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第1293話 東門で従業員さんの一部と合流しました
第1293話 東門で従業員さんの一部と合流しました
「でも、手を振る姿は様になっていますよ、タクミさん」
「クレアの見よう見まねだけどね、はは」
無邪気に手を振る子供や、大人達も俺達に向かって手を振っていたりするので、ずっと手を振っている状態が続いている。
同じくクレアも、俺に背を預けた状態で色んな場所に顔を向け、手を振り続けている……さすがに、こういった状況には慣れているんだろうな。
俺の手の振り方は、そんなクレアの真似をしているだけだと苦笑した――。
――その後、残っている孤児院の子供達や職員さん達、雑貨屋のハインさん、魔法具商店のイザベルさん等々、俺達もよく知っている人達を見物人の中に発見し、手を振り合って通り過ぎた。
カレスさんの店でレオが何度か遊び相手になった事のある子供達や、孤児院の子供達が見えた時は、レオがそちらに行こうとするのを止めたりもしたけど。
残念そうだったけど、歩きだすとすぐに機嫌が直った……やっぱり、街の人達に喜ばれながら注目されているのは、レオにとっても気分がいいんだろう。
……子供達と遊ぶのは、また今度な。
イザベルさんは、リーザが一番に発見して「お婆ちゃん!」と叫んで、フェンの上からブンブンと両手を振っていたのは微笑ましかった。
フェンから降りて駆け寄ろうとするんじゃないかと、ハラハラしながら後ろを見ていたけど……その心配はなかったようだ。
両手と一緒に二つの大きな尻尾も振られているのを、シェリーが狙って姿勢を低くしていたのが少し面白かった……猫じゃらしならぬ、フェンリルじゃらしかな?
そうして、大体二時間くらいでラクトスの街を通り抜け、東門に到着する。
大通りの方ではまだ人が大勢集まっているらしく、屋台や近くの店、ハルトンさんやカレスさんのように宣伝していた所などは、今日は大忙しだろうな。
「思っていたよりも、悪い視線は感じられませんでしたな」
「そうですね……タクミ様とレオ様の噂は、好意的に受け止められている証拠でしょう。とはいえ、全くないわけではありませんでしたが……」
東門の広場で、レオから降りてひとまず休憩。
フェリーから降りたセバスチャンさんとアルフレットさんが、顔を突き合わせて話しているのが聞こえた。
悪い視線か……好意的な視線や歓声、盛り上がっていた様子から、皆に受け入れられていたのは間違いないと思う。
けど確かに、予想より少ないとしても睨むようにこちらを見ていた人もいた。
……セバスチャンさんが言っていたような、襲い掛かって来るとか石を投げる、といった暴挙に出るような人はいなかったが。
睨んでいた人は男性が多く、俺に向けられていたようなので、クレアに懸想をしている人がいる……というのも間違いじゃないんだと実感を得られた。
「一部の女性からの視線も、少し怖かったけど……もしかしたら男性のよりも、念がこもっていそうだったなぁ」
男性から睨まれるのは、ある程度覚悟していたからいいんだけど……女性からも結構睨まれていたりもした。
あれは、男性以上の念というか殺気みたいなのがこもっているような気がして、顔には笑顔を張り付けていたけど、背筋を冷たい汗が流れていたんだよな。
エメラダさんの事もあるし、クレアは女性にも人気っぽい。
「どうされました、タクミさん?」
「いや、なんでもないよ。とりあえず、皆へのお披露目はできたかなってね」
少しぼんやりしていたためか、隣にいたクレアに首を傾げられた。
女性からの視線が……というのはクレアに言う事じゃないから、誤魔化しておく。
「そうですね。これで、私はタクミさんのものと、多くの者達に知ってもらえたと。そしてタクミさんも……やだ私ったら、タクミさんのものだなんて……」
「えーっと……」
自分で言って自分で照れ始め、両手を頬に当ててついに永久照れ機関を手に入れたクレア。
どう答えたものか……と言葉を探したけど、ちょうどいい言葉が出ない。
まぁ、本人は想像で楽しんでいるようだから気の利いたセリフを言わなくても大丈夫そうだ。
ただ想像というか妄想というか、それらが加速し過ぎている気もするのでいずれなんとかしないといけないかもしれない……俺含めて。
「クレア様、タクミ様、これからよろしくお願いします!」
「えぇ、よろしくねエメラダ」
「担当はクレアだけど、俺からもよろしくお願いします、エメラダさん」
旅立ちかけたクレアを引き戻し、東門で待っていたエメラダさん達と合流。
ニックや他の人達もいて、それぞれと挨拶をしていく。
アンナさんとは、ここでお別れだな……。
「アンナさん、子供達は責任をもってお預かりします」
「はい……よろしくお願いします」
リーザやレオ、ティルラちゃんとワイワイしている子供達を見ながら、アンナさんに頭を下げる。
少し寂しそうに目を伏せるアンナさんだけど、同じように俺に頭を下げた……きっと、まだ成人すらしていない子供達が旅立つのを、複雑な気持ちで受け止めているんだろう。
リーザやレオの遊び相手になってくれるだろう子供達、俺に親代わりが務まるかはわからないが、きちんと責任を持って見守ろうと思う。
「アニキ、よろしくお願いしやす!」
「ニックとはまぁ、これまでとあまり変わらないかな?」
アンナさんとのあいさつの後、満面の笑みで近付いてきたニック。
俺と話せるのが嬉しい……と顔に書いてあるようで、ちょっと微妙な気分になった。
ちなみにアンナさんは今、カイ君やメンティアちゃんを交えてクレアと話している。
「そりゃないっすよアニキ! これからもアニキのお役に立てるよう頑張りますから!」
「ははは、冗談だよ。よろしく頼むな」
「へへへ、へい!」
冗談だと言って笑いかけると、照れたように笑って頷くニック。
……男の照れ顔を見ても、あまりうれしくないなぁ……最近、クレアの可愛い照れ顔を見慣れているせいかもしれないが。
「ニック……さん? ちょっと聞きたい事があるのですが、いいですか?」
「ティルラちゃん? あぁ、成る程。ニック、話し相手というか知っている事を話してあげてくれ」
俺とニックが話している所に、レオとの所にいたはずのティルラちゃんが来た。
ティルラちゃんがニックに聞きたい事って? と思ったが、真剣な様子からスラムの事だろうと考え、ニックに話してあげるよう頼む。
最近ずっと、スラムに関する事を使用人さん達とも話しているのを、何度も見かけていたからなぁ。
やっぱりティルラちゃんとしては、ラクトスの現状をどうにかして変えたいと思っているようだ。
……アロシャイスさんには、危険な事がないようしっかり見ていてもらおう――。
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