第1321話 クレア達と過ごす事になりました



 ――ユートさんとの話を終え、食事の後片付けも終わってフェンリル達の様子を見ながら、就寝前の鍛錬を……と考えていたら。


「タクミさん……」

「パパ……」

「ワフ……」

「キャゥ……」

「え、な、何事……?」


 俺の前に、リーザを抱き上げ、隣にレオ、足下にシェリーを連れたクレアが立ちはだかった。

 離れた場所で、笑いを堪えているユートさんがいたり、そっぽを向いて見なかった事にしているセバスチャンさんやアルフレットさん、さらにルグレッタさんの様子から、大きな問題が起こったわけではない事はわかる。

 あ、ティルラちゃんはチタさん達と一緒に、ラーレやフェンリル達を撫でるのに夢中みたいだ……仲が良さそうだなぁ。


「リーザちゃん、レオ様、シェリー。せーの……タクミさん?」

「パパ?」

「ワフ?」

「キャゥ」


 少し後退りながら、正面に陣取ったクレア達に驚いていると、何やら示し合わせて一斉に俺に呼びかけ、少しだけ微笑むような表情で首を傾げた。

 なんのアピールだろう……いや、何を言いたいのかはわかる気がするけど……。

 それにしても、クレアもそうだけどレオやリーザ、もちろんシェリーも可愛い仕草だなぁ、なんて現実逃避はしていられないな。


「えっと、もしかしてユートさんと話してばかりじゃなくて、相手をして欲しい……とか?」


 首を傾げる仕草と、笑いかける表情からなんとなく読み取った雰囲気。

 いや、皆のその瞳の奥にある意思みたいなものが伝わって、確かめてみる。

 ……シェリーは完全に、クレアがやっているからといった風だけど。


「タクミさんが楽しそうにしていらしたのを、邪魔するわけではありませんけれど……もう少し私やリーザちゃんと話をして欲しいなと思いまして……」

「パパも一緒!」

「ワフ、ワフ?」

「あ、もちろんレオ様も。シェリーも一緒にですね!」

「キャウ!」

「あ、うん……成る程ね……」


 まぁ、せっかくだからもう少し相手をして欲しい、ってところなんだろう。

 レオはともかく、クレアとはラクトスを出発してからゆっくり話す時間が取れなかったし……馬車内ではユートさんの話だったから。

 リーザは途中から一緒にいたけど、走るレオに乗って大半が寝ていたからな。

 シェリーは、ただ誰かと一緒に遊びたいだけだろう。


「……誰の差し金かは想像つくというか、主張しているけど……うん、ごめん。じゃあ……」


 溜め息交じりにそう答え、離れた場所にいるユートさんやセバスチャンさんを見るのを止めて、クレア達と過ごす事を決めた。

 今夜の鍛錬は、すこし少なめにしておく事にしよう。

 護衛さんやフェンリル達がいるから、俺が見張りをする事もなさそうだし……。


「ふふ、リーザちゃん安心して寝ていますね」

「移動中も寝ていたんだけど……起きてからまたはしゃいでいたからね」

「ふに……すぅ……」

「ふふふ、レオ様とリーザちゃん、暖かいですね」

「キャゥ~?」

「シェリーも暖かいぞー?」

「キュゥ」


 焚き火を前に、伏せをするレオに背中を預けて隣り合わせで座る俺とクレア。

 リーザはクレアが抱き、シェリーを俺が抱いているという、いつもとは違う状況だ。

 クレアはリーザの大きな尻尾を、俺はシェリーの毛を撫でて焚き火から伝わる熱や背中を預けているレオの毛と体温で、ぬるま湯につかっているような暖かさを感じる。

 俺がクレア達と過ごすと決めてすぐ、リーザはうとうとし始めたからこの形になったんだけど……俺が近くにきた事で、安心して眠気がきたんだろうと思う。


 起きてから料理や野営の手伝いをしたり、フェンリル達と走り回ってもいたし、いつもなら寝ている時間だからな。

 多少昼寝をしたくらいじゃ、夜寝られなくなったりはしない健康優良児だ。


「キュゥ……キュゥ……」

「シェリーも眠いなら、寝ていいんだぞ?」

「キャゥ~……クゥ……キュスゥ……」

「私以外が抱いている時に、寝るシェリーを見るのは初めてですね。ふふ、可愛い」

「そうだね。最初からわりと、クレアだけじゃなく俺にも懐いてくれていたから」

「ワウ」


 横から覗き込んで微笑むクレア。

 レオがいてくれた影響もあるのかもしれないが、シェリーには最初から懐かれていたような気はする。

 まぁ、瀕死の重傷を治した経緯があるからかもしれないけど。


 それでも、少し大きく重く感じるようになったシェリーが、腕の中で安心して寝息を立てる姿を見るのは、俺としても嬉しい。

 レオも、少し厳しく接する事はあるけど、やっぱりシェリーにも甘いようで寝ているリーザと両方を見て、目を細めて頷いた。

 激しく喜んでいるというよりは、安心しているという感じだな。


「そういえば、初めて森に行った時にもこうして、タクミさんやレオ様と一緒に焚き火を眺めながら話をしましたね……」

「うん……あの時は、見張りだったけど。少し懐かしいかな」

「ワフ」


 ちょっとクレアが思い詰めがちな雰囲気になって、途中からはレオの顎を膝に乗せて撫でてもらいはしたけども。

 あの時から、シェリーが加わって、リーザも一緒にいるようになって……変わった事はあるけど、和むような穏やかな雰囲気なのは変わらない。

 焚き火の揺らめきか、レオ達の暖かさなのか、それとも見上げる夜空で無数に輝く星のおかげか、気取らず緊張せず、自然体で話せる気がする。


「こうしていると、なんだか家族……とか。それに近しい何かを感じますね……ふふ」

「そ、そう? う、うん……確かに俺もそんな感じはするけど」

「ワフ」


 クレアが言った家族、という言葉に跳ねる鼓動。

 それはつまり、俺とクレアがそうなるって事で……いや、むしろもうなっているという想像のようで……。

 これくらいの事で今更ドキドキしてしまうのは、流れる雰囲気のせいなのかもしれない。

 ……近い事は、俺も考えていたから。


 焚き火を見ているのはともかく、こうしてレオやクレア、リーザやシェリーと穏やかに過ごせる時間が、何よりも大事な気がするなって。

 今は移動中のはずだけど、屋敷にいる時よりも感じ入る何かを感じていたからなぁ――。



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