第1314話 ユートさんの案は実現不可能そうでした



「馬に頼っている現状を大きく変える。革命と言っても過言じゃないと思うんだよ」

「もしかして、国全体で馬の代わりにフェンリルを?」


 馬に替わる輸送法として、フェンリルを活用するって事か?

 そうなれば、馬だと三日かかる距離が一日や半日で済ませられる可能性が高く、移動や流通が大きく変わる……ユートさんが言っている革命というのも、頷ける話だ。

 けど、国中となるとさすがにフェンリルの数が足りないんじゃないかな? 公爵領だけでも、三桁の数が必要になると思うから、国になると四桁はくだらないだろう。

 場合によっては五桁とか……? さすがにそんな数のフェンリルがいるのかどうかすらわからない。


「国中ってなると、フェンリルの数が……」

「のんのん、タクミ君。フェンリルに直接乗る、馬車を曳く……とは違う方法だよ」


 人差し指と一緒に首を左右に振るユートさん。

 ちょっともったいぶっているようなのが、少しだけ鼻に付く感じ……わざとだろうけど。


「……それじゃ、一体どんな方法を?」

「鉄道だよ、タクミ君。タクミ君ならわかると思うけど、線路を敷いて決まった場所を行き来する。早く輸送できる。それだけで人や物の流れが大きく変わる」

「て、鉄道!?」

「ワフ!?」


 ユートさんの言葉に、驚いてちょっと大きめに反応する。

 レオも驚いて声を上げていたけど、これは俺が驚いた声を出したからだな。


「んに……」

「おっと……大丈夫、起きなくていいんだぞー」

「にー……にゅふ……スー、スー……」


 俺の声に反応したのはレオだけでなく、リーザもだった。

 耳をしきりにピクピクと動かし、小さく声を出していたので、頭を優しく撫でてもう一度寝かしつける。

 再び寝息を立てる直前に、笑うような声を漏らしたのは撫でられて気持ち良かったからか……眠りが深くなるまで、しばらく撫でておこう。


「ヮゥ……?」

「大丈夫、また寝たみたい」

「スゥ……うにー……」


 レオが心配したのか、凄く小さな声で鳴いてこちらを窺うのに、俺も小さな声で返す。

 何やら、奇妙な寝息を立てているけど、安心して寝たみたいだな。


「これは守ってあげたくなる寝顔だねぇ」


 ユートさんが横から覗き込んで、うんうん頷いて小さく呟いてもいるけど……走りながらなのに器用だ。


「それでえっと、鉄道の話だったっけ」

「うん、そうそう。国中に鉄道網を敷いて人や物の輸送をね、楽にしてみようかなって」

「うーん……」


 リーザを撫で続けながら改めて考える。

 鉄道ができれば、確かに輸送に関しては楽になるけど、それは本当に実現可能な事なのか。

 いや、作るための資金的な部分とか人員などは、ユートさんの地位を思えば何とでもなるのかもしれないけど……。

 というか鉄道って、この人は産業革命でも起こす気なのかな? 革命って言っていたし。


「というか、鉄道とフェンリルになんの関係が?」


 さっきからフェンリルに関する話ばかりだし、わざわざこの話をしたって事は、ユートさんの中でフェンリルがいれば鉄道が実現できるって事なんだろう。

 けど、フェンリルが関係する理由がわからない。


「鉄道って事はつまり、電車が走るでしょ? その電車……というか列車をね、フェンリルに曳いて走ってもらえばいいんじゃないかって……」

「はぁ……?」


 ユートさんの答えに、思わず間抜けな声が出てしまった。

 おっと、また起きちゃいけないからリーザの頭を撫で続けるのを忘れちゃいけないな。


「電車が走る原理とかってまぁ、僕やタクミ君の世代だと電気じゃない? 汽車じゃなくて、電車だし」

「まぁ……そうだけど」


 日本での歴史を見れば、蒸気機関車なんて物もあったがそれは汽車であって、俺が知っているのは電気で走る電車だ。


「汽車だと多分できなくはないんだけど……仕組みがね。詳しいわけじゃないから……タクミ君知っている?」

「蒸気とか石炭とかって単語は出て来るけど、仕組みまではさすがに」

「だよね。そういうのに詳しい人が、こちらの世界に来てくれていれば良かったんだけどね……どこかにいたかもしれないって可能性はともかく、僕は会った事がないんだ」


 蒸気機関車の動力、要は走るための仕組みがどうなっているかなんて、詳しくない俺にはわからない。

 なんとなく、石炭を燃やして水が蒸気でどうたらこうたら……みたいな事を聞いた事があるってくらいだ。

 作り方なんてわからないし、俺の聞き齧った知識で再現しようとしても無理だろう。

 ユートさんも、そういった事に詳しい人にはあった事がないらしい……上下水道は、知識のある人がいてとか言っていたっけな。


「だから、フェンリルに?」

「うん、そうなんだ。電気は当然ながらないし……いや、多少発生させるくらいはできるし、魔法でも近い事はできるんだけどね。まぁこれも同じく仕組みがわからないと」


 まぁ、理科の実験でやるような事くらいはできるし、一応知識はある。

 コイルとか磁石とかを用意すればだけど。

 とはいえそれで、大きな質量のある物……この場合は電車を動かせるなんて事はあり得ない、電力が足りなさすぎるから。


「つまり、フェンリルは動力代わりって事?」

「そうそう。馬車みたいにね、フェンリルが……そうだね、三体とか四体並んで曳いて走れたらなって。無理かな?」

「……さすがに無理なんじゃないかな?」


 電車は鉄の塊……まぁ、俺やユートさんが知っているそのままの形じゃなく、もっと小さくしたとしても数百キロじゃ済まない重さになるはず。

 そのうえ、物や人も乗るわけで……いくら人が乗った馬車をフェンリルが一体で曳けるうえ、相当な速さで走れる馬力、いや狼力? があるとしてもだ。


「うーん、いい案だと思ったんだけどなぁ……思わず馬車を飛び出すくらい。でもタクミ君と話していて、冷静になったらやっぱり無理かなって思えてきたよ」


 実現不可能な事だと、話していて思い直したらしい……馬車を飛び出す前によく考えて欲しかったところだ。

 フェンリル達が曳く、とかよりも地道に蒸気機関を研究していった方が、よっぽど可能性があるように見える。

 ある程度は、魔法がある世界なのでそちらを利用すれば省略とか、簡易的にできるかもしれないし。

 ……ん? いや、魔法があるからそういった機械的な研究が進めづらいのか? まぁ、いいか――。



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