第1414話 思ったより早く慣れたようでした



「そ、そう。わかった……テオ君がそう言うなら、これも一つの経験だと思って慣れてもらおう」


 レオが走る事、馬の速度より遅めだとは言っても初めての速度でレオに乗る事での恐怖もあるだろう。

 それを克服しようとしているんだ、これくらいの事で……と思うよりも、単純に成長しようとしているテオ君の事を応援してやりたい。


「よし、それじゃ……レオ、もう一度さっきのくらいの速度で走ってくれ。えーと……行け!」

「ワッフ!」

「グルゥ!」


 テオ君に頷いて、改めて落ちないように背中から支え、レオに声をかけてフェリー達にも一緒に合図を送る。

 再び楽しそうな鳴き声を上げて走り始めたレオ……テオ君が体を強張らせたのが、支える背中から伝わってくる。


「頑張れ……! 大丈夫、すぐに慣れるよ!」

「は、はい!」


 応援の言葉は必要ないかもしれないけど、なんとなく言わずにはいられなくなって、ちょっと大きめの声で応援する。

 答えたテオ君は、視線を低くしてレオを掴み、前方を見る事だけに集中した。

 さっきまで、恐る恐るだったのが今はレオを掴むのもほとんど躊躇しなかったな。


 怖がっていた大半が、レオやフェリー達に対してだから……あとは速度になれるだけだ。

 もう心配する必要はないくらい、すぐに慣れてくれるだろう。

 だって、レオに乗っていればこのくらいの速度なら、快適なんだから――。



「凄い! 周りの景色がどんどん流れていきます! こんな事初めてです!!」

「そ、そう。良かったね~」

「リルル頑張ってー!」

「ガウゥ!」


 あれから、数分程度でレオが走るのに慣れたテオ君……年齢的なものなのか、適応力の高さなのかはわからないが。

 ともかく、村を半周したあたりでリーザがもっと速く走って欲しそうだったため、テオ君に断ってちょっだけの間レオ達に速く走ってもらった。

 そうすると遅めよりも速めのの方が気に入ったテオ君は、さっきまで体が震えたり強張らせていたりしていたのはどこへやら、興奮している様子。

 どうやら遅く走ってじっくり体感するよりも速く走る方が、周囲の景色の流れとかの感動が勝って恐怖心などは忘れられたらしい。


 今は、既に村の壁の外を競うようにレオやフェリー、フェンとリルルが走っている……リルルは、リーザに焚き付けられている感じだけど。

 ちなみに、一周するだけで終わろうと思っていた散歩だが、既に何週もしている。

 屋敷も村の一部と含めての外周走だから、距離にして一キロや二キロなんて程度じゃない。

 多分今、馬の襲歩(しゅうほ)に近い速度だと思う。


 馬だと、襲歩は数分程度しか持続できないはずだけど、レオ達は速度を緩める事なく、休憩すらせず既に数十分は続けている。

 さすがの体力だ。


「ワッフ~ワフフ~」

「ガウゥ! ガウガウゥ!」

「グ、グルゥ……」

「ガウ……」


 とはいえ、本当に平気そうなのはレオとリルルくらいで、そろそろフェリーやフェンはへばって来ている様子だ。

 というかレオ、リルルは気を引き締めるために鳴くというより吠えているだけなのに、レオは楽しむような鳴き声なんだな。

 シルバーフェンリルとフェンリルの地力の差かもしれないが、こういう所にも大きな違いがあるようだ。


「とはいえそろそろ終わらないと……フェリーとフェンも辛そうだし。リルルもリーザがいるから頑張っているけど、ずっとというわけにもいかないな」


 本当は、村を一周走って散歩とちょっとした運動をさせるくらいのつもりだったんだが……いつの間にこんな本気の走りになったのか。

 いや、レオはまだまだ余裕がありそうで、フェリー達も速度と言う意味ではもっと早く走れるんだろうけど。

 ……速くなればなるほど、テオ君が楽しそうで恐怖心を忘れて、レオの事を褒めていたため俺が気をよくしてしまったのが原因だな。

 やっぱり、相棒のレオが褒められると俺まで嬉しくなってしまう。


「よし、レオ! 地面に掘り返したような細い道みたいなのがあったよな? それに沿ってちょっとだけ走って見よう。今日はそれで終わりだ!」

「ワッフ!」


 レオに行って、ラストスパートとして走る途中で見つけていた、地面の道のような何かに沿って走るように伝える。

 フェリー達が限界そうなら途中で止めるけど、ちょっと気になっていたんだよなぁ……なんだか、村の北東に伸びて行っていたようだから。

 まぁ見つけたのは、レオがまだ遅めに走っている時だったけど。

 今の速度で、地面のちょっとした異変なんて見つけられる程、俺の目は良くない。


「さっきまでとは別の景色が流れます! 壁が近くにない方が、楽しいですね!!」

「ずっと村の周りを周回していたからね。必ず村を囲む壁が左にあったから、圧迫感があったんだと思うよ」


 すぐに道みたいな、掘り返したような場所に到着したレオ達は、俺達を乗せたまま沿うようにして方向を変えて走る。

 村の周りを反時計回りに周回していたから、ずっと左側には壁があったから、開放感があってテオ君には好評なようだ。

 それにしても、地面にある道っぽい何かは一体なんだろう? 掘り起こしてミミズが這った跡のようになっているそれは、村の方からずっと遠くまで伸びているみたいだ。

 村の方……屋敷のある方から伸びているようにも見える、かな? まぁレオに揺られながらなのでなんとなくしかわからないけど。


「ん? 道みたいなのが、二手に分かれ始めた?」

「ワフッワフッ! ワウ?」


 地面にある掘り返したような何かは、真っ直ぐ村の北東に向かっていたけど、そろそろフェリー達を休ませようかと思っていた頃、前方で二つに別れ始めていた。

 まだほぼ同じ位置だけど、このまま進むと北東と東にはっきり別れそうだ。

 レオも、走りながらどちらに行けばいいのか悩んだようで、首を傾げる。

 走りながらなのにやっぱり器用だな。


「んー、とりあえず右の方に沿ってくれ、レオ!」

「ワウ!」


 どこへ続いているのかわからないけど、北東に向かっている方は森へと向かっている。

 そのまま森に入るのかはわからないが、右側……つまり東に真っ直ぐ伸びようとしている方が良さそうだ。

 戻る事も考えないといけないから、近い方がいいし森の中に無警戒で入るのはちょっとな。

 レオやフェリー達がいれば、危険は少ないだろうけど……そのフェリーとフェンは、舌をしまい忘れるくらい疲れて荒い息をしているが――。



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