第1336話 リルルは獲物としてフェンを捉まえたようでした



「けど、今の二つの意見の両方共、両立できないってわけじゃないとは思いますけどね」


 あくまで俺からの視点であって、ユートさんがどう思っているかはわからないけど……ルグレッタさんは既に十分魅力的、というか美人だ。

 そこへさらに磨きをかけて……男の俺にはどうしたらいいかはわからないが、とにかくそうしながらできる限りの関わりを持てばいい。

 一緒に行動したり、内容は気にせず他愛もない話をしたりとか。

 ……あれ? これまでとあまり変わらない気がしてきたぞ?


 ルグレッタさんは騎士として腕を磨く事だけでなく、女性として気を付けるべきところは気を付けている気がするし、お目付け役としての部分が大きいとはいえ護衛として、一緒に行動しているわけで。

 これで本当にユートさんがルグレッタさんの気持ちに気付いていない、とかだったらとんでもない鈍感力だ。

 ラブコメ主人公になれそうだな……。


「ガウゥ、ガウ、ガウゥ!」

「お、今度はリルルか?」

「ガウゥ!」


 リルルが自分も、と主張するように鳴くのに気付き、聞いて見るともちろんと言うように頷いた。

 恋バナというよりは、ルグレッタさんを皆で応援する会になってきているけど……まぁある意味これも恋バナか。


「ガウ、ガウゥガウガウ、ガウゥ!」


 リルルが何を言っているのか、俺にはわからないし今はシェリーもリーザもいないので、レオを通しての通訳になる。

 その内容は、できるだけ一緒にとレオの言った内容に似ているけど、そのうえでずっと相手のお世話をするといった意見だ。

 魔物を狩ってきて、相手にあげたりとか多少獣っぽい内容も含まれてはいたけど、要は食べ物で胃袋を掴むというのに近い。

 他にも身の回りを世話したりなどだな、でもこれって。


「もしかして、そうやってフェンと一緒になったのか?」

「ガ~ウゥ~……」


 ふと気になって聞いてみると、そっぽを向いてとぼけるように鳴くリルル。

 そうなのか、そうやってフェンはほだされたわけだな……まぁ、甲斐甲斐しくお世話してくれる女性というのは、人間でも恋愛に発展する事は多いからな。


「ガウゥ」

「ん、まだあるのか?」

「ガウゥ。ガーウゥ、ガウガウゥ、ガウゥ~!」


 リルルの意見はまだ先があったらしく、再びレオの通訳を通して聞いてみる。

 その内容は先というよりも、相手に惚れさせた後の事だった。

 曰く、こちらを気にするようになったらこっちのもの、一気に押してしまえばいい。

 番になってしまえば後は思うがまま……だとか。


 狙いを定めて計画的に相手を惚れさせ、チャンスと見たら襲い……はちょっと言い過ぎかな? 言い過ぎじゃないかもしれないけど、とにかく、落としてしまえばこちらのもの。

 みたいな事を言いたいみたいだな。

 確かに、フェンはリルルに頭が上がらないような雰囲気で、尻に敷かれている感は強い。

 それにしても……なんというかやり方が、獲物を狩る狼の習性にちょっと似ているな。


 姿勢を低くして獲物を見定め、油断した隙に一気に食い付く! みたいな。

 ある意味狙った獲物を逃さないように、という事なのかもしれないけど。


「さ、さすがに後は思うがままというのは……」

「ま、まぁそこは確かに」


 多少わかりやすく、というか人間同士でも使えそうな内容に意訳を入れてルグレッタさんに言ったけど、思わず後は思うがままの部分を伝えてしまった。

 ルグレッタさんが顔を真っ赤にしてしまった……何を想像したのかは聞くまい。

 でも……ユートさんの趣味を考えると意外と相性は悪くない気がする。

 あの人、冷たい目で見られたいとからしいから、女性に主導権を握られる方がいいんじゃないだろうか?


「タクミさんは、どういった女性が好み……いえ、どうしたらいいと思いますか?」

「今好みって……」

「そうです。今のこの場で唯一の男性。タクミ様からの意見はどうなのでしょうか!?」


 振り返ったクレアが、妙にニコニコして聞いて来るけど……それ、クレアが俺の好みを聞きたいだけなんじゃ?

 と、途中で言い換えた事を突っ込もうとしたら、横からルグレッタさんが身を乗り出して遮られた。

 まぁ確かに、男性からの意見というのは重要かもしれないけど。

 でも、人によるだろうから俺の意見が正しいわけじゃないと思うけどなぁ……それを言ったら、クレアやレオ、リルルの意見も正しいわけじゃないって事になるけど。


「うーん……そうですね……」


 俺の好みと言うならズバリ、クレアとなるけど……まぁ今は求められていないだろう。

 クレアは喜ぶかもしれないけどな。


「クレア達の意見とも少し似ている部分はあるかもしれませんけど、一緒にいて色んな事を楽しんでくれる人、ですかね?」

「楽しんでくれる……?」

「はい。えっと、例えば同じ事で笑うとか、一緒に何かをするとか。なんでもいいんです。あ、でも楽しむだけじゃなくて、お互いを思いやる事も大事かなって。それから、苦労を分け合うとか、楽しい事嬉しい事も分け合うとか……」


 言っていて恥ずかしいけど、俺が考える事と一般論というか……男性視点からの意見をルグレッタさんと話す。

 一緒にいて楽しむというのは、やっぱり男女は違うものだから、趣味は違ってもそれがお互いを楽しませられるならいいな、という希望もあったりする。

 男性側の趣味、女性側の趣味、それぞれ違っていてお互いが理解してくれない……なんていう話はよく聞くし、お互いを尊重できたらなと。

 俺にはレオを構う事以外、今も昔も趣味らしい趣味はないんだけどな。


 あ、今はリーザやシェリー、フェンリル達やクレアと一緒にいる事も、ある意味趣味になっているかもしれないか。

 他に、同じ事で笑うとかは片方が楽しいと思う、笑ってしまうような事でももう片方が笑えないような事だと、ちょっと微妙な雰囲気になるんじゃないか、と考えてだ。

 笑いのツボが違うからといって、必ずうまく行かなくなるわけじゃないけど、同じ方が楽しいだろうなぁという想像と、レオやシェリーの事で一緒に笑ってくれるクレアがいるから、そう思ったんだろう。


「苦労を分け合い、楽しい事や嬉しい事も分け合う……それはつまり、感情を共有して共に苦しみ、共に笑い合うという……?」

「そこまで大仰に言ったつもりはありませんけど……」


 考えてみれば、結婚式の病める時も健やかなる時も……といった誓いの言葉に似ていた。

 俺が言ったのは、そういうつもりじゃなくて……。



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