第1313話 駅馬とフェンリルの関係を尋ねられました



「それでタクミ君、フェンリルを駅馬でって事はつまり……人を乗せたり馬車を曳いたりしてもらうって事だよね? 替え馬の代わりに?」

「まぁ……どれだけ受け入れられるかはわからないけど、うん」


 さすが元日本人のユートさん。

 駅馬と聞いただけで、フェンリルがやる事がなんとなくわかったみたいだ。

 実際には馬と馬を乗り換えるわけではなく、フェンリルが最初から最後まで人や物を運ぶんだけど。


「宿場とか、馬を休める場所を作る……までならそろそろ作っておかないとと考えていたけど、替え馬かぁ。いや、替えフェンリル? 呼び方はなんでもいいけど、さすがタクミ君だ。他とは違う事を考えるね」

「いや偶然というか、フェンリル達は人を乗せるのに抵抗がないようだし、馬車を曳くのも楽しそうだったからなんだけども」


 フェンリル達は、人を乗せたり物を曳く事を嫌がる素振りはなく、むしろ走る時に加わるちょっとしたハンデというか、重りくらいにしか感じていないようだ。

 当然ながら乗る人との相性や、馬車を曳く時に繋げるための軛(くびき)とかもあるから、全てのフェンリルがどちらもできるわけじゃないけど。

 個体差があるから、そこは適材適所でフェンリルから聞き取りをして決めようってくらいに考えている、今のところは。


「フェンリルなら、馬が二頭でようやく曳ける物も一体で曳いて、しかも走ったりできそうだからね。いい案だ」

「あくまでそうできたらな、という考えなのとまだ準備しているところだから、成功するかはわからないけど……」

「いやいや、フェンリルに触れられる、乗る事ができるってだけでも人が集まる可能性があるよ。多くの人はフェンリルの本当の怖さを知らないからね。まぁ、多少強力めの魔物ってくらいかな? ウルフの延長線的な感じで。それより、好奇心が勝ちそうだ」

「多くの人が利用してくれそうなら、ちょっと安心かな」


 レオに対してもそうだったけど、怖がる人は当然いるけど好奇心が勝って興味を持ってくれる人が多い。

 この世界の事をあまり多く知らない俺だけど、好奇心強めの人が多いかなって。

 一部、ヴォルターさんのようにどうしても受け入れられない人がいるのは仕方ないにしても、多くの人が躊躇しないのであれば、フェリーにお願いしたかいがある。

 まぁ、そもそもフェンリルを駅馬でっていうのは、そのためだけじゃないんだけど。


「でも本当は、用心棒代わりみたいに最初は考えていたんだけど……」

「あぁ成る程。フェンリルがいれば、そこらの魔物が大挙として押し寄せても大丈夫そうだからね。多分タクミ君はレオちゃんと接していてわかっていると思うけど、気配とか匂い、音なんかにも敏感で悪巧みする連中も見つけてくれるだろうし」

「全部が全部フェンリル任せ、という程は考えていないけど……兵士さんを集めてとかよりは、実現させられそうかなって」

「うんうん、兵士を募って訓練させて、警備に当たらせるまでは時間もかかるからねぇ。その点、フェンリルなら訓練は必要ないし、むしろそこらの兵士よりよっぽど優秀だ」


 走りながらうんうんと頷くユートさん。

 時間だけでなく、兵士さんを継続的に雇う事での費用の問題も、フェンリルなら解決する。

 ちゃんとした美味しい食事、ハンバーグがあればいい……って言っていたのは、すっかりハンバーグが一番の好物になったフェリーか。


「フェンリルが協力してくれるだけで、そんな利点があるなんて、僕は気付かなかったよ。基本的に従魔にできない魔物って考えていたからねぇ」

「従魔にできない? でもクレアはシェリーを従魔にしているけど?」

「あれは特殊な例だよ。いや、フェンリルが認めればそりゃ従魔になるよ? けど、認めさせるための方法なんて、人間にはほとんど無理な事ばかり。タクミ君はレオちゃんやリーザちゃんがいる事が大きいかな」


 あぁそうか……フェンリルがどう考えているかはともかく、相手は魔物。

 戦って勝つにはフェンリルは強すぎるし、当然ながら相互での意思疎通も難しい。

 俺にはレオがいてくれたから、フェンリルが襲って来ても問題ないらしいし、レオが通訳してくれる。

 リーザもいれば、その通訳も完璧で意思疎通も問題ない……最近は、シェリーを通してクレアの通訳や、デリアさん、さらにティルラちゃんのギフトなんてのもあるけど。


 意思疎通ができれば、戦ってという機会も減らせられる。

 初めてフェンリルの事を聞いた時よりはかなり理性的でいてくれるから、話をして説得なんて事だって不可能じゃないからな。


「確かにレオ達のおかげは大きいと思うよ。それはそれとして……ユートさんはその事を話すために走って来た……わけじゃないよな?」


 ここまでの話だけだったら、わざわざ走っている途中の馬車から飛び降りてまで、俺の所に来る必要がないからな。

 まぁユートさんなら、面白そうだからってだけで特に理由なくそれくらいの事はやりそうだけど。

 ……馬車から降りた時、かなりの勢いで転がったにもかかわらず、服が少し汚れている程度で済んでいる人だし。


「もちろん。フェンリルを駅馬にって驚いたし、凄いと思うけど……どうしても以前からやりたい事があったんだ。それにフェンリルが協力してくれたら実現可能かなって思って、いてもたってもいられなかったってわけ」

「以前から……?」


 フェンリルが協力してくれれば……なんでもできるなんて事は言わないけど、かなり大変だった事ができるようになってもおかしくないか。

 権力やお金、人の数という意味ではほとんど実現不可能な事はない、ような気がする地位を持っているユートさん。

 だからこそ、それでもこれまでやりたくてもできなかった事とは何か、興味が沸く。


「うん。これがあれば、国が変わる。まさに革命とも言うべき事なんだよ。タクミ君は、この世界の移動方法や流通などの多くが馬を頼っているっていのはわかるよね?」

「まぁ……あまり遠くまでの移動はまだした事がないけど、大体は馬だと思う」


 徒歩って手段もあるにはあるけど、早く移動する、早く物を運ぶ、と考えると頼れるのは馬だ。

 自動車が普及するまで日本どころか、地球でも昔はそうだったわけで……場所によっては牛や犬もあったようだけど。

 車があればなぁ……とこの世界に来て思ったことは何度かあるけど、フェンリルをという事だからユートさんの考えているのとは違うか――。



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