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第1406話 長湯でテオ君と少し仲良くなれました
第1406話 長湯でテオ君と少し仲良くなれました
「とにかく誰かと話して、この人の意見は受け止められる。別の人の意見は嫌だなって思ったら、受け止め過ぎないようにね? さっきまでと、言っている事が矛盾するかもしれないけど」
「そうなのですか?」
「まぁ人によって、同じ意見を言っているのに真っ直ぐ受け止められなかったり、すんなり納得できたりって事はあるからね……」
ユートさんへの疑いなどはともかくとして、キョトンとしているテオ君に俺の考えを話していく。
受け止め方などは、その意見を言っている人の人となりや、関係値もあるだろうか……言い方とかもあるな。
とにかく、全ての人の意見を聞き入れる必要はない、それこそ取捨選択だ。
結局聞き入れるかどうかを選ぶのは、言った側の選択ではなく聞いた側の選択になる。
聞き入れてもらおうとするのなら、その言う側は言い方に気を付けるべきだし、工夫をするのもありだと思う……それでもどうしても聞き入れてくれない人、というのはいるけど。
「だから、テオ君がこの人の意見は聞いてみたい。この人の意見は聞き入れられる……というのを探すのがいいかな。ただ、テオ君にとって楽だと感じる意見しか言わない人には、要注意かもしれないね」
「楽だと感じるなら、それはいい意見なのではないですか?」
「うーん、テオ君にとってその時はいい意見かもしれない。けど、それは必ずしも多くの人にとっていい意見とは言えないかもしれない……」
なんて、俺自身よくわかっていない事も話していく。
テオ君を迷わせる事になってしまうかもしれないけど、甘言ばかりで取り入ろうとする人は必ずいるわけで……そういう人に対しての注意も促しておきたかった。
……キースさんとか、新しく雇った使用人さんからその辺りの注意は俺も受けているから、でもある。
決して、テオ君をそれで迷ったり悩んでしまう仲間に引き入れようとしているわけじゃない。
「だからね……」
「ふむふむ」
「あ、そうだ……」
「それは……です。タクミさんは」
「俺は……」
などなど、長湯が過ぎてのぼせそうになるまで、テオ君と一緒に話した。
本当は他愛ない話に終始しようと思っていたのに、思わず真剣な話をしてしまったが、テオ君から俺に対する緊張は大分解れたようだし、結果的に良かったか。
長話をし過ぎたせいで、部屋に戻った時リーザやレオに拗ねられた事を除いては……テオ君はお風呂に来る前はしゃぎ疲れて寝てしまっていたオーリエちゃんが起きており、そちらも少し大変だったらしいけど。
ちなみにだけど、経験云々の話に関してはこの世界に来てからの俺自身の考えが反映されているが、伯父さんに言われた事の方が強く影響していたりする。
高校入学する機会に一人暮らしと、伯父さんの知り合いの所でアルバイトを始めたんだけど……その直後にレオを拾ったのはともかく。
俺の一人暮らしに反対していた伯母さんや他の人に対し、伯父さんが何事も経験だと応援してくれたんだ。
おかげで、自分一人でなんでもやらなきゃいけない大変さとか、他にもいろいろと学べたと思っている。
まぁそこらの話や、どうして一人暮らしを始めたかはとりあえず心の奥にしまっておこう……若気の至りとか、ちょっとした後悔もあるから――。
「はぁ~、さすがにちょっと長湯が過ぎたかな。いや、そもそも今日だけで色々あったから、疲れたのか」
「ワフゥ」
拗ねていたレオやリーザを宥め、ライラさん達にリーザのお風呂をお任せした後、ボフッとベッドに倒れ込んで息を吐く。
レオはそんな俺を見て、早く風呂から戻ってこないからとでも言いたげに溜め息を吐いた。
だって、テオ君との話が盛り上がってしまったから仕方ない。
テオ君の事がなくて長湯をしなかったとしても、疲労感はあまり変わらなかっただろうし。
「体力回復薬草……いや、疲労回復薬草の方か。これから寝るのに、元気になり過ぎても困るから控えよう」
『雑草栽培』で作った薬草があれば、疲れもすぐ取り除けるけどあとは寝るだけなので、さすがにやめておく。
ぐっすり寝て疲れを取るだけだからな……安眠薬草の方がいいかもしれないけど、なくても深く寝られそうだからそちらもやめよう。
明日起きても、まだ疲れているようだったら薬草に頼るけど。
「でもテオ君、ティルラちゃんより年上とはいっても、結構しっかり考えているもんだなぁ」
思い出すのは、少し前まで話していたテオ君の事。
十三歳だったか……育ちが育ちだからっていうのもあるだろうけど、思っていたよりしっかりとした考えを持っていたように思う。
俺がテオ君くらいの頃なんて、勉強が嫌いとか小遣いのやりくりをしての遊びとか、それくらいしか考えていなかったような気がする。
あ、どうやったら女子にモテるかなんてのもあったかな……? そのあたりは思春期男子特有とだけ言っておこう。
「って、ティルラちゃんもちゃんと考えている部分もあったっけ」
子供と侮るなかれ……想像以上にしっかり考えて、スラムに突撃したティルラちゃんの行動力やらを忘れてはいけなかった。
ランジ村への移動中も、アロシャイスさんやニックと話して意見交換みたいな事をしていたみたいだし。
レオやリーザ、ラーレやフェンリル達と遊んでいる無邪気な面だけでなく、しっかりと考えているのは間違いない。
テオ君とティルラちゃん……リーザも、見た目や年齢に関わらず時折シビアな考えを披露する時があったりするし……雨水などをろ過するための布を買ったりな。
育ちというより、こちらの世界特有なのかもしれない。
自立心というか、ある程度育ったらちゃんとした考えを周囲の環境から、自然と考えるようになるとか。
いや、いつの時代、どの世界でも子供は子供でそれなりにちゃんと自分の考えを持って、行動しているってとこか。
俺自身の子供時代はともかく。
……無邪気に遊んでいる姿しか見ていないけど、孤児院の子供達やラクトスでレオと遊んでいた子供達も、それなりに考えがあるのかもしれないな。
「あれ、そういえばレオが静かだけど……寝たのかな?」
テオ君やティルラちゃんの事を考えつつ、ふとレオの事が気になりベッドに倒れ込んでいた体を起こす。
いつもなら、俺の独り言にも何かしら鳴き声で反応していたりするし、それこそティルラちゃんの事ならレオは良く反応するのに。
そう思って、日本で暮らしていた部屋と比べるとバカでかいとさえ言える自室を、見渡してみると……。
「ワ、ワフ……」
執務室に繋がる扉の近くで、片方の前足を上げて体を硬直させたレオがいた。
その姿は、忍び足で音を立てないようにしている侵入者が見つかった時のような――。
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