第1384話 フェリーと暮らし方の話を少しだけしました



「むむ……それじゃあこっちは……!」

「あぁ! そんな事も!? ならこちらも……!」


 なんて、いつの間にか話を済ませてこちらを見ているクレアやエッケンハルトさん達。

 それから呆れて溜め息を吐くレオや、表情を変えないままでお腹をコッソリ抑えているライラさん達使用人さんに見られているのに気付かず、ユートさんとうどんとご飯のバリエーション対決を続けてしまった。


「何はともあれ、食事が豊かになるのは決まっているようだな」

「そうですね、お父様。一層気を付けねばなりません」

「この年になっても、これまで知らなかった物を食べられると考えると、心躍りますなぁ」

「ワフゥ……」

「キャウゥ?」

「美味しい物なのかな? 楽しみだねティルラお姉ちゃん?」

「そうですね。ここで暮らせるリーザちゃんがちょっと羨ましいです」

「大丈夫ですティルラお嬢様。こちらで作られてた料理の作り方や、食材は別邸にも持っていかれるようですから」


 なんて声が聞こえたとか聞こえないとか。

 とりあえずユートさんとは、なんの対決で、なんの争いなのか……冷静になって振り返れば、よくわからなくなってしまったけど、でもそこには大事な戦いがあるのかもしれなかった。

 いや、何もないし得る物もないんだけどね。


 ちなみにこの時には気付かなかったんだけど、醤油は複数種類があり、中には出汁醤油っぽい物もあったのでぶっかけうどんがもっと美味しく、俺の求める味になる事が確定した。

 他にも淡口醤油が基本だけど、俺が一番よく知っている濃口醤油、溜醤油、甘口醤油や白醤油なんてのもあった……あくまで日本での物と同じではなく、味や製法が近い物というだけだが。

 再仕込醤油はなかったみたいだけど、種類として知っているだけで詳細はわからないため、特に気にしていない。

 醤油のバリエーションがあるだけで、かなり豊かな食事ができる事だけは期待できるかと、ありがたく受け取った――。



「ほーら、よしよしよしよし……」

「グルルゥ……!」


 大広間でのやり取りから、米俵や醤油、味噌の入った木箱をセバスチャンさん達使用人さんに任せて、俺は屋敷を出てフェンリル達が集まっている場所に来て、フェリーを両手で撫でてやる。

 お米は特に重そうで、俺にとっても大事な物だから手伝おうとしたんだけど、こういう事は使用人にお任せ下さい……とアルフレットさんに説得された。

 そのアルフレットさんは、無理して護衛さんと同じように米俵を両肩に一つずつ担いで、チラチラとジェーンさんの方を見ていたから、いいところを見せたかったのかもしれない。


 あれは鍛えている護衛さんだからで、アルフレットさんには辛いだろうに……筋肉痛くらいならともかく、腰を痛めなきゃいいけど。

 その時は、ブレイユ村の村長さんも使っていた薬草で、湿布みたいなのを作ろうと思う。


「キャゥー!」

「ガゥ? ガウガウ!」


 シェリーは、フェンとリルルの所に行って、屋敷内での事を報告しているみたいだ……雰囲気から、多分。

 得意気に両親へと話すシェリーを、クレアが微笑ましそうに見ながらリルル達を撫でている。


「それでフェリー、この場所は大丈夫そうか? 危険とかそういう意味じゃなくて、馴染めそうかって意味だけど」

「グルゥ。グルルゥ、グルゥグルルル……」

「大丈夫だってー。森も近くにあるから、気晴らしもできそうだし皆気に入ってくれそうって」

「ワフ」

「そうかぁ、それなら良かった」


 質問に答えるフェリーの通訳をしてくれたリーザの頭を撫で、頷くレオを見て良かったと一息。

 フェンリル達の強さをある程度でも知っていれば、そうそう危険なんてなさそうだから問題は居心地とかそういった部分だ。

 別邸がある方のフェンリルの森とは別だけど、森があるのも過ごしやすそうな点らしい……気晴らしというのはわからないが、もしかして魔物相手に狩りでもするとかだろうか?

 フェリー達がいるのは、屋敷の敷地外で壁の外。


 屋敷の外壁は、人間だと簡単に飛び越えられないけどフェンリル達にとっては、簡単に飛び越えられる……というのはともかく。

 そこに一部のフェンリルに集まってもらっている状態だ。

 一部は、村の人達の所に行っていて、孤児院からの子供達と一緒に村の人や犬達に襲ったりせず危険はない、と慣れてもらうためだな。

 これはエッケンハルトさんからの提案だ。


 レオを知っているからといっても、大量のフェンリル達を見ればしり込みする……というか、実際に怖がっている人達もいたので、その対応でもある。

 ロザリーちゃんはリーザやティルラちゃんがいるから大丈夫そうだったけど、ハンネスさんは大広間出会った時顔が引き攣っていたからなぁ。

 フェリーの所に来る前に、村の子供達も一緒になって遊んでいてすぐに慣れてくれるだろう、とフェンリルお世話係の一人、シャロルさんが報告してくれた。


「馬達とも、仲良くやれそう……だよな。ここに来るまでもそうだったし」

「グルゥ!」


 頷くフェリーに、リーザとレオの通訳をしてもらって少しだけ話し込む。

 馬車や荷馬車を引いていた馬、護衛さん達の乗ってきた馬は、村の厩で面倒を見る……まぁ、一部はティルラちゃん達が別邸に帰る時に、一緒にあちらへ行くんだけど。

 ちなみに厩は屋敷と村で共同だ。

 元々ランジ村には馬が数頭しかいないし、厩が拡張されていたのでそこで受けいれるわけだ。


 新しくできた宿屋も含めて、村の外から人が来た時も同じ厩を使うけど、区画で別けてあるらしい……こちらにはフェンリルが一緒にいるからな。

 その馬とフェンリルだけど、ランジ村へ来る途中や別邸でもフェンリルとの一部と過ごしていて、すっかり仲良しになっているみたいだ。

 まぁ、馬にとってフェンリルが近くにいてくれる事で、守ってもらえるから安心という側面があるらしいし、フェリーもそれは請け負ってくれたんだけど。

 そういうわけで、一緒に来たフェンリル達の一部は馬達と共に厩で、フェリーやフェン、リルルとリーダーの側近らしいフェンリルは、屋敷の敷地内で過ごす事になっている。


 その他のフェンリル達はある程度自由なんだけど、基本的にはあまり屋敷から離れない場所で寝泊まりしてもらう。

 厩程ではないけど、雨風が凌げるフェンリル用に屋根のある場所を近いうちに作る予定だ……実は客間で昼食を待つ間に、エッケンハルトさんやクレア達とも話して決めた事だな。

 大半が俺とクレアに対するからかうための談笑時間だったけど、一応実のある話はしていたんだ――。



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