第1335話 クレアとレオの意見を聞きました


 

「どれだけ鈍感な人でも、その人の気持ちに気付く前に女性としての魅力を磨いて、その気にさせればいい……ってとこかな。クレアの考えをまとめると」

「そうですね。どうしても焦れてしまって、焦ってしまう事は私も多々ありましたけど……」


 チラリと、俺を見るクレア。

 ごめん、気付かなかったわけじゃないんだ……クレアの気持ちも魅力も気付いていて、そのうえで自分の気持ちに自信が持てなかっただけで。

 でも口にすると単なる言い訳になりそうだから、この視線は甘んじて俺が受けようと思う。


「そう、ですよね。ですが私……じゃない、知人は騎士なので女性としての魅力よりも、腕を磨く事ばかり考えて生きてきましたから」


 クレアの意見を聞いて、難しそうな表情で俯くルグレッタさん。

 ルグレッタさんも十分美人なんだけどなぁ……この世界、男性も女性も美形が多くて日本人の俺やユートさんの肩身が狭いったらない。

 いや、ユートさんもいわゆるイケメンの部類か、俺よりもさらに童顔で言われなければ年下にすら見えるけど。

 ちなみに騎士というのは、セバスチャンさんから説明された事があるが、大枠では兵士とあまり変わらないらしい。


 ただ、その精神には騎士道が叩き込まれ、基本的に街を守ったり領内を巡回する兵士とは違って、貴族などに直接仕えている人に対して、そう呼ぶ事があるのだとか。

 要は直属の部下とか、側近にあたる兵士さんだな。

 俺が知っている中では、フィリップさんやヨハンナさんやニコラさんなど、護衛さんの中でも直接クレアやエッケンハルトさんを護衛する人が騎士だ。

 まぁ、呼び方が変わっても、ほとんど待遇などは変わらないみたいだけど……高潔な精神から尊敬されたり憧れられたり、あと多少給金が増えたりするくらいか。


 ただ王家には特別に騎士を束ねる騎士団を設立しており、精神的にも肉体的にも屈強な精鋭が数多く集まっているのだとか。

 ユートさんのお目付け役、兼護衛になっているルグレッタさんもおそらくその騎士団の所属だろう。

 つまり、国内の武力の頂点みたいなものなんだけど、そのさらに頂点であるはずの騎士団長にすら、エッケンハルトさんは剣の勝負で勝つみたいだけど。

 どれだけの達人なのかと……エッケンハルトさんが国内で一番強いんじゃないか? あくまで剣の腕ではだが。


 一部の騎士からは、王家の騎士団は憧れの存在らしく、貴族に召し抱えられても推薦などでいずれ……と考えているとか。

 公爵家に仕えている騎士さん達は、ちょっと特殊で公爵家に生涯仕えたいと思う人が多いらしい。

 孤児院から訓練を経て、という経歴の人が多いからだろうと思われる……フィリップさんのように、思い出すだけで涙が流れるトラウマも、同時に植え付けているようだけど。

 それはそうと、ルグレッタさんとの話に戻らなきゃな、違う事を考えている場合じゃない。


「騎士だから、訓練ばかりだからといって女性としての魅力が磨けない、とは俺は思いません。強い女性が好きな男性もいますからね。ですからル……知人の方も、女性的な魅力が全くないわけではないと思いますよ」

「そ、そうでしょうか……いえ、そうだといいですね」

「ワフワウ、ワフ!」

「お、レオも何か意見があるのか?」

「ワウ!」


 走っていたレオが、自分もと主張するように鳴く。

 どうやら、女の子? として話に参加したいようで、何か意見もあるようだ。

 種族がそもそも違うが、だからこそ客観的に見ての意見とかがあるかもしれない……ようなきがするかもしれない……かな?


「レオ様も、ですか。クレア様とタクミ様、お二人の意見をと思っていましたが……この際です、誰からの意見も参考にするよう努力致します」


 努力致します、じゃなくて伝えます、の方がいいんじゃないかなルグレッタさん? 今更だけど。

 ルグレッタさんが聞く気になってくれたので、レオからの意見も参考にする事になった。

 さてはて、どんな意見を聞かせてくれるのか……若干不安があるのは、俺もクレアとの事で結構な事を言われたからだろうなぁ。


「ワフ、ワウワウ……ガウワウワフー!」

「えーっと……」

「ワフ」


 走りながら鳴くレオの声から、何を言っているのかをルグレッタさんに伝える。

 表情が見えないからか、少し通訳しづらかったけど……内容にはレオも頷いてくれたから、間違ってはいないようだ。


「積極的にと……」

「そうみたいですね。レオが言うには、とにかく近付いて一緒にいてって事みたいです。あと、相手に触れるのもきっかけにいいんじゃないかって」


 触れる、の部分は少しだけ省略させてもらったんだけど……レオは身を寄せ合って、体温を分け合う的な内容になっていたからな。

 そのまま伝えるには刺激が強すぎる。

 ユートさんの名前を出しただけで、あんなに慌てたルグレッタさんだから、そのまま伝えたらまた驚いて慌て始めそうだったし。


 それにしても、レオのやり方はそうなのか……もっと獣っぽい本能任せな事を言われるかと、実は少しだけ警戒していたんだけど、一応ちゃんとしてたな。

 体温を分け合うって部分には、多少野生的な何かを感じなくもないけど。

 シルバーフェンリルで番を探すのは苦労しそうだけど、もしその時が来たら優しく見守ろうと思う。


「相手にもよりますけど、レオ様の言っている事も確かにわからなくもありません。私も最初は……特にアンネとタクミさんが会うまでは、そういう事も考えていましたから」

「そうなんだ?」

「タクミさん、レオ様やシェリー、それから薬草の事ばかりで……もう少し私の事を、と思っていましたから。でも、慣れない場所での生活を始めたばかりでしたから、それも仕方ないのかと迷っていました」


 そこに、アンネさんの登場でやり方を変えたってわけか……結果的に、今こうして一緒に微笑み合えているのだから、クレアが悩んだ甲斐もあったのかもしれない。

 他人事みたいに考えているけど、対象は俺でずっとそうして考えてきたんだと思うと、嬉しくもありつつ申し訳なさも感じるな。


「むむ……クレア様は、自分を魅力的にする事に集中し、レオ様は積極的に関わりを持つ。難しいですね……」


両手を組んで悩むルグレッタさん。

 リルルに乗ったまま両手を離しても、安定して乗れているのはさすがだ……体のバランス感覚も鍛えられているんだろうし、馬にも乗り慣れているんだろうな――。



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