第1272話 ロエより効果が低くて求めやすい物ができました



「実際、タクミ様から治療のためにもしもの時のロエは渡してありますが……やはり、価値が高いからでしょう。少々の怪我では使いたがらないようです」

「まぁ俺も、これまであまり見なかった高価な物を使うのは、躊躇するでしょうから気持ちはわかります」


 小心者というのもあるだろうけど、『雑草栽培』という能力がない場合は俺もロエを使うのは躊躇うだろうからな。

 誰かを助けるためならともかく、これまで何度か自分に使った時は『雑草栽培』で気軽に作れるからだし。


「ロエを使った物とわかると、一部の人はそれでも躊躇している様子でしたけど……それでもただの塗り薬なので、使いやすく感じているようでした」

「成る程ね」


 販売する人に対しては、さすがにロエを使っているというのは製法と一緒に秘密だけど、護衛さん達は俺の『雑草栽培』の事も知っているわけで、ロエだとすぐにわかったんだろう。

 聞かれたミリナちゃんが、教えただけかもしれないが。

 とにかく、ロエそのままよりも塗り薬として調合された物の方が、抵抗感は低いって事なのかもしれない。


「効果の方は間違いなくロエより低く、ですけどよく取引されている物よりは高く即効性があります」

「ふむふむ……」

「街や村で、薬師が調合している傷薬もありますが……」


 ちょっとした怪我をするくらいは、どこでもありふれた話。

 日本で言う絆創膏や消毒液くらいの感覚で、傷薬自体は一般的だ。

 ただし、値段も効果も千差万別で高ければいい物というわけでもなければ、安ければほとんど効かないというわけでもない。

 その辺りは、薬師の腕とかに関わって来る事らしいけど……あと、小さな村などでは家庭の医学的な伝統の薬が使われていたりして、これも効果はそれぞれだとか。


 消毒して傷に菌が入らないようにして、絆創膏や包帯をして自然に治るのを待つ……というのが、俺の常識だったんだけど、この世界では違う。

 一瞬で怪我が治癒されるロエがあるように、傷薬も効果のある物は本当に自然治癒よりも早く治るみたいだ。

 まぁ、効果が出るまでの時間や効果その物は、薬によって違うわけだけど。


「ロエより効果を低くした影響だと思います。傷口に塗って少し……一時間程度でしょうか。そのくらいでほぼ完全に怪我を癒す事ができますね。もちろん、怪我の大きさによりますが……」


 護衛さん達に協力してもらって、いろいろと試してわかった事を話すミリナちゃん。

 体力回復薬草の時と違って、わかりやすい効果と試行回数が多かったおかげか、自信があるようだ。

 話を聞いてみると、ロエと同じく外傷に効果があり、数センチ程度の擦り傷切り傷に対しては、一時間程度で治ると。

 大きな怪我は治せないが、全く効果がないわけではなく傷口が少し小さくなるくらいは治癒効果があるみたいだ……まぁ、大きな怪我に対して傷口が小さくなるのを待って、さらにもう一度……なんて悠長にはしていられないので、応急処置くらいにしか使えないみたいだけど。


 他にも骨折には当然ながら効果はなし。

 効果が出る時間が気になったけど、それは即座に治癒するロエと比べてだし……一時間で小さな怪我を完全に治すだけでも、俺にとっては凄い事のように思える。

 この世界の他の傷薬は、大体患部に塗って翌日に治っているかどうかくらいの物が多いらしいから、破格の効果かもしれないけど。

 数日かかる物もあるらしいが、それはもはや自然治癒とどう違うのか疑問だ……。


「作る手間とかは、どうなんだいミリナちゃん?」


 ロエより低価格、確実な効果の出る薬として売るつもりだけど、手間次第で値段も多少変わる。

 石化回復薬や、体力回復薬はちょっと手間と時間がかかるようだけど、傷薬はどうなのか。

 ……元になった使用する薬草が、『雑草栽培』のおかげで手軽に入手できる分、とてつもなく手間暇がかかるとかでなければ、かなりの低価格にする予定だけど。

 この辺りは、大まかにキースさんと話してはいる。


「今回作った試薬の中で、一番手間がかかっていません。念入りに磨り潰して、水を混ぜて熱を加えるだけですから」


 製造過程は、まず磨り潰す……これは今までも薬酒に混ぜる物を作っているから、慣れたものだろう。

 むしろ、乾燥するまで延々と混ぜ続ける必要がないようで楽らしい。

 ただ何故か、ロエを磨り潰すとサラサラの飲み薬のようになり、水を混ぜた後に一度沸騰させて冷ましたら今目の前で小瓶に入っているような、ドロッとした塗り薬になるんだとか。

 使用時に幹部へと当てるロエの葉肉はゼリー状なのに、磨り潰しただけで飲み薬のようになるのは不思議だが……水を混ぜて沸騰させて冷ますと粘度が増すのはもっと不思議だ。


「それなら、かなり楽そうだね」

「はい。ロエ一つから今小瓶に入っている量で、十個くらい作れます」


 かなり水を追加するのか……ロエ一つに十個、手間があまりかからないなら安くて目玉になる商品にできそうだな。

 こちらは、体力回復薬とは違って人気商品になるのでは、という予想がされている。

 傷薬自体が、日常でかなり消費されているようだから。


「ただ、何故か井戸水でしか作れないんです……」

「井戸水で? なんでだろう……」

「わかりません。川から汲んできた水や、厨房の水を頂いて作っても、同じ物にならないんです。傷を治す効果が完全に消えるか、逆にロエの効果がそのままになるか……」

「井戸水に含まれている成分が必要……とかかな? うーん……」


 厨房の水は、設置されている上下水道からの水だから、浄水された水。

 魔法具と水道管で、そういうの事ができているらしい……詳しくは知らないけど。

 川はほとんどが飲める水で、自然の水だから井戸水との違いがよくわからないけど……井戸水だけ何故か特別で、ロエの効果を弱める事ができる、と。

 水の違いで思い浮かぶのは、硬水か軟水か……あとは、ミネラルの含有量とか……水質については詳しくないからよくわからないけど、井戸水には特別な何かがあるのかもしれない。


「でもまぁ、ランジ村にも井戸はあるし……というか、移住する家はともかく、村の皆は井戸水を使っていたから、これも問題ないね」

「はい!」


 何かしらの理由があるとして、ここではわからないからとりあえず考え込むのを止めた。

 考えてもわからないし。

 ともあれ、ランジ村はブレイユ村と同じく井戸が使われている……ラクトスもだけど。

 特に井戸水を入手するのが難しいわけでもないので、これも価格に転換する程の事でもなさそうだ――。



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