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第1319話 お酒は飲料水の代用でもあるみたいでした
第1319話 お酒は飲料水の代用でもあるみたいでした
「しかも、どこにでも水場があるわけじゃない。水源豊富な日本と違ってね。で、比較的水源が豊富なこの国でも、それは変わらないわけでいつでもどこでも飲み水の確保ができるわけじゃない」
「まぁ、それはわかるかな」
自販機とかはまだしも、日本のように旅をすると言ってもそれが徒歩であっても、水に困る状況というのは早々ない。
困る場所に行くのなら、ある程度準備して行けば問題ない事が多いだろうし。
「だから基本的には水を用意して、荷物と一緒に運ぶ。これは当然だよね。一応、魔法で水を出せはするけど……あれは緊急的な場合が多いし、場所によってはそれ自体が危険だ」
「確か、周囲の水を集めるから……だったっけ?」
「うん。その周囲というのは、近くに生き物……は魔力で抵抗されてほとんどないけど、土や植物などからも集めるわけ。で、それらが含む水分に人間の害になる成分があると一緒に集まっちゃう」
「それは確かに、所かまわず使うわけにはいかないか」
毒草とかがなければ、食器を洗うくらいなら使えるかもしれないけど、飲料水とするには危険だし、常用するのは冒険心が過ぎる。
「一応、綺麗な水を作り出す魔法もあるんだけど……それは人間が使えるものじゃないからね」
「そうなんだ……レオは使っていたし、エッケンハルトさんは上位魔法でそんなのが、と言うような事を言っていたけど」
「あはは、レオちゃんは使えても不思議じゃないよね、シルバーフェンリルだし。ハルトに関しては……どうだろう、多分僕が使えるからとか、一応使えたらいいなくらいの魔法の知識として、上位の魔法ってのがあるからそういったんだと思う。今は使えなくても、いずれ研究して使えるようになる可能性もあるわけだし」
使えたらいいなって……上位の魔法というカテゴリーで、今はまだ研究途中の魔法があるって事くらいに考えておこう。
「ともかく、そうして旅には必需の飲み水。けど無限に持って行けるわけじゃないし、長い旅の間に腐ってしまう事もあるわけで」
「まぁ、水だって腐るか」
水そのものというより、混じっている不純物が腐るわけだけど、そうなると当然飲む事はできない……いや、飲めてもお腹を壊すか下手すると病気になってしまう。
そうなればどれだけ大量に水を持ち運んでいても、意味はなくなると。
「もちろん、この世界特有というか……魔法を使った保存方法で、腐敗を遅らせる事もできるんだけど。凍らせたりとかね。他にも煮沸とか」
煮沸は消毒方法としては基本的だけど、凍らせるかぁ。
まぁ、魔法を使えるからこそできる事ではあるかな……水が氷るような気温でもないのに、冷凍庫いらずで凍らせられるんだから。
エッケンハルトさん達と森でオークと戦った時も、倒したオークの肉は凍らせて保存していたし、そのための魔法が得意な使用人さんが一緒にいてくれた。
料理が苦手と言っていたメイドさんだけど……そういえば、あの人は屋敷に残るようだった。
「でね、腐らないようにして持ち運ぶもう一つの方法として、先に腐らせておくというか……発酵させておくって方法もあるわけで」
「あぁ……だから、お酒って事なんだ」
「そういう事。地球でも、昔は同じような事があったというか……お酒を水で割って飲料用としていたって説もあるみたいだし」
「あれは確か、旅とか関係なかったと思うけど……」
実際は、水が汚染されているというか、綺麗な水の確保が難しかったからだったような気がする。
酒で薄めれば、多少はマシになる程度とかそんな感じで……綺麗な水が多かった日本じゃ、あまり考えられないヨーロッパの方の話だったかな。
「まぁとにかく、そうしてお酒と水の両方を旅に持って行くのは必須になったわけだね。ここでは子供だって一緒に旅をする事もある。そんな中、子供に水を飲むなって禁止なんてしても意味はないんだよ」
「納得できるような、どこか違うような……?」
文化の成り立ちが違うからだろうか、ユートさんの話す理由と地球での歴史は必ずしもリンクするわけじゃない気もするけど、一応は納得できる。
要は、飲み水の確保としてお酒も選択肢にあるってだけの事だ。
長期間持ち運んで腐ってしまった水を飲むよりは、お酒を飲む方が安全だって考えって事でいいんだろう。
良し悪しはともかくとして。
「なんにせよ、ティルラちゃんにお酒を勧めなくていいってだけで、安心だ」
「そうだね。今まで通り健康的に過ごしていたら、何も問題ないよ。フェンリル達やあのラーレだったっけ? がいれば、お酒を持ち運んで飲まなきゃいけないような事態にもならないだろうからね」
フェンリルに乗る、ラーレに乗る、どちらにせよ馬での旅よりも移動時間が少なくなるから、水が腐る程の旅をする事はほとんどないと思われる。
まぁそもそもに、公爵家の令嬢であるティルラちゃんが、水が腐ってしまう程の長期間旅をするって事自体がほぼなさそうだけど。
使用人さん達のサポートもあるわけだし。
ユートさんみたいに、自由に旅をする事が目的になったりしなければ。
「あ、そういえば……」
移動時間、と考えて思い出した事があった。
時計の事だ。
ユートさんを含めて、この世界の文化形成には何やら俺と同じ異世界からの人間の影響が濃いように感じて、だけど時計の違いが気になる。
分針と秒針がない事もそうだし、一日が計二十八時間という事もそうだ。
「ん、どうしたのタクミ君? 今は美味しいお酒と料理で気分がいいからね、なんでも答えちゃうよ? そのために、こうして二人で話す時間を設けたんだからね」
やっぱり、こういう話……同郷同士でしか話せない内容の話をするために、二人でってわけだったみたいだ。
なんとなく、ユートさんは俺が覚えている知識を聞きたそうな様子ではあるけど、鉄道の話も含めて。
ともあれ、答えてくれるというのならこの機会に聞きたい事は聞いておこう。
「これ、この時計の事なんだけど……時針しかないのと、なんで十四の数字に別けたのかなって」
深く考えると、何故地球では十二に別けているのかという疑問も出て来るけど、それはそれ。
地球で時間の数え方を知っている人が、時計を作り出したのだとすれば、十四にしたうえで時針しかないのは不自然だ。
というより、時計を初めて見た時にセバスチャンさんやクレアは、分や秒を数える習慣はないような事を言っていたから、むしろ時間だけがあるのは元を知っている人の知識があるからのような気がする――。
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