様達の使用人としても雇ったのでしたね」

「クレアが送り込んだんようなものだがな。本邸でも、クレアに見出された者達は存分に働いてもらっているぞ」


 クレアが雇うべきかどうか、人を見る目を持っているという話は何度となく出ていたから、それの事だろう。

 ライラさん達もそうだし、本邸で働く人も……それだけでなく、エルケリッヒさん達の使用人さんも選んでいたのか。

 そういえば、今回働いてくれる人の中で本邸からきた人達に、クレアが見出したという人はいなかったな。

 どうしてか聞いてみたら、皆クレアの近くで働く事を断る事はないだろうけど、俺に雇われるのには不満に思う人もいるかもしれないとの事だった。


 中には、それを隠そうとする人もいるかもとの事だったので、とりあえず本邸から向かわせた人達にそういった人は入れなかったのだとか。

 まぁ今後増員するのであれば、次はそういった人もいるだろうとも言われたけど。


「もしかしたら、クレアは祖母に似ている部分もあるのかもしれんな。人を見ると言うのか、」

「私がですか? それはまぁ、お婆様ですし似ている部分があるのは当然ですけど。先程、お婆様の話を聞いて嬉しくも思いますが……」


 目を細めるエルケリッヒさん。

 クレアとお婆さんが似ているか……俺はその話題のお婆さんを見た事がないからわからないけど、血が繋がっているのだから似ている部分もあるんだと思う。

 父親のエッケンハルトさんに似ていると思う部分は、実は結構あるんだけど。


 よく頬を赤く染めて恥ずかしがる姿を見ているけど、意外と大胆なところがあるとか、思い切ったら一直線な所とか。

 起きた時と寝る時の挨拶として、ハグが習慣化するとは思わなかったからなぁ……物怖じしないというか、やりたい事や求める事に素直に表に出すのは、エッケンハルトさん似な気がする。


「俺は、エッケンハルトさんに似ている部分が多いような気がしますよ。まぁ、そのお婆様には会った事がなく、話しに聞くだけだからかもしれませんが……」

「私がお父様にですか? 少し、複雑です」

「何!? ク、クレア……私に似ているのは嫌なのか!?」


 考えていた事をそのまま口にすると、困ったようになるクレアとショックを受けるエッケンハルトさん。

 娘から複雑だと言われれば、世の父親は落ち込むものなのかもしれない。

 ……もし俺が、リーザからパパに似たくないなんて言われたら……止めよう、想像だけでも胸が締め付けられるような気がするから。


「いえ、嫌という程では……ないのですけど」


 そう言いつつも、ちょっとだけ不満そうなクレア。

 その視線は、エッケンハルトさんが食べていた料理のお皿に向いているから、あの豪快な食事の仕方を考えているんだろう。

 何度か、注意しているところを見た事があるけど、確かにあれに似ていると言われたら女性としては、特に淑女を目指していたクレアとしては、納得がいかないのかもしれないな。


「ははは、似ているって言っても食べる姿とかじゃなくてね。なんというか、一直線なところとか素直なところとか、かな?」

「ふむ、確かにクレアにはそういうところがあるな。思い立ったら行動せずにはいられない、とかだな。今は落ち着いているが、幼い頃のクレアは……」

「セバスチャンさんからも聞いていますけど、お転婆だったのだとか」

「そうなのだ。タクミ殿、昔のクレアは……」

「もう、恥ずかしいです……お爺様もタクミさんも、お父様も……止めて下さい……」


 俺の言葉にエルケリッヒさんが乗り、お転婆だったと聞いた話を持ち出すと、今度はエッケンハルトさんも乗ってきた。

 クレアは、俺だけでなく父親と祖父を相手に強く止める事ができず、頬を染めて俯いてしまった。

 ちょっとからかい過ぎたかな? あとで謝っておこう……機嫌を損ねたいわけじゃないから。

 ちなみにその時聞いた話で、他の貴族の子息でクレアの一つ上の子と対面した時、大人達が目を離した隙に言い合いになったらしいんだけど、力尽くで説き伏せたというのがあった。


 それは本当に説き伏せたと言うのかという疑問はさておき、一つ上とはいえ男の子を力尽くでというのは中々できる事じゃない。

 ティルラちゃんが生まれる前の事らしく、リーザくらいの頃みたいだけど。

 でも、男女の違いだけでなく、そのくらいの年頃の一歳はかなり大きな差になるというのに。

 エルケリッヒさんが、エッケンハルトさんも似たような事をしていたと溜め息を吐いていたのが印象的だった。


 やっぱり親子なんだなぁ。

 そんな風にクレアの幼い頃の話をしつつ、昼食が終わり、ティータイムになってようやく恥ずかしがっていたクレアが持ち直したあたりで、ふと気になって質問をしてみた。


「そういえば、話を聞いていたらエルケリッヒさんは、公爵家の本邸では暮らしていないみたいですね?」


 エッケンハルトさんの代わりに本邸に、とかの話しで既にわかっている事だけど。

 先代当主様だから、本邸にいてもおかしくないからちょっとだけ不思議だったんだ。

 特別な意味があるような雰囲気じゃないから、ティータイムのちょっとした雑談に良さそうだと思ったのもある――。



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