第1292話 レオに乗ってラクトス内を進みました



「ワッフワフ~」

「グルゥ~」

「ガウゥ~」

「ガウ~」

「皆、機嫌良さそうだなぁ」

「ふふ、そうですね」


 広場を抜け、相変わらず左右に衛兵さん達が並んで道を作ってくれている中を進む。

 多分、観衆から抜けて来ようとする人への対処など、警備をする意味も含まれているんだろう。

 その中を、人が歩く速度よりさらにゆっくりと、そしてのしのしと歩くレオは機嫌良さそうに尻尾を振り、鳴き声も弾んでいるようだ。


 俺とクレアの乗っているレオの前を歩くフェリー、背中にセバスチャンさんとアルフレットさんを乗せて、こちらも尻尾を振ってご機嫌な鳴き声が聞こえて来る。

 後ろからは、リーザとシェリーを乗せたフェン、ライラさんとエルミーネさんを乗せたリルルがいるんだが、尻尾が振られているかの確認ができない代わりに、同じくご機嫌な鳴き声が見物人の歓声の中からでも聞こえた。


「人に見られているのが楽しいのかな? いや、歓迎されているのがわかるからかもしれないね」

「そうですね。この街の全員が……とは言いませんが、多くの人達がレオ様を歓迎していますから。ふふ、これだと私とタクミさんのためというよりも、レオ様のためみたいですね」

「ははは、俺とクレアはおまけなのかもね」


 森を歩いている時のような、機嫌がいいレオ。

 フェリー達もそうだけど、街の人達から歓迎されているのがわかっているからかもしれない。

 微笑むクレアが言うように、確かにレオ達のお披露目のようになっている見方もあるか……いやまぁ、大体の人はレオ達を、特にレオを見た事はあるんだろうけども。

 ……背中に乗っている俺やクレアよりも、前後をフェンリルで固めているレオの方が目立つのは仕方ないか。


「お、あれは……ハルトンさんだね」


 少し進んだ辺りで、見物人の中からハルトンさんを発見。

 顔見知りだから、多くの人達に紛れていてもよくわかる……レオの上に乗っていて、見下ろす形だからってのもあるだろうけど。


「仕立て屋で見た事のある人もいますから、お店の者達を連れて来たのでしょうね」

「……店はどうしたんだろと思わなくもないけど、こんな状況だと商売にはならないのかもね」


 ハルトンさんの周囲にはクレアの言う通り、見覚えのある顔がちらほら……仕立て屋の従業員さん達だろう。

 多くの人が何事かと、衛兵さん達の作る道を見に来て、さらにその中をレオや俺達が通るとなってその場にとどまって見物人になっている。

 これじゃ、少なくとも通り過ぎるまでは店を開いていても、客が入りそうにないだろうから閉めてきたか最低限の店番だけ置いているとかだろう。


「あら、ふふふ……タクミさんも、皆に手を振って応えてあげて下さい」


 俺達が話題にしているがわかったから、というわけではないだろうが、ハルトンさんが従業員さん達と一緒に俺達へ向かって大きく手を振っている。

 それを見て、クレアが手を振り返しながら俺にも手を振るように言った。


「そ、そうだね。えっと……こうかな?」

「ふふふ、喜んでいるみたいですよ?」

「あはは……」


 慣れないながら、空いている方の右手をハルトンさん達のいる方に向かって振ってみた。

 すると、大きくピョンピョンとしながら両手を振るハルトンさんの姿が……結構いい年齢だと思うけど、はしゃいでいるのは今が非日常だからだろうか。

 喜んでもらえているなら、手を振った甲斐があったな。


「クレア様、そしてシルバーフェンリルを従えるタクミ様! お二人も御用達の我が店、衣服の仕立てだけでなく既製品もお安く扱っております! しかも今なら、タクミ様考案の新しい商品もございますよ! 是非とも、我が店へ!!」


 俺が手を振り返した事で、周囲からも注目されていると判断したのか、大きく叫ぶハルトンさん。

 その宣伝が俺達の方にも聞こえて来て、呆れのような苦笑が思わず漏れた。

 御用達というか、贔屓にさせてもらっているのは確かだし、宣伝に使って効果があるなら構わないけど……。


「……商魂たくましいというかなんというかだね」

「ただ私達を見に来たのではなく、商売に繋げようとしていたのですね。あら、あそこにカレスも……?」

「ん? あ、ほんとだ。あっちは、何か周囲の人と話しているみたいだね」


 ハルトンさん達の前をゆっくりと通過し、今度はカレスさんを発見する。

 こちらもお店の従業員さんを連れて、集まった人たちに何か話している様子だ……。

 ちなみにニックはいない。

 ニックは東門でエメラダさん達と一緒に、俺達と合流してランジ村に行く予定だから……向こうで村の人との顔見せの意味もある。


「こちらからはよく見えませんが、手に何か持っていますね……あぁ、薬草みたいです」

「薬草を売り込んでいるのかぁ……確かに広めるチャンスかもしれないけど、カレスさんの所はラクトスではもう広く知られているのになぁ」

「以前の、疫病の件からですね。でも、それ以後からこの街に来た人なら、知らないかもしれません。そのためかもしれませんね」

「成る程ね……ランジ村に行ったら、薬草作りが大変そうだ」


 チラリとカレスさんの手元が見えて、薬草らしき物を持っているのをクレアが見つけた。

 ラモギの安売りから、ラクトス全体に薬草を売っている事自体は広まったみたいだけど……新しく街に来た人なども含めて、さらなる集客を見込むつもりなんだろう。

 こちらもこちらで商魂たくましい、さすが公爵家の運営する店の一つを任されているだけの事はあるのかもな。


 目玉商品が、今や薬草ばかりになってしまっているのは、いい事なのかはわからないが。

 とりあえず、ランジ村に着いたらラクトス用の薬草作りを頑張らないとな。


「ふふ、レオ様だけでなく私達も注目されているみたいですね」

「……レオ達の方を見ている人が多い時は良かったけど、さすがに多くの人から注目されているとわかると、緊張するなぁ」


 カレスさん達のいる場所も通り過ぎ、集まった人達の視線や歓声に応えるように手を振っているうち、レオ達だけでなく俺やクレアも注目されるようになった。

 というより、フェンリルやレオに驚いていた人達が、ようやく乗っている俺とクレアの様子に気付いた……という感じか。

 覚悟はしていて、一時的に開き直ってはいたけど……レオ達への注目で油断した後、改めて注目されているとわかってまた緊張し、体が硬くなった――。 



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