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第1413話 テオ君に馬の事を教えました
第1413話 テオ君に馬の事を教えました
「レオ、済まないけど少しだけ止まって……」
「ワウー?」
「あ、あぁわかった。止まれ!」
「ワフ!」
「グル!」
テオ君と話すため、一旦走るのを止めてもらおうとレオに声をかけたら、首を傾げて鳴かれた。
合図は? と言っているようだったので、ちょっと戸惑ったけどさっきのように短く鋭く、フェリー達にも聞こえるように合図、というか声を発した。
ズザーっと音を立てて止まるフェリーやフェンとは別に、レオとリルルは急過ぎないよう速度を落としてやがて止まってくれる。
「レオ、ありがとう」
「ワフ~」
レオに乗っている俺達、リルルに乗っているリーザが、急ブレーキで飛び出してしまわないようにだろう。
感謝しつつ、背中を撫でてやった。
「さてテオ君、ちょっと俺との認識の違いがあるような気がするから、聞くけど……」
「はい、なんでしょう。認識の違いというのはよくわかりませんが、僕に答えられる事であれば、タクミさんにはなんでも」
背中側にいる俺を振り返り、輝くような笑顔というか目をキラキラさせるテオ君……こういうところは王子様っぽいなと思いつつも、距離が近い事と耳や尻尾を幻視しそうになる。
俺を見ているからなのか懐かれているからなのか、今もレオの背中に乗ったままというのは忘れて、質問に答えようとしてくれるのは嬉しいけどな。
あと、一部の人が見ていたら鼻血を出して興奮しそうな絵面になりそうなので、程々にして欲しい。
リーザは……良かった、リルルを撫でていて今はこちらを見ていないな、微かにフェリー達のような止まり方を希望しているような声が聞こえてきたが、危ないからやめるんだ。
「……俺だからって、なんでもなんて言うもんじゃないよ? まぁそれはともかく。えっとね……」
お互いの認識のずれ、主に馬の速度についての質問をテオ君にしていく。
それによって判明した事……どうやらテオ君は馬を本当の意味で走らせた事がないらしい。
テオ君が走っていたと思ったのは、常歩(なみあし)と呼ばれる馬が歩くのを速めにした、要は早歩きくらいの事だった。
何故それが走っていると勘違いしたのかは、テオ君の身分が原因。
王子様であるテオ君が幼い事もあって、乗った馬を本当に走らせる事がこれまでなかったのだとか。
これまでテオ君が馬に乗る機会としては、誕生祭などで王都の一部に姿を見せる時くらいらしく、あとは乗馬訓練だけだったらしい。
成人する前後で本格的な馬の乗り方を教わる、とテオ君も聞いていたらしいが、確かに街中やちょっとした乗馬訓練で馬が本気で走る事はないのだと納得した。
馬車に乗る機会は何度もあったみたいなので、それならと護衛の人達が乗る馬は? と聞いてみたら、それらも軍馬と同じく特別な馬だと思っていたらしい。
いや、王子様の護衛なんだから、本当に軍馬だったかもしれないけど……とにかく、自分が乗った事のある馬や他の一般的な馬が、あれだけ早く走れる事はないと考えていたらしい。
……天然かな?
とりあえず、認識のすり合わせというか軍馬のような特別な馬はともかくとして、他の馬は基本的に一緒である事を教える。
個体差はあるだろうけど、さっきレオ達が走っていた速度よりはどの馬でも速く走れるはずだ。
というかユートさん、これくらいの事は教えてから連れて来て欲しかった……。
まぁユートさんもテオ君の教育係とかではないし、知らない事なのかもしれないけど。
「そ、そうだったのですね……僕が見ていた馬は、特別ではなくただ走っていなかっただけ」
「うん、そういう事だね」
俺の話を聞いたテオ君は驚き、少しだけショックを受けて恥ずかしそうにしていた。
これまで知らなくて良かった事とはいえ、そうなるのも無理はないのかもな。
「これも、昨夜言った事にも繋がるかなぁ」
「『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』でしたね。確かに、ここでタクミさんに教えてもらわなければ、もっと大きな失敗をしていたかもしれません」
テオ君から聞いたわけじゃないが、昨夜伝えたことわざをすぐに実践してしまった形だな。
ここには俺以外にレオ達とリーザくらいしかいないし、恥という程でもないからいい機会だったのかもしれない。
「オーリエにも伝えなくては……タクミさんのおかげで、一つ大きな失敗を避けられました。ありがとうございます! 本当にタクミさんは、僕の知らない事を知っていて凄いです!」
「いやまぁ……これでも一応テオ君よりは長く生きているからね。俺以外にも、もっと頼りになる人は周囲にいっぱいいると思うけど……」
手を組んで、また目をキラキラさせるテオ君。
大きな失敗とかは大袈裟だとは思うし、俺が凄いと言える程の事ではないと思うが……なんというか、テオ君の中で俺の評価が爆上がりしている様子。
過剰評価の気がしなくもない。
あと、オーリエちゃんも知らないのかと思ったけど、あちらはまだリーザより幼いみたいだからな、知らなくてもというか、馬にすら一人で乗った事がないくらいだろうから、知らないのが当然だ。
「お、俺は凄くなんてないけど……とにかく、レオにはもっと遅く走ってもらうかい? 村の入り口まで歩いたのより、少し速めくらいで」
それはもはや、レオにとっては早歩きですらなく歩いているのと変わらないけど。
レオが村や街の中を俺達と並んで歩いている時は、ゆっくり歩いているから、体に合わせて歩けば馬の常歩より少し早いくらいになる。
馬だと早歩きくらい、つまりテオ君がよく知っている速度だ。
「……いえ、せっかくのタクミさんの申し出ですけど、先程と同じように走ってもらいたいです!」
「大丈夫かい?」
「はい! タクミさんも昨夜言っていましたけど、これも経験です。タクミさんがいてくれて、レオ様が安全であるなら怖がってばかりもいられません。やっぱりちょっと怖いですけど、慣れて見せます!」
意気込むテオ君は、さっきまでの事を思い出したのか少しだけ顔を引きつらせながらだけど、経験としてやり遂げたい様子。
やっぱりテオ君は、真面目で素直なんだろう。
あのユートさんの子孫だというのが信じられないくらいだ……これはさすがに、ユートさんに失礼かな?
まぁテオ君の素直さや真面目さは、これまでの環境や周囲にいた人達の影響の方が大きいのかもしれないけども――。
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