第1334話 クレアと一緒に相談に乗る事にしました



「俺とルグレッタさんがどうこうって事はないよ。そもそもルグレッタさんは……」

「え、そ、そうだったんですか……! 私、全然気付きませんでした……恥ずかしい」

「まぁ、気付かないのは仕方ないけどね、そういう話をしてたわけじゃないし」


 ルグレッタさんがユートさんに対して、どう思っているかをあくまで俺が客観的に見た事だけではあるけど、クレアに伝える。

 すると驚いて声を上げ、両手を頬に付けて恥ずかしそうにしているクレアの背中を、そっと支えつつ、苦笑した。

 ……危ないから、両手共レオから離すのはやめような? いくら馬より安全とはいえ、まったく揺れないわけじゃないんだから。


「それじゃあさっきのは……そういう事でしたか。ルグレッタさんが慌てた理由が、理解できました」

「あそこまで慌てる必要はないような気はするけど、それだけ真剣なんだろうね」

「そうですね。ルグレッタさんが私とタクミさんから、何を聞きたいのかわかりませんが……これはちゃんと答えませんと……!」


 何を聞きたいかは、既に意を決した様子でルグレッタさんが言ってたんだけど……。

 まぁ、その後頬を膨らませたりとか、そっちに気を取られて頭から抜け落ちたのかもしれない。

 むふん! と鼻息荒く拳を作っているクレアを見ていたら、指摘はできなかった。

 ……改めて、ルグレッタさんから言われるだろうから大丈夫か。


「それじゃ、ルグレッタさん……というか、リルルにまた近付いて来てもらおう。おーい!」

「えぇ、そうですね!」

「ガウゥ!」


 距離を離したリルルの方に手を振ると、一度吠えてからこちらに近付いて来てくれた。


「ワフワフ~」

「ガウゥ、ガーウ~」

「ふふふ……」

「な、なんでしょう。この妙な暖かさを感じる雰囲気は……?」

「……気のせいです」


 楽しそうな鳴き声を出すレオとリルル。

 それから優し気に……というより生暖かい目をしたクレアが、リルルの背中に乗るルグレッタさんを見ている。

 妙な雰囲気に戸惑うルグレッタさんには、とにかく気のせいという事で押し切ろう。

 レオもクレアも、そしてリルルも恋バナ的な話が好きな様子だ……リルルはさっきまでのやり取りで察したんだろうなぁ、さすが子持ちってとこかな?


「あ……」

「タ、タクミ様?」

「いや、すみません。なんでもありません」


 思わず声を出してしまって、ルグレッタさんをまた戸惑わせてしまったのを謝って、誤魔化す。

 ……ふと気付いたけど、恋バナという女性が好きそうな話題で、よくよく考えたら俺以外皆女性だった。

 レオとリルルは女性と言うより、雌なのでちょっと違うかもしれないが……。

 ともあれ、男が俺一人というのはちょっと心細い気がするな、アルフレットさんとかがいれば良かったんだけど。


 でもルグレッタさんは、俺とクレアに話しを聞きたいと言っていたんだから、人を増やすわけにも行かないか。

 あまり多くの人に聞かれたくないから、こうして移動中に話し掛けてきたんだから。


「それでは、その……どうやったら、鈍感な男性に気付いてもらえるか、お二人の意見をお聞きしたく……あ、もちろんこの話は決して私の事ではなく、知人の話です! そう、決して私ではないのです!」

「ルグレッタさんの知り合いについてって話ですね。わかりました」


 知人友人、恋の相談を誰かにする時、古今東西で使われる常套句だ。

 そういう時は大体、相談している本人の事だったりするんだけど……まぁ、ルグレッタさんがそちらの方が話しやすいなら、そうしておこう。

 指摘しても、また話が進まなくなってしまうからな。


「知り合いの方の……あら?」

「クレア、クレア。そういう事にしておかないと、またルグレッタさんが恥ずかしがるから……」

「あ、わかりました。そうですよね、こういう話はどうしても照れてしまうものですよね」


 首を傾げるクレアに後ろから、ルグレッタさんに聞こえないくらいの小声で、話を合わせるよう伝える。

 それでなんとなくわかったようで、笑って頷いてくれた。


「それでその……鈍感な男性についてですけど……」

「はっ、是非ともお二人の意見をお聞かせください!」


 ルグレッタさんに話を戻すと、意気込んだ返事が返ってきた。

 随分前のめり……並走しているから、横のめり? とにかく、落ちると危ないので気を付けて欲しいが。


「そうですね……私は、あまりどうしたら気付いてもらえるか、というよりもいかに自分を見てもらえるか、といつも考えていました」

「そんな事考えていたんだ?」


 クレアは、押すよりも自分を磨いて振り向いてもらうタイプか……それにしては、状況によって結構前のめりだったりする事はあったけど。

 お酒の力が加わっていたから、ってのもあるかな、やっぱりお酒は怖い。

 まぁでも、確かにクレアの魅力にやられたってのはあるから、狙い通りと言えば狙い通りなのかも。


「えぇ。タクミさんは優しい方なので、グイグイ行けるようにも見えますけど、実際はちゃんと線引きするように感じましたから」

「……だから、何もしないわけじゃなけど、見てもらえるようにかぁ」


 わりと正確に、俺の事をクレアに把握されているような気がする。

 苦手意識があったから、多分グイグイと積極的に来られたら俺自身が引いてしまっていた可能性が高い……かもしれない。

 実際にそんな事はなかったので、そうしていたらどうだったかは予想でしかないし、自分の事なのにわからないのは情けないけど。

 押し強いと、断れない性格であるのも間違いないんだけどね。


「あ、でもそうか。クレアはアンネさんを見ていたから」

「……そ、そうです。あの時はっきり断っていましたから。アンネのようには、なりたくないと思って……」

「ふむ、アンネ……というのは、アンネリーゼ様の事ですね。成る程、確かにあの人は雰囲気や相手などお構いなしに、積極的に迫りそうです」


 迫りそうというか、実際に迫られたというか……まぁ変な事はされなかった、よな? うん。

 ただ、婚姻をと迫られただけだ、きっぱり断っても諦めてはいない様子だったけど。

 とにかく、それを見てクレアは方針を変えたのかもしれないな――。



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