第1320話 時計の話を聞きました
「あぁ、それはタクミ君でなくても知っていたら、誰でも疑問に思うよね。んぐ……」
俺が懐から取り出した時計を横目で見て、料理をつまみ、ワインで流し込みながら納得した様子のユートさん。
その食べ方で、本当に味わっているのか謎だけど、口に物が入った状態だとまた俺に注意される事を気にしてかもしれない。
咀嚼しながらだと言葉が聞き取りづらくなるから、もちろん注意する気満々だけども。
「単純な話、本当にこちらの世界では一日が二十八時間なんだ。地球の二十四時間と同じ数え方でね」
「同じって事は、一時間は六十分で、一分は六十秒?」
「うん、そうだよ。実はその時計というか、時間の概念は僕からって事になるんだけど……」
ユートさん曰く、この世界に来た時に持っていた時計……それとこの世界での時間の流れの違いに気付いた事が始まりらしい。
アナログ時計は数字が十二まで、それが毎日数時間ズレるんだから、違いに気付くのも当然だったとか。
「単純なアナログ時計だったから、自動で時差を修正するような機能もなかったのもあったのかもね」
なんて言っていたけど、電波を発する送信機も衛星もなさそうだから、もしそういった機能があっても時計は毎日ズレていたんだろう。
そうして、時計を注意して観察していると、一日で大体四時間ズレている事に気付いた。
正確には数分程度前後するらしいけど、ほぼ毎日四時間ズレるわけで……。
「だから、一日は二十八時間。その半分は十四時間ってわけ。一年間は地球だと三百六十五日だけど、こちらでは三百十三日。不思議だよね、一年の総経過時間は変わらないのに、一日の時間は違うんだ」
「三百十三日……って事は、二カ月近く日数が少ないのか」
細かく計算すると、少しズレが生じる気がするけど、それがさっきユートさんが言っていた数分程度前後するって事なんだろう。
まぁ、地球だって正確には一日二十四時間ピッタリじゃなくて、少しズレているわけだし。
おそらくだけど、それで一年間の総経過時間を合わせているってところか。
でも三百十三日って、中途半端に切りが悪くて覚えにくいなぁ……この世界で生まれ育った人達にとっては、違和感とかないのかもしれないけど。
「んでまぁ、国によって統一されていなんだけど……この国や、僕らと同じ異世界の人達の中で浸透している考えとしては、一カ月が三十一日から三十二日で一年が十カ月って事になっているんだよ。一週間は七日間だね」
「それはもしかしなくても、一週間七日を基準にして考えて?」
「うん。その方が動きやすいかなって。実際、週の何日目という言い方ができるようになったからね」
一週間が七日ってのは、まぁこれまでの生活でわかっていた事。
日本でもその感覚で動いていたし、わかりやすいか。
一年間の基準を月に合わせて、一周間の日数を増やしたり減らしたりするよりは、確かにやりやすい……のかもしれない。
「地球での考え方、時間の数え方あってこそそうなったんだろうけど……それじゃあ、なんで時針だけしか?」
「ないのかって? それも単純な話、コストがかかるんだよ」
「コスト……」
早い話が、分針や秒針のある時計を作る事もできたみたいだけど、それだと費用が高くなり過ぎたらしい。
制作費用が高くなれば、当然販売額も高くなるわけで……時間の概念を広く多くの人に行き渡るようにしたかったため、時針のみにして誰でも買えるようにしたってわけだとか。
それなら、一応の知識として分や秒の考えも広めればと思ったけど、時計を普及させたのはかなり昔らしく、その過程でそちらの知識が薄まっていったとユートさんは話す。
まぁ、手元にある時計には時針しかないわけだから、意識しないうちに忘れられる知識になってしまったのかもな。
ちなみに、時計は動力を魔力で補う魔法具でもあるけど、作り方や販売額を抑えた事で魔法具商店以外のお店でも広く扱って売り出す事ができたとか。
結構、色んな努力や考えがあったんだろうと思う。
地球と同じ考えを広めようとしても、こちらの世界にはこちらの世界の事情があって、上手くいかなかったり歪んでしまう事があるから、仕方ないよねってユートさんは笑っていた。
「ちなみに、時間しかわからなくても時計がある事の有用性は、タクミ君にもよくわかると思うけど……」
「まぁ、それは一応。あるとないとじゃ、大きく違うと思う」
時計がある生活とない生活。
あるのが当然の感覚だと想像しづらいけど、その違いは大きく人の生活に影響を及ぼす……と思う。
細かいところでは、待ち合わせとか予定が立てづらいとかかな。
「そんなわけで、時計に関しては結構地球とは違うかな。一日の長さが違うんだから当然だけど」
「天体で言うと、地球とは違うんだってのは間違いないんだってのがよくわかったよ」
最初に考えた通り、自転や公転の違いってわけだ。
一年の総経過時間が地球に近いのなら、公転速度はほぼ同じで自転の速度が速いのか。
まぁ、天体的な考えはこちらではあまりないようだし……それこそ、地球から来た人間が広めた知識くらいだろう。
あまり考える必要もないのかもしれない、特に大きな影響もなく、今では一日二十八時間に慣れているんだから。
そうして、ユートさんとこの世界と地球との違い、知識のすり合わせなんかも合わせてしばらく話し込んだ。
話が終わる頃には、お皿に積まれていた料理が全てなくなったのには閉口したけど……細身に見える体のどこにあれだけの量が入るのか、それが世界的な話よりも一番の疑問かもしれない。
ちなみに、上下水道に関しても衛生的な部分から特に下水の整備は、早くから行われていたとか。
……不衛生な街で、ネズミが大量に繁殖したり、疫病が……なんて地球の人間なら警戒して当然か。
ペスト……またの名を黒死病と呼ばれる、史上もっとも人の命を奪った伝染病の事も、聞いた事がある人は多いだろうし。
下水は川へと流れる中で魔法具で浄水されて、飲めるほど綺麗な水になると言われて、また驚いたけど……でも、そう聞くと下水道が近くにある川の水はあまり飲みたくなくなる不思議。
基本的に国や貴族が関わる事業で、その領地を治める貴族の許可やら手続きが必要と言っていたけど、そこらはエッケンハルトさんというか、公爵家を通しているからランジ村で建設された新しい屋敷は問題ないだろう――。
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