第1315話 人力の案を言ってみました



「話す前に、というか馬車から飛び出す前に冷静になろうよ……えっと、一応聞くけど。レオ、車……自動車をフェンリル達が曳くのってどう思う?」

「ワフ? ワウ……」


 念のため、レオに参考として聞いてみると、走りながら首を傾げた後考え始めた。

 いきなり電車について聞くよりも、とりあえず自動車とランクというか重さを落としてだ。

 自動車も、多さや大きさはピンキリだけど、電車より重くないしレオにはそっちの方が伝わるだろう。

 レオを連れて車には乗った事があるけど、電車には乗った事がないからな。


「……ワウ、ワフワッフ。ワフワフー」

「まぁレオからはそうか……」


 レオの鳴き声からは、可能性としてはあり得なくはないと思うというような答え。

 でも、できるとしても嫌がっているような雰囲気だ。

 まぁレオは、乗るだけならまだしも車の近くにはあまりいたがらなかったからな……車嫌いにも近いのかもしれない。

 小型犬のマルチーズだったし、車なんて人間以上に巨大な物体が高速で動くなんて、犬にとっては恐怖の対象になり得る。


「動力の事を考えるなら、トロッコとかを作ってからとかの方がいいかも? いや、それも結局馬には負けるだろうけど……」


 順番としては蒸気機関車の方が先かもしれないけど、物ありきで考えて作るのなら、トロッコの方が楽そうだ……素人考えだけど。


「ふむ、トロッコか……一部の場所では使えるかもね。悪くない案だと思う……ふむふむ」


 何やら、ふむふむと言って一人で思考し始めるユートさん。

 走りながら顎に手を当てて「ふむふむ」と声を漏らす姿は、これまで以上にシュールだった。

 とりあえず、電車にしろトロッコにしろ、そのための線路を作るのがかなり苦労しそうで、動力の問題だけではない気がしたけど……それは今度機会があったらユートさんに話してみようと思った。

 今は、実現できそうにない事に対して本気で考えているユートさんを、邪魔してはいけないような雰囲気だし。


 ちなみに動力の問題だけじゃないと俺が思うのは、線路だ。

 魔物がいるこの世界で、長く伸びる線路を敷いても年単位で無事だとは思えないから。

 もし実現するとして、線路の上を走らせている途中で魔物が飛び込んで来るなんて事だってありそうだからな。

 それなら、量はまだ少ないけどゴムを使った車輪で、自転車みたいな物を作った方がいい気がする……線路とか必要ない。


 多少、というか結構精巧な金属加工をする必要があるし、かなり重い物ができそうだけども。

 カーボンやアルミ、スチールとかの丈夫で軽い素材があれば話は別かな? 時計があるからギアとかはあるんだろうし。

 今度そういった素材についても、誰かから話を聞いてみてもいいかもしれない……何か、この世界の文化を発展させるような発想……は俺にできるかは疑問だけど。


 広く浅くを日本で心掛けてきたからなぁ、とりあえずこういう物があった、みたいな提案をするだけでもいいかな、スリッパみたいに。

 ……スリッパは、複雑な物じゃないからできた物ではあるか。

 あ、そういえば時計の事でユートさんに聞きたい事があったんだけど……。


「……」

「ふむ……ふむふむ? ふむぅ、ふむふむ」


 また後でいいか。

 今は何か考えて、ひたすら奇妙なふむふむを言うだけの人になっているから。


「ワフゥ……」

「スゥー……むにむに……スゥ、スゥ」


 一体何をしに来たんだ……? というような意味合いを含んでいる気がするレオの溜め息。

 さらにリーザの寝息を聞きながら、俺自身も色々日本の薄れてきた知識を記憶から引っ張り出して、あれこれ考えながらランジ村への道を進んだ。

 走るのはレオにお任せだけど――。



 ――しばらく無言で走るうちにユートさんがこれ以上は危険だから、と馬車へと戻った。

 さらに少ししてリーザが目を覚まし、元気なリーザやレオと街道を走るのを楽しんでいるうちに日も傾き、街道から離れた場所で今夜の野営……場所は街道の分かれ道近くで、森の傍だ。

 分かれ道というのは、以前ランジ村に行く時にはなかった所だな。

 街道から北の森の近くまで進んだ後、東へ真っ直ぐ行けばランジ村……と言えばわかりやすいだろうか。


 街道が整備されるにあたって、ランジ村にも繋がるように作られているから、今は分かれ道になっていて、わかりやすく大きな立て看板も作られていた。

 野営の準備は使用人さん達が総出でやってくれる、素早く焚き火やテントが用意されて行くのは見ていて壮観だった、ありがたい。

 夕食の準備はチタさんやシャロルさん、リーザと俺も手伝ってフェンリル達の分も一気に用意……さすがにヘレーナさんがいるとはいえ、設備が十分じゃないので大皿料理というか簡単で大量に作れるものになったけど。

 それでもフェンリル達は、喜んで食べてくれているようだ。


「お疲れ様、タクミ君」

「お疲れ様ユートさん。まぁ、俺というよりレオがずっと走っていたので、あまり疲れていないんだけど、ははは」


 リーザやティルラちゃん、ラーレやコッカー達も混じって楽しそうにしているフェンリルの食事風景を眺めていると、ユートさんが料理を大量に載せた木皿を持って声を掛けてきた。

 俺がいるのは、クレア達からも離れた端の方……前もって、ユートさんから食事時に二人で話そうと言われていたからだけど。

 また、鉄道の話でもするつもりなんだろうか? どうあっても、現状ではすぐに実現なんて不可能そうなのに。


「ユートさん、もしかしてそれ全部食べるの?」

「もちろん。今日は色々と動いたからお腹が減っちゃってね。それに、お酒もあるんだから飲まないと、色々維持できないから」

「維持って……」


 ユートさんが右手に持つお皿は、食卓に数人がついて中央に置かれているような大皿、そして積み上がるお肉や野菜などの調理された物。

 とても一人で食べられる量には見えなかったし、俺を加えたとしても残してしまいそうなくらいなんだけど、それでも笑顔で頷くユートさん……大食いなのかな。

 左手には、大ジョッキどころかピッチャーじゃないかと思うくらいの、樽型の物になみなみとワインが入っているのを持っていた。

 お酒で色々維持って、酔いを維持するとかだろうか……というかその樽ジョッキというか、樽ピッチャー? はどこから持ってきたのか……幌馬車に積み込んだ荷物の中にはなかったはずだけど、もしかしてユートさんの私物かな?


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