第1385話 大広間での事を謝りました



「一応、森に行ってもいいけど、あまりやり過ぎないようにな? 村の人が森に行く事もあるから、邪魔もしないように」

「グルゥ」


 念のための注意をする俺に、頷くフェリー。

 森から魔物が出てきた場合などは、フェンリル達が遠吠えなりで報せる事になっていて、危険そうなら狩る事になっている。

 けど、森の中に入って暴れ回ってもいけないし、生態系に影響しそうだから控えめくらいでいいだろう。

 魔物もいる森に、守るべき生態系があるのかはわからないが。


「あ、森に誰かが入るなら、護衛代わりにフェンリルと一緒ってのもいいのか……」


 匂いや気配察知も含めて人間より優秀だし、森で暮らしていたんだから護衛として最適だろう。

 今のところ、フェンリル達も他にやる事がなさそうだから、ハンネスさんと話し合ってみるといいかもしれないな。

 そんな事を考えていると、フェンリルに乗って周囲を走り回っていたエッケンハルトさん、ユートさん、ルグレッタさんがこちらに来るのが見えた。

 クレアもシェリーをフェン達に任せてこちらに来る。


「ふぅ……レオ様には乗せてもらった事はあるが、フェンリルはまた少々違うものだな」

「僕はレオちゃんにはまだ乗った事がないなぁ。今度乗せてもらおう」


 フェンリルに乗って満足そうなエッケンハルトさん達。

 そういえば、ユートさんはレオに乗った事がなかったか……まぁ機会があれば乗ってもらうのもいいかもな。


「閣下は、レオ様に何度か挑んでいるので嫌われて、乗せてもらえないのでは?」

「いやいや、そんな事はないはずだよ。ちゃんと謝ったし……そんな事ないよね?」

「急に振られても……」


 ルグレッタさんの言葉を否定しつつも、途中で不安になったのかすぐ近くまで来て俺に問いかける。

 いきなり言われてもな……話は聞こえていたけど。

 レオは人懐っこいので、大体の人なら乗せてもらえると思うから大丈夫だと思う。

 そう思ってレオに聞いてたけど、特に嫌がる素振りはなかった。


「フェンリル達も落ち着いているので、大丈夫そうですね」

「うん、そうだね」


 ユートさんの事はルグレッタさんに任せて、こちらに来たクレアと話す。

 あ、そうだ……さっきの事を謝っておかないと。


「クレア、エッケンハルトさん」

「どうされましたか?」

「む、どうしたのだタクミ殿?」


 呼びかけて、こちらに意識を向けた二人に頭を下げる。


「さっきは、変なところを見せてすみません。お米がもらえるなんて、全然想像していなかったので……取り乱しました」


 謝るのは、大広間での事。

 他の事を無視してユートさんと熱くなった事だ。

 一応、終わっていたとはいえ挨拶の場だったからな、できればもう少し冷静に対処しておくべきだった。

 レオには呆れた目で見られたし、チタさんなど最近知り合った使用人組の人達には、目を丸くされてしまったからなぁ。


「さっき、お米……あぁ、大広間での事か。気にするな。堅苦しく考えずとも、ここはタクミ殿の屋敷であり、その主人なのだ。その屋敷内での事は、タクミ殿が決めてタクミ殿がやりたいようにすればいい」

「一応、私もなのですけど……でもそうですね。タクミさんがあぁいう風に取り乱す? いえ、慌てるというか、とにかく珍しいものを見せてもらいました。そういうタクミさんが見られて、嬉しかったので気にしないで下さい」

「はい、ありがとうございます……」


 二人とも笑って、本当に気にしていない様子で答えてくれた。

 俺の気にし過ぎだとは思うけど、なんとなく屋敷の主人となった事でちゃんとしないと……という思いがあったから、ここは謝らせて欲しかったんだ。

 結局できなかったけど。

 それと、お米を見て取り乱した事や、クレア達皆に微笑ましく見られていたので、恥ずかしかったというのもある。


 照れ隠し半分ってとこだな……。

 あと、視界の隅で「僕には、僕にはないの?」なんてユートさんが自分を指さして言っているのが見えたけど、原因の一つなのでそちらはスルー。

 ルグレッタさんが「閣下のせいでもあるのですから反省しなさい」と、少しきつめに言ってくれていたので気にしなくてもいいだろう。


「しかしなんだな、タクミ殿が真面目だというのは知っていたつもりだが、少々真面目過ぎるな。まぁだからこそ、閣下や私といて丁度良いのかもしれんが」

「ははは、そうですかね?」


 不真面目、というわけではないけどエッケンハルトさんとユートさんは、面白さ優先な所があるからな。

 足して割るとちょうどいい……良くないか。


「あまり肩ひじ張り過ぎても、疲れるだけだぞ? タクミ殿は、レオ様やギフトなど扱いとしては私などよりよっぽど上に……と見る向きもあるが、貴族ではないのだ。それらしく振る舞う必要はないだろう」

「あれだよね、タクミ君が本気になれば僕も吹いて飛ぶよね。世界の王にでもなるの?」

「いや、ならないから。興味ないし……でも、それらしく振る舞う必要はない、ですか……」


 もちろん、俺が貴族だとか高貴な身分ではない事は自分でよくわかっているし、それらしく振る舞えない事もわかっている。

 大きな屋敷を見ただけで驚くような、小市民だからな。

 でも周囲にいる人……ユートさん……はまぁいいや。


 エッケンハルトさんのように時折威厳のある人が、周囲にいるからそれに合わせなきゃと思っていたのは間違いない。

 クレアに相応しい人になれるように、というのも考えていたりする。


「クレアと共に、ではあるが屋敷の主人である以上タクミ殿がルールでもある。まぁ、横暴に振る舞うのはいかんが、それでもある程度はタクミ殿がやりたいようにすればいいだけの事だ。それこそ、タクミ殿が暮らしやすいようにな?」

「暮らしやすいようにですか……」


 横暴に振る舞うつもりは一切ないけど、俺がルールか。

 クレアとも話して決めるのはもちろんながら、俺が暮らしやすいように、楽しく過ごせるようにと考えると思うところがあったりする。

 というより、昼食の時に考えた事でもあるんだけど……それなら、少し相談させてもらおうかな。

 考えている事が通っても、横暴という事にはならないし、多分誰かが嫌がる事はないと思うから……ないと思いたい。


 どうせ近いうちに相談するつもりだったし、フェンリル達の様子は見終わって、宴会の準備までもう少しありそうだから、今のうちに聞いておこうか――。



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