第1396話 特別扱いなしでしばらく受け入れる事になりました



「うん? テオ君はちょっと前に十三歳になったばかりだよ」

「十三歳にしては、大人びて見えたなぁ」


 幼さが残る印象は受けたけど、十三歳だとは……って事は日本だと中一か中二か。


「日本人の基準で考えちゃ駄目だよ、タクミ君?」

「あー、そうだった……」


 さっきからテオドールト君に対して日本の学生なら、という基準で考えていたけど、ここは日本じゃない。

 童顔が多いと見られる日本人の基準より、見た目の年齢が下になるのは当然か。

 髪の色だけでなく、一部を除いて明らかに欧米の骨格をしている人が大半だからなぁ。

 ……大体、見た目の年齢より二歳くらい下でもおかしくないって、考えておこう。


 ちなみに、テオドールト君が十三歳になったのは俺がこの世界に来るほんの少し前らしい。

 十五歳の成人まで、後一年半くらいの期間があるみたいだけど、それまでずっとここにいるのかどうかは、ユートさん達が暮らしなどを見て判断するとか。

 もちろん、テオドールト君自身が判断するのもありとも言っていた。

 どういう基準で判断するかはわからないけど、とりあえず気にかけておけば大丈夫みたいだ。


「短く見て数カ月、長く見て一年ってとこかな? よろしく頼むよ、タクミ君、クレアちゃん。それからレオちゃんも。任せる以上は、タクミ君達のやり方に合わせるようにするからさ」

「身分を気にしなくていいのなら、まぁ」

「畏まりました。庶民の暮らし……というのは、私がこうだと言えるものではありません。ですが、私自身のためにもなるかもしれませんから」

「ワッフワフ!」


 ユートさんが改めて、俺やクレア、レオにお願いするのを頷いて承諾。

 クレアは公爵家のご令嬢だから、庶民感覚には乏しいかもしれないしちょうどいいのかもしれない……ためになるのか俺にはわからないけど。

 ただ、俺自身がこの世界での庶民の暮らしというのとは、かけ離れているような気がするんだが、そこは気にしないでおこう。

 村で暮らせば、ある程度は俺もテオドールト君もオフィーリエちゃんも、少しくらいはわかるような気がするから――。



「と、いうわけでちょっと長くなったけど、タクミ君達も了承してくれたよ」

「そうですか……良かった……」


 エッケンハルトさん達の所に戻って、簡潔に伝えるユートさん。

 ホッとしている様子のエッケンハルトさんは、俺が断ったらどうしようかとか考えていたんだろうか?

 よっぽどの事じゃなければ、お世話になっている人達のお願いを断ったりはしないんだけど……まぁ、テオドールト君の素性を考えればよっぽどの事か。


「それで、離れている間にどうしてあんな事に……?」


 エッケンハルトさんに問いかけながら、視線を向けた先では……。


「キャゥー!」

「シェリーしゃん、すごい!」

「シェリーがお爺様に勝ちました!」

「シェリー楽しそう!」

「ワシもまだまだ若い者には負けぬと思っておったが、敵わなんなぁ」


 地面にあぐらをかいて座り込んだエルケリッヒさんの頭の上で、お座りして勝ち誇った鳴き声を上げるシェリー。

 オフィーリエちゃんとティルラちゃん、それからリーザが囲んで歓声を上げていた。

 リーザ達はシェリーを褒めているけど、一番褒めるべきなのは頭頂部にシェリーを乗せながら、落ちないように背筋を伸ばして体を動かさないエルケリッヒさんだと思う。

 本人は、苦笑いをしながら手を後頭部に回していたけど……それでも頭がほとんど揺れないのは、鍛えていて体幹がすぐれているから、か?


「あぁ、あれは色々あったのだ。ともかく、クレアの従魔としてのシェリーやリーザの紹介などは、こちらで済ませておいたぞ」

「は、はぁ……」


 色々ってなんだ? 何があれば子供達が沸いていて、先代公爵様の頭にフェンリルの子供がお座りする事になるのだろうか?

 ……深くは考えないでおこう。

 リーザ達の紹介が終わっているのなら、改めて言う必要はないみたいだしな。


「タクミ……さん」

「ん、テオドールト君? どうしまし……じゃない、どうしたのかな?」


 一人、ティルラちゃん達の中には混ざらず見るだけだったテオドールト君が、俺に近付いて声をかけてきた。


「おおて……ではありませんでした。ユート様から言われております。これから、よろしくお願いします。あと、僕の事はテオとお呼び下さい」


 改めて、頭を下げるテオドールト君……いや、テオ君か。

 ユートさんからと言っているけど、こちらに何やら下手なウィンクをしてアピールしている、エッケンハルトさんがいるので俺達が話している間に、テオ君と話したんだろう。


「俺相手に、あまり改まる必要はないよテオ君。とりあえず、よろしく」

「はい……ですが、タクミさんはあのシルバーフェンリル様の主人ですので……」


 差し出した俺の手を握り返しつつ、頷いたテオ君。

 だけどすぐ、おずおずといった感じでチラチラとレオに視線を投げかけていた。

 ふむ、近くで見てレオが怖いとか、レオを従えているからとか、そんな感じかな。


「大丈夫、レオは俺の相棒で……まぁ、従えているのとは少し違うかな。でも、おとなしくて誰かを襲ったりしない、優しい奴だ。――なぁ、レオ?」

「ワフワッフ!」


 テオ君に言い聞かせるようにしながら、握手していた手を離し、後ろから覗き込むようにしていたレオに呼びかける。

 尻尾を振って楽しそうに返事をしているけど……篝火だけの薄暗い中、巨大な狼が人の後ろから覗き込んでいたら、シルバーフェンリルとか関係なしに怖いか。

 テオ君の手がちょっと震えていたのも、仕方ないかもしれない。


「そ、そうなのですか……?」

「そうそう。だから、テオ君も遠慮せずレオを撫でてやって欲しい。結構、癖になるよ?」

「わ、わかりました……」

「ワッフ~」


 窺うテオ君を促し、レオの顔は口や牙が近くて難易度が高いから、前足の付け根辺りを撫でさせる。

 撫で心地、触り心地がいい毛並みだから、一部どころか大半の人が虜になって癖になっている……エメラダさんとかチタさんとか。

 テオ君がどう感じるかはわからないけど、できるだけ怖くないと示すように撫でさせると、レオからは気持ち良さそうな鳴き声が上がった。

 強すぎず弱すぎず、それでいて毛並みに沿って撫でるテオ君は、結構才能があるかもしれない……撫でる才能というのがあるのかは知らないけど――。



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