第1341話 指輪プレゼントの謂れは消したい事実のようでした



「え、でも……セバスチャンさんははっきりと初代って言っていたはず。多分、何かの本で読んだんだと思うけど」

「なんて事だ、詳細が書かれている……少なくとも初代に関する記述のある本は、全て焚書したと思っていたのに。まだ残っていたとは」


 焚書って、そんな弾圧みたいな事を……。

 元々最高権力者だったから、やろうと思えばできたのも間違いじゃないんだろうけど。

 まぁ多分。焚書というのは冗談かな、ユートさん自身と指輪を結びつける記述がある本は、処分されたようだからほぼ焚書と変わらないのかもしれないけど。


「でも、残っていたとしても物凄く希少になっているはず。一体どこで手に入れたのか……」

「まぁ、セバスチャンさんだし……どこかで探し当てたんだと思う」


 以前、本を収集して知識を集めているみたいな事も言っていたし、きっとその一環で入手したんだろう。

 どういう本に書かれていたのかはわからないけど、初代国王に関する記述なら、歴史書とかの可能性もあるか。


「とにかく、指輪の話はしないように。あれは冷たくされるのが好きな僕でも、思いだしたくないトラウマに繋がっているんだ」

「わざわざ話して触れ回るような事でもないから、それはいいんだけど……じゃあここからは、変な事を言わずに真剣に話をするように」

「わかったよ。男同士で集まって、女性の好みの話なんて真剣にするような事でもないと思うけど……」


 まぁ、確かにユートさんの言う通りでもある。

 夜な夜な男達が顔を突き合わせて、身近にいる女性達の品評をしているなんて……女性からしたら顰蹙(ひんしゅく)ものだろうから。

 一応今回は、ルグレッタさんのためであって、クレア達も知っている事だから悪くは思われないだろうけど。

 とりあえず、茶化したりはしないよう言い含めて、元居た場所に戻る。


 せっかく集まってくれたフィリップさんとニコラさんを待たせてしまって、少し申し訳ない。

 ……いずれ、ユートさんと指輪の話は詳しく聞けたらいいなぁ……というのは野次馬根性かもしれない。

 あと、トラウマに繋がっていると言っていたから、素直に教えてくれるかはあまり期待できそうにないか。


「んんっ! ちょっと脱線したけど……話を戻します。えっと、例えば気になる女性、自分の好みなどなんでもいいので、教えて欲しいなと」

「某は別に、気になる女性や好みなどは……鍛錬一筋、自分を鍛える事が第一ですので」


 いざ話を始めると、俺以上に硬派なニコラさんは眉根を寄せた。

 先に根回しというか、話の目的は言ってあるのに……その時にも言われてたけど、こういう話は本当に苦手なんだろう。

 でも、ユートさんとフィリップさんだけだと、色々と調子に乗ってしまいそうなのでニコラさんには この場にいて欲しい。


 ……最初から、ユートさんだけにしておいた方が良かったかもしれないと、今更ながらに少し後悔。

 でも一対一、顔を突き合わせた男同士で話す事でもないからなぁ。

 アルフレットさんとか、セバスチャンさん以外の執事さんの中から選んだ方が良かったかもしれない、人選を間違えたかも。


「何言っているんだニコラ。ニコラこそ今回の話の本命でもあるじゃないか。ほら、コリントさんだっけ。ニコラと同い年のあの子がいるじゃないか。積極的に来られて、満更でもなさそうに見えたし、気になっているんだろう?」

「へぇ、そんな人が。ニコラ君はタクミ君以上に生真面目だと思っていたけど、やるもんだね」


 俺が人選を間違えたかと内心葛藤している間に、ニヤニヤとしたフィリップさんとユートさんが、ニコラさんに詰め寄っていた。

 この二人は、こういった話になると生き生きするなぁ。

 けどフィリップさん。ナイスアシスト……! 実はどこかから聞きつけたコリントさんから、ニコラさんについても聞いてくれないか、と頼まれていたりする。

 なので、今回実はユートさんとルグレッタさんの事だけでなく、ニコラさんとコリントさんの今後にも関わって来るという……どうしてこうなった!


 いや、切実に頼まれてしまって断れなかった俺が悪いんだけど……というかニコラさん、コリントさんと同い年だったのか。

 コリントさんの年齢は採用する時に知っていたけど、ニコラさんの年齢は知らなかった。

 よく裏庭で、ダンデリーオン茶を湯呑みらしき物に注いで、椅子に座って啜っている姿を見ているから、もっと年上かと……縁側のお爺さんのような風格があったし。

 ともあれ、今はユートさんやニコラさんから話を聞き出す事に集中せねば。


「コリントさんは、美人……になるかもと思わせる人で、どちらかというと可愛らしい人かな。ニコラさんから見て、どう思う?」

「そ、某から見てですか? その……鍛錬をしたいのに、よく話しかけられるので集中があまりできず……」

「おぉん? それじゃニコラは、コリントさんが邪魔だってか?」


 フィリップさん、それじゃまるでヤンキーが絡んでいるようですから……女性からアプローチされているニコラさんが、羨ましいからとかなんだろうけど。


「そ、そういうわけでは……。某のような者にも、声を掛けてくれると思えばありがたい事。容姿はタクミ様が仰ったように、可愛らしく……性格はまだ、知り合ったばかりですのでよくわかりません。ですが、あまり多く話す方ではない私にとって、明るく感じる事は多々あります」

「ほぉほぉ……ニコラ君からはコリントさんを女性として、十分に見られるって事だね」


 フィリップさんに押されながらも、コリントさんの事について話すニコラさん。

 ユートさんも頷いているけど、内容としては好印象ってところかな。

 脈ありと言えるかは微妙だけど、まんざらでもない様子に見えたのは間違いじゃなかったようだ。

 実際そうなのかはともかく、典型的な朴念仁タイプに見えるニコラさんをして、可愛らしいとか明るく感じるという言葉を引き出せたのは大きい。


「ニコラさんも知っているはずだけど、コリントさんは結婚願望が強いみたい。まぁ、当初はランジ村で働きつつ幸せな家庭を……と考えていたようだから、護衛としてあちこちに行く事があったりするニコラさんに、というのは意外だったけど」


 見た目や性格に関しては、それこそ好みの問題だけどニコラさんは真面目だし、キリッとしていて武器を構える姿は男の俺から見ても格好いいから、そこは意外でもなんでもないけど――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る