第1340話 男子会を始めようとしました



「で、タクミ君。どうやら僕だけ聞いていないみたいなんだけど……男ばかりを集めて何を話すの? ここに女子がいた方が、楽しくなりそうなんだけど」

「それは同意しま……するけど、話の内容的にはいない方がいいと思う」

「フィリップさんの言う通り、女子……女性がいない方が話しやすい事もあるんだ」


 まぁ、ユートさんにだけ集まった理由を話していないのは、ルグレッタさんが近くにいたからと、セバスちゃんに興味を持たれそうだったからだ。

 あとルグレッタさんに関する事は隠しながら、女性の好みについて聞き出さないといけないからってのもある。

 二人に隠すつもりはないし、ルグレッタさんはここでどんな話をするかは知っているけど……あまり目の前で話を切り出すと、気にしそうだったからな。


 セバスチャンさんは……察していそうではあるけど、今回は参加を遠慮して欲しい。

 ユートさんへの気遣いは怠らない人だけど、面白そうな方向へ誘導しそうだから。


「えーと、集まってもらったのは……女性の好みについて。どういった女性が好きか、なんて男同士で話すには丁度良さそうだから。ほら、使用人さんや護衛さんも含めて、色んな人がいるし……ランジ村で働く人や元々ランジ村にいる人の中にも、女性はいるわけだから聞いておきたいなぁなんて」

「タクミ君さぁ……」

「……な、何?」


 理由としてはちょっと苦しかったかな? あからさまに怪しんでいるような、訝しんでいるような……いや、胡散臭い物を見るような目を俺に向けるユートさん。

 表向きの理由としては、嘘なのがバレバレだったかもしれない。


「クレアちゃんという女性がいながら……他の女性に興味を持つなんて」

「あぁ、そういう。けど別に、クレアを放っておいて他の女性にってわけじゃないから……」


 どうやら、ユートさんには怪しまれていたとか嘘がバレたとかではなく、クレアがいながらこういう話をする事に対してだったらしい。

 でもまぁ確かに、付き合いたての女性がいるのに、突然男同士で女性の好みについてなんて話を持ち掛けるのは、それはそれで不自然だったか。

 もう少しよく考えてからの方が良かったかもしれない……なんて、内心で考えていたら、ユートさんが何やらにんまりとした笑顔をになった、あれ?


「いやぁ、タクミ君はどちらかと言えば硬派だと思っていたから、こういう話は嫌いだと思っていたよ。うんうん、そうだよね。男たるもの、いつでも女性について男同士で気兼ねなく話したいものだよね」

「硬派ってわけでもないし、そういうつもりは……い、いや。うん。そうだね、そうそう。こういう話を夜な夜な男同士でするのもいいものかなってね」

「「……」」


 ユートさん、こういう下世話な話は大好物のようだった。

 硬派を気取る気はないし、女性についてあれこれ本人のいない所で話すのは趣味じゃないけど……否定しようとして、話しに乗っておいた方がスムーズだと思い直し、頷く。

 ルグレッタさんという、本来の目的もそれとなく伝えてあるフィリップさんとニコラさんは、俺とユートさんのやり取りに苦笑いだ。


「そうだよねぇ、男はいくつになっても女性には興味を持つものだよ。本命は本命として、ちょっとだけ別の女性と遊んだり、なんてね」


 別に浮気だとか、二股をなんて考えるための話じゃないんだけど、何を勘違いしたのか、ユートさんはしたり顔で頷きながらとんでもない事を言う。

 女性と遊ぶ……リーザやティルラちゃん達に対するように、そのままの意味で走り回ったりごっこ遊び的な事だったらまぁ別にいいんだけど、男女の付き合いとしての遊びは、俺自身忌避感があるから……。


「そこまではさすがに……あ、そうか。指輪の話……確か、奥さんとは別の女性に……」

「え、ちょ!……ちょっとこっちに!。もしかしてあの話、タクミ君の耳にも入ったの?」


 クレアとの事もあるし、どこから耳に入るかわからないから、さすがに否定させてもらう。

 その途中で、ふと思い出した指輪の話……そういえばと口に出して思わず呟いたら、急にユートさんが慌てだして、テントの隅へと連れて行かれた。

 フィリップさんとニコラさんに聞こえないくらいの小声で、確認される。


 ちなみに指輪の話とは、王妃様……つまりユートさんは奥さんがいるにもかかわらず、別の女性に手を出して手切れとして高価な指輪を上げたとかそんな話。

 奥さんは大層お怒りになったとか、それらの事から指輪は男女間の縁を切るような謂れになっているとかだな。


「まぁ、一応? 指輪の逸話として聞いたかな。ユートさんの話だっていうのは、なんとなくわかったけど。というか、ユートさんがその……初代とかって話を聞いていたら、ユートさんだってすぐにわかるし」

「くっ! あの話はできるだけ隠蔽して、僕の事だってバレないようにしていたのにっ」

「いや……名前こそ出なかったけど、初代って伝わっていたから……知っている人にはバレるんじゃない? エッケンハルトさんとか」


 セバスチャンさんに聞いた話だと、ネックレスに関しては大々的に広まっているけど、指輪の方は広く知られてはいないようだったっけ。

 確か話を聞いた時、すぐにユートさんの事だって思い当たったのを覚えている。


「多分、ハルトにはバレていないんだよ。まぁ、奴にはバレても別にいいんだけど……むしろ、武勇伝として聞きたがりそうだし」


 武勇伝って、でも確かにエッケンハルトさんなら面白がって聞きたがりそうな気はするな、うん。

 実際にエッケンハルトさんが浮気をするとか、そちらに興味があるとかってわけじゃなく。

 いや、クレアやティルラちゃんの母親、つまりエッケンハルトさんの奥さんは亡くなっているから、浮気にはならないのか? ならないのなら別にいいのか。

 まぁそこらへんは、クレア達が許すかどうかってとこかな、エッケンハルトさん本人の考えもあるし。


「って事は、ユートさんの昔を知っている人なら、誰にでもバレるってならない……?」

「そうじゃなくて、その初代っていう部分もできる限り痕跡を消したはずなんだ。一体どうやって伝わったのか……」


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