第1278話 ネックレスの様子が変わっていました



「そのネックレスの宝石がさ、光ってない?」


 クレアの胸元には、俺がプレゼントしたネックレスがあるんだけど、その宝石部分が仄かに緑色の光を放っているように見えたんだ。

 本当に薄っすらとそう見えるだけで、見間違えかと思うくらいだけども。


「え……?」

「ワフ?」


 俺の言葉を聞いて自分の胸元を見下ろすクレア。

 レオも、食べていたソーセージから顔を離して首を傾げた。


「あ……本当です。言われてみれば少し光っているような……」

「見間違いのようにも感じるけど、やっぱり光っているよね。なんだろう……?」


 日が完全に暮れている夕食時、裏庭でフェンリル達やラーレ達も一緒に食べているから、明りは少ない。

 その状態で、ようやく光っているかどうかが見えるくらいの、ほんの少しの光。

 タイニーライトよりも弱い光で、蓄光塗料が塗られているんじゃないか? と思うくらいだ。


「ワフゥ……?」

「あ、レオ。口元汚れているから、クレアに付けちゃだめだぞ?」

「ワフワフ」


 興味を持ったのか、レオがクレアのネックレスに鼻先を近付ける。

 ソーセージや他の料理を食べて口周りが少し汚れているから、気を付けるように注意。

 クレアのせっかくの服を汚しちゃいけないからな……具体的には、洗濯する使用人さんが大変になるから。


「ワフゥ……ワッフ、ワウワウ!」


 いつもなら、食べる事に夢中になるレオが興味を惹かれて何事かと思って見守っていると、急に何やら納得したように吠えるレオ。

 レオにはネックレスの宝石が何故光っているのか、わかったみたいだ。


「レオ……?」

「レオ様?」

「ワフ、ワウワフ! ワウーワフ!」

「えーっと……祝福と加護の影響って事か?」

「ワウ!」


 ネックレスから顔を離したレオが、お座り状態で前足を忙しなく動かす身振りも加えて説明してくれる。

 ちょっと楽しそうにも見えるのは、セバスチャンさんの説明好きの影響だろうか?

 それはともかく……レオが言うにはなんでも、俺とクレアにやった祝福とそれに伴う加護。

 それが宝石にも宿っている、という事らしい。


「宝石や宝玉と呼ばれる物の中には、魔力を有する物もあるとは聞きますが……」


 いつの間にか話を聞いていたセバスチャンさんが、口元に手を当てて思案しながら呟く。

 宝石とかって、その価値からかよく特別な物、特別な性質を持った物として取り上げられる事があるのは、地球でもそうだ。

 魔力はともかく、所有者に幸福または不幸にするなんて話もあるくらいだからな。


「ワフワフ、ワウワッフ!」

「あまり強い力じゃない、とレオは言っていますね」


 レオの言う強い力じゃない、というのは俺やクレアのような人間にとって弱いとは言い切れないけど……。

 効果を聞いてみると、レオにもそこまではわからないらしい……宝石に宿る事で、性質が変わっているような気がするとか。

 でも悪い効果じゃないとも言っていて、多分クレアを守るための物だろうとも言っていた。


「私を……タクミさんのプレゼントが、レオ様の祝福で私を守って下さるのですね」

「ワフ!」

「まぁ、そうなるかな?」


 当然、プレゼントをする時に狙ってやったわけじゃないけど……俺とレオからのプレゼントのように思ってくれたら嬉しい。

 レオは後でしっかり褒めて撫でておこう。

 そう思っていたら……。


「ふふふ、ふふふふ……うふふふふふふ!」

「姉様が壊れました!」

「クレアお嬢様、少々気持ち悪いかと」


 突然笑いだすクレア……朝食時に漏らしていた笑いの強化版みたいになっている。

 話を聞きつつも、食事に集中していたティルラちゃんが驚き、セバスチャンさんからも注意が飛ぶ。

 ……気持ち悪いは言い過ぎだと思うけど、ティルラちゃんの壊れたと言うのはわからなくもない。

 ラーレやリーザ、使用人さん達やフェンリル達も驚いている……というか一部引いているし。


「気持ち悪いはないんじゃないかしら、セバスチャン? でも、タクミさんとレオ様からと思うと、自然と笑いが漏れてしまうのよ……ふふ」

「好きな方、特別な方の両方からとなると、気持ちは……いえ、やはり私にはそこまでは……」

「あはは……まぁ何はともあれ、クレアは喜んでいるって事で」


 一度笑いを止めて、セバスチャンさんを睨むクレアだけど、結局また顔をほころばせて笑い始めた。

 俺は、首を左右に振っているセバスチャンさんに苦笑。

 ティルラちゃんにもまだ凝視されているのは、スルーする方向のようだ……クレア自身、壊れたというのを否定できないのかもしれない。

 一部が引いている状況だけど、それでも俺はそんなクレアを見て可愛いとか思ってしまうのは、ある意味末期なのだろうか? とちょっとだけ疑問。


 恋は盲目とか言うけど、いや、笑っているクレアが可愛いのは間違いないし……レオも関わる事になったけど、俺からのプレゼントを喜んでいるわけだし。

 口に出すと、のろけというか周囲に変な空気を振りまきそうだったので、コッソリと笑うクレアを楽しむだけにさせてもらおう。


「あ、そういえばクレア。さっき言いかけた少し悩んでいる事って?」

「ふふ……あ、そうですね。聞いて下さい、タクミさん!」

「え、あ、うん」

「……私はこれで」

「ワフ?」


 ネックレスの宝石に関する話に集中していたけど、そういえばさっきクレアが何か悩んでいるというような事を言いかけていたのを思い出した。

 聞いてみると、笑顔のままなのに身を乗り出して話し出すクレア……その勢いに押されながらも、頷く俺。

 セバスチャンさんは、音もなく身を引き離れていく……うん? レオは、首を傾げているだけだな。


「ランジ村に持って行く衣服なのですけど、全部は持っていけないとエルミーネに叱られました!」

「え、衣服? あれ、決めかねているって話は聞いたけど……あれから、どうするか決まったんじゃなかったんだ?」


 前のめりに話すクレアだけど、以前にも似たような事を聞いた覚えがある。

 あの時はドレスだったかな? でも、衣服と言っているしドレスもそれに含まれるんだろう。

 あれから、目途が立ったような事を聞いた気がするけど……? いや、全部って事は選ぶのを止めたって事か?



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