第1397話 エルケリッヒさんにレオを紹介しました



「あー、あに様! わたちもー!」


 レオを撫でるテオ君に気付いたオフィーリエちゃんが、エルケリッヒさんの所から駆けて来る。

 一瞬、完全武装の護衛さんの数人が止めようと足を踏み出したけど、ユートさんが留めていた。

 ……ちっちゃい女の子が、シルバーフェンリルに駆け寄ろうとしたら止めたがる気持ちはわからなくもない、かな。


「あ、あぁ。オーリエ……タクミさん、構いませんか?」

「うん、どうぞ。オーリエ?」

「オフィーリエの事です。僕がテオ、オフィーリエがオーリエです。よっ……と」

「成る程、わかった。オーリエちゃん? 握ったりせず、ゆっくりと撫でるんだよ?」

「あい、わかりまししゃ!」


 オフィーリエちゃんのあだ名、というか略称でオーリエちゃんか……こっちの方が呼びやすいな。

 テオ君が抱き上げ、今まで撫でていたレオの前足付け根にオーリエちゃんを近付ける。

 一応のアドバイスとして、レオの撫で方を教えると素直に元気よく返事をしたオーリエちゃんが、躊躇せず両手を伸ばして撫でる……というより、ぺたぺた触るだけって感じだ。

 さすがというか、まだ小さいからレオに対して怖いというより、興味とかの方が勝っているんだろう、兄のテオ君が撫でていたというのも大きいかもしれない。


「ワッフワフ~」

「喜んでいましゅ! 気持ちいいでふか?」

「ワウ~」


 レオが顔をこちらに向き、楽しそうな鳴き声を出す。

 さすがにレオは子供好きなだけあって、実際のところはともかくオーリエちゃんを喜ばせるのが上手いなぁ。

 なんというか、テオ君は真面目で妹想い、オーリエちゃんは無邪気で兄大好きって印象のままで良さそうだ。

 ここで、仲良く楽しく過ごしてもらえたらなと思う。


「……タクミ殿、そろそろよろしいか?」

「エルケリッヒさん? どうしました?」


 兄妹とレオの触れ合いを微笑ましく見ていると、いつの間にかシェリーを降ろしたエルケリッヒさんが、すぐ近くまで来ていた。

 ちなみにシェリーは、クレアに抱かれてリーザやティルラちゃんに撫でられてご満悦だ。


「いやその……レオ様、でしたか。ご挨拶したいのですよ」


 チラチラと、オーリエちゃんがペタペタと触れているレオに視線をやるエルケリッヒさん。

 そういえばまだ、エルケリッヒさんとレオは面と向かって話していなかったな。

 シルバーフェンリルだから、公爵家の先代当主として話したいんだろう。

 人気者だなぁレオ、ちょっと違うかもしれけど。


「そうですね……レオ」

「ワフ」


 呼びかけると、オーリエちゃんに向けていた顔をこちらに向けるレオ。

 その際、スッとテオ君がオーリエちゃんを抱いたまま一歩離れた……エルケリッヒさんのためだろう。

 オーリエちゃんはまだ触り足りないらしく、手をバタバタとさせていたけど。


「っ……やはり、目の前にすると迫力があるな。離れて見ているだけでも、強い存在感が確かにあったが」


 レオに顔を向けられたエルケリッヒさんは、体を震わせながら呟く。

 手を伸ばせば口に届く距離だから、確かに迫力を感じるのはわかるし、多少離れていても存在感があるというのもよくわかる。


「レオ。こちら、エルケリッヒさん。エッケンハルトさんの父親で、クレア達のお爺ちゃんだ」

「ワフ。ワッフワフ!」


 エルケリッヒさんを手で示しながら、改めてレオに紹介。

 さっきシェリーとも仲良くしていたし、クレアやティルラちゃんのお爺ちゃんという事で、楽しそうに尻尾を振りながら鳴く。


「は、ははは初めまして、レオ様! 私はエルケリッヒ・リーベルトと申します! レオ様におかれましては、大変凛々麗しくご機嫌素晴らしい……!」


 気をつけの姿勢でガチガチに力を入れたエルケリッヒさんが、少しどもりながら自己紹介をスタート……したけど、名前を言ったまでは良かったのに、その後は色々混じってしまっていた。

 凛々麗しいとかご機嫌素晴らしいって、なんだろう?


「親父……じゃない、父上、少々緊張し過ぎです。レオ様は畏まった堅苦しい挨拶を求めるお方ではないので、もう少し肩の力を抜いて下さい」


 緊張を解そうかと俺から声をかけようとしたら、先にエッケンハルトさんが声をかけた。

 言っている事は確かなんだけど、その表情は笑いを堪えているようで……あ、ユートさんが近くの家の壁に手をついてプルプル震えている。

 厳格そうなエルケリッヒさんの、多分いつもと違う態度が面白いんだと思われる。

 クレアとティルラちゃんは、特に変わった様子はないが……まぁ、孫娘に見せる姿と、エッケンハルトさん達に見せている姿は違うんだろうな。


「ハルト……貴様覚えておれよ」

「私だけですか父上!? ユート閣下も……」

「閣下に何か言えるわけがなかろう、本人は求めているかもしれんが……その役割は私ではない」


 笑いを堪えている様子に気付いたエルケリッヒさんは、鋭く睨みながらエッケンハルトさんに底冷えするような低い声を出した。

 ……なんというか、緊張して失敗する姿を見て笑いそうになっているエッケンハルトさんが悪いと思うので、俺にフォローはできないな。

 ユートさんは、ルグレッタさんに任せよう……エルケリッヒさんが言うように、本人が求めているというのはともかくだ。


「ワフゥ?」

「こ、これは失礼しました。改めましてレオ様、エルケリッヒ・リーベルトと申します。覚えて頂けると光栄ですが、レオ様を煩わせる気は毛頭ございません」


 皆の様子を見て首を傾げるレオに、ハッとなって向き直ったエルケリッヒさん。

 緊張が少し解れたようで、もう一度名乗り直した後はスラスラと言葉を発した……片膝をついて。

 それって、臣従の儀礼とかだったような? 先代公爵様がそれをするのは、大変な意味があるような気がするのは気のせいか?

 シルバーフェンリルを敬うという公爵家だから、それはそれで正しいのかもしれないが。


「ワ、ワフ。ワフワウ! ワウ?」


 自己紹介の内容よりも、膝をついている格好に少しだけ驚いている様子のレオ。

 なんとか頷いて、レオからも自己紹介をするように鳴いて俺の方を見た……通訳してくれってところか。


「あぁわかった。えっと、レオは覚えたそうです。だから、こちらこそよろしくとそのような事を言っています。あと、顔を上げて下さい」

「ワウ!」


 エルケリッヒさんに伝えると、俺の言葉が正しい事を伝えるようにレオが頷いた――。



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