第1431話 リーザとレインドルフさんの事を話しました



「どうしたの、パパー?」

「えっとな、今リーザのお爺ちゃん……レインドルフさんの話をしていたんだけど」


 俺達の話は聞こえていなかったらしく、キョトンとしているリーザに今話していた事を簡単に伝える。

 レインドルフさんの事なら、リーザにも聞く権利があるはずだ。

 戦争とかはともかくとして、理解できる部分は知っておいた方がいいと思うから。

 リーザは人間よりも聴力がいいみたいだが、客間は広いしテオ君達とワイワイやっていて、俺達も響き渡る程大きな声で話していたわけじゃないからな……エッケンハルトさんは地声が大きめだけど。


 エルケリッヒさんが大きく驚いて叫んだ時に気付いて、こちらを見ていたくらいだ。

 レオならもしかして聞こえていたかもしれない、と思ったらジッと俺やリーザを見て気にしている様子なので、気になっているんだろう。

 ただ、背中に乗っているテオ君とオーリエちゃんがいるため、動けないみたいだな。

 耳がピンと立っているので、そのままでも話は聞いているだろう。


「リーザ、レインドルフさんの事を少し教えてくれるかい?」

「お爺ちゃんの事? いいよー。でも、何を話したらいいのかな?」

「そうだなぁ、レインドルフさんの見た目とか、リーザがわかる範囲でいいから」

「うんわかったー。えっと、お爺ちゃんは……」


 リーザに言って教えてもらうレインドルフさんの事。

 ほぼ確定だろうけど、本当にエルケリッヒさんの言っていたドルフさんと、リーザを育てていたレインドルフさんが同一人物かの確認でもある。

 容姿に関しては、三十年以上も経っているので合致しない部分はあるけど、エルケリッヒさんの記憶にあるドルフさんと大きく差はないようだった。

 あと、体格なんかもほとんど同じだろうとの事だ。


 性格も大きな違いはないようで、ドルフさんとレインドルフさんが同一人物だと確定していく。

 リーザがレインドルフさんの事を一つ一つ話していくごとに、エルケリッヒさんが驚き、体を振るわせたりと反応していたのが証明でもあった。


「そういえば、ドルフは武器……刃物の扱いが得意だったが」

「刃物……リーザ、ナイフの扱い方はレインドルフさんから教わったんだよな?」

「そうだよー。でも危ないから、ずっと持ってちゃいけないって。必要な時に貸すからって言われたよ」

「そうか……」


 一番の決め手は、リーザが教わったらしいナイフの扱い。

 まぁ、実際にリーザが今使っているのはグルカナイフで、通常のナイフとはまた少し違う物ではあるが。

 ともあれ、エルケリッヒさんのよく知っているドルフさんは、剣や槍、斧などなど、金属の刃が付いた武器の扱いが得意でよく人に教えていたらしい。

 エルケリッヒさん自身も、剣などをドルフさんから手ほどきを受ける程だったとか。


 扱いに長けているうえ、人に教えるのも上手かったみたいだな。

 エッケンハルトさんやニコラさんのように、一部の剣が得意というわけではなく、多くの種類が平均以上……器用貧乏タイプだったのかもしれない。

 いや、人に教えられるくらいだから、単純に器用だったんだろう。


「タイプで言えば、フィリップに近いか。あれも、多くの武器が扱える。人に教えられるとまでは言えないが……」


 フィリップさんの方が、器用貧乏なようだ。

 とにかく、器用に武器を扱えてさらにサバイバルに関する知識や心得なんかもあれば……全てを没収されていても、魔物に襲われても、なんとか生き残れると思う。

 実際、それで生き残ってリーザを拾って育てるまでやっていたんだから、大した人だ。


「これは何かの導きか……いや、リーザを引き取る事をレオ様が立言したのだったな。だとしたら、シルバーフェンリルの、レオ様の導きと言えるか」

「さすがに、レオはそこまで深く考えていないと思いますけど……ただリーザが気に入ったとか、それくらいで……」


 感極まったのか、片手で顔を覆っているエルケリッヒさん。

 指の隙間から、目がからり潤んでいるのが見えた……導きというか、世間は狭いと言うべきなのか。

 何はともあれ、レオがここまでの事を考えてというわけではないだろう。


 離れた所からレオが抗議するように「ワフ!」と鳴いていたが、それはスルーしておく。

 だって実際あの時のレオに、レインドルフさんとエルケリッヒさんの繋がりがわかるわけもないからなぁ。

 そもそも、エルケリッヒさんと知り合ってすらいない。


「……おおよその事は理解した。だがタクミ殿、こうしてリーザがここにいる以上、ドルフは……?」

「……」


 はっきりとは聞かれなかったけど、エルケリッヒさんが聞きたいのはレインドルフさんの生死についてだろう。

 まだリーザ自身が、引き摺っていそうな気がしたので、俺からもはっきり口には出さず、目を伏せて首を左右に振るだけにしておいた。


「そうか……」


 それだけで察したエルケリッヒさんは、小さく呟いて俯く。

 エッケンハルトさんやクレアは、どう声を掛けたらいいのかわからない様子で、損阿エルケリッヒさんを見つめる。


「……もう一度だけでも、顔を合わせたいと願ってはいたが……仕方あるまい。だが、こうしてドルフはリーザという子を保護し育てていた。償いだったのかもしれんが、次代に託したとも言えるか」

「そうかもしれません。レインドルフさんがいなければ、リーザはここにはいませんでしたから」


 どういう状況でリーザを拾ったのかまではわからないが、まだ赤ん坊くらいだったらしい……とはイザベルさんから聞いていた。

 もしレインドルフさんが発見して保護していなければ、リーザはそのまま誰にも知られずにという事だってあり得たはず。

 それに、獣人の国との諍いの原因となったレインドルフさんだからこそ、獣人のリーザを保護して優しく育てようと思ったのかもしれない。

 もう亡くなった人の事なので、全ては推測の域を出ないが……。


「あ、それから、一つ疑問なんですけど……」

「どうした、タクミ殿?」

「いえ、リーザが言うには、レインドルフさんが剣のない鞘を持っていたみたいなんです。あれは一体何なのかと……」


 全ての財産を没収されたはずのレインドルフさんが、装飾の施された見るからに高そうな鞘を持っているのはおかしい。

 いや、鞘だけという時点でおかしいんだけど――。



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