第1311話 フェンリル達の寝床を考える必要がありました



「少々、タクミ様がこれから住まわれる屋敷との距離が気になりますね……レオ様、遠くのフェンリルと連絡を取る場合はどうされますか?」


 連絡を取り合う手段か……まぁ人間が歩くと大体往復一時間ってとこだろうから、ちょっと離れていて不便かもしれないという心配はわかる。

 急な何かがあったり、こちらに呼んだりする場合、さらに食事を報せる時などにもちょっと手間だな。

 というかライラさんもしれっと屋敷って言ったなぁ……大きさの想像はそれなりについているけど、やっぱり家というよりも屋敷と形容する方が正しいっぽいな。

 レオもいるし、クレア達も含めて大勢が住むんだから仕方ないか。


「ワウ? ワフワフゥ?」

「遠吠えかなぁ? って言っていますね」


 ライラさんから聞かれたレオの答えは、意外とでもなんでもなく原始的な方法。

 早い話が遠くまで大きな声で伝えればいいというものだった。


「遠吠えですか……あれはなんというか、急に辺りに響くと村の方達が驚いてしまうかもしれません」

「ですよね。うーん……」


 離れている場所、もちろん北に向けてだとしても遠吠えは村にも響くだろう。

 そうなると、まぁ定時の鐘とかならともかく、不定期に遠吠えが発生してしまうと村の人達に悪い。

 ん? 定時の鐘代わりに遠吠えというならありか? いや、これはさすがにランジ村の村長のハンネスさんとかと相談しないとな。

 そもそも定時を報せる何かがあるかどうかもわからないし、その必要があるのかもだ……屋敷では特になかったし、鐘自体はランジ村にはあったけど。


「ランジ村の屋敷には余裕がありますので、そこの庭に数体のフェンリルが寝泊まりできるようにするんがいいかもしれませんね」

「あ、そうですね。確かに。フェンリル達は多少離れていても大丈夫そうですし、そのフェンリルに報せる役をやってもらえばいいわけですね」

「ワフ、ワフワフ」


 ライラさんの案に、俺が乗っかってレオが頷く。

 家……もう新屋敷でいいか、その新屋敷の庭やすぐ近くに屋根付きでフェンリル達の寝泊まりする場所を作ればいい。

 そこにいるフェンリル達が、森近くのフェンリル達への伝令役になってくれれば良さそうだ。


 走るのを嫌がるフェンリルはこれまでいなかったし、それくらいならやってくれるだろう。

 寝る場所が離れていても問題ないのは、屋敷で過ごしていてわかっている事だからな。


「ワゥ……? ワフ、ワフワウ!」

「レオ様?」

「あー、そうなのか? それも考えないとか……えっとですね、ライラさん」


 レオが走りながら器用に首を傾げて、何やら俺に伝える。

 ライラさんにもレオの言った事を伝えて一緒に考えた……レオが言うには、俺達の新屋敷近くに住みたいと考えるフェンリルが多くなりそうだという事らしい。

 レオがいるからか、懐いている俺や他の人達の近くにという事なのかはともかく、触れ合う事が多くなるのは確かで、そのフェンリルを選ぶのは必要だ。

 フェリーやフェンとリルル……特にライラさんを乗せているリルルは、捨てないでと訴えるような目をこちらに向けているし、シェリーもいるから確定でいいかなと思うけど。


 いや、別に離れた場所だからと言っても、捨てるわけじゃないんだが……リルルはクレアと一緒に外に出る事が増えるのに。

 でもそういった事もあるから、リルル達これまで一緒にいたフェンリルが新屋敷の近くにいる事はほぼ決まりだな。

 後は、他のフェンリル達だけど……。


「フェリーが言っていた、序列を重要視するのは……俺じゃわかんないか。なんか、不満とか出そうだし」


 序列を重視すると、短期間なら大丈夫でも長くなるとちょっと問題になりそうだ。

 特に、序列としてはあまり高くないらしい、フェンやリルルがずっと近くにいたり、群れのリーダーであるフェリーが数の少ない方にいるとか……。

 ちょっと考えただけでも、不満の種になりそうな事が出て来る。

 まぁ、フェリーが群れを離れているのは、あまり不満にはならないかもだけど……最近は屋敷に住み付いている感じに近かったし。


「そちらは要検討ですね。フェリー達とも話す必要がありますし」

「そうですね。今ここで全て決められませんから……」


 まぁ、一応ハンネスさん達にも確認しなきゃいけない事だからな。

 多分断られる事はないとは思うけど、森には村の人も出入りするわけで、その邪魔になったりしちゃいけないから。


「では、この話はアルフレットさん達とも共有し、検討させて頂きます」

「よろしくお願いします。何か意見などがあれば教えて下さい」

「畏まりました。ではリルル、お願いします」

「ガウゥ」

「ワフワフ~」


 全て俺が決めるわけではなく、使用人さん達やクレア達とも話す必要があるため、そちらの根回しはライラさんに任せる。

 全部俺が話していくとか、集めてとかだと大事になっちゃうからな……フェリーとは俺が話す事になるだろうけど。

 ともあれ、フェンリルの要望から寝る場所の相談を終え、リルルに声を掛けて離れていくライラさん。

 レオもリルルに声を掛けるように鳴いた。


「あ、そういえば食事に関しても話さないとだった……まぁ、道中はまだ長いんだし、話す機会はあるか」

「ワフ」


 俺の言葉に頷くレオ、それからしばらくはリーザの寝息を聞きながら、風を感じてのんびりと道中を進む。

 ちなみに食事に関してというのは、フェンリル達が料理した物を食べたがっているという事だ。

 自分達でオークなどを狩って賄う事はできるんだろうけど、フェリーが言っていたように人が調理した物を食べて気に入ったみたいだった。

 ヘレーナさんはいるけど、屋敷と違って料理人の総数は減っているわけで……四十体を越える大食漢、もといフェンリル達の食事を作るのは大変だ。


 考えていなかったわけじゃないけど、向こうに付いたら早々に料理を作る人を雇うわないとな……村の人達で料理できる人がいいかな?

 しばらくは、チタさんを始めとした使用人さん達や、今一緒にいる従業員さん達が手伝う事になっているけど。

 向こうに行っても、すぐ薬草畑の仕事があるわけじゃないから、その間だけな。


「んー、孤児院から来た子供達も手伝うのはありかな? 簡単な物なら、リーザみたいにお手伝いできるだろうし、ヘレーナさん達なら料理の基礎は教えてくれそうだ」



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