第1273話 レオとリーザは飲み薬の味に興味があるようでした



「傷薬、最初に考えていたよりも安く売れそうだ。買い求める人が出たら、目玉商品になるね。作ったミリナちゃんの成果になると思うよ」

「そんな……私はただ、師匠の作った薬草を調合しただけですから。それに……」


 利益の事もあるし、安くし過ぎる事はできないけど低価格で買い求めやすくなると思う。

 ミリナちゃんが頑張ったおかげだと褒めたら、何やらまだまだ他にも考えているらしい。

 例えば、傷薬や体力回復薬が段階的に効果が出るように、種類を作って価格差を付けて販売……とかも考えているとか。

 俺よりも、ミリナちゃんの方が商才があって運営を任せた方がいいんじゃないかな? と一瞬思う程、色んな構想があるみたいだ。


 これも、屋敷にある薬草や薬に関する書物で勉強したからかもしれない。

 薬師として、薬の知識や調合法以外にも信頼を得るための販売法なども書かれていたみたいだから。

 大体は、知識は人を助けるためであり、暴利をむさぼるための物ではないと書かれている事が多いらしいけど。


「ありがとう、ミリナちゃん。石化回復薬はもうちょっと試す必要があるかもしれないけど……ランジ村での準備が整ったら、販売しよう」

「はい! 師匠のお役に立てたようで何よりです!」


 ミリナちゃんは、人の役に立ちたいと言っていたからな。

 まぁ、効果を弱めて……とか俺の『雑草栽培』に興味が向かないように、という目的のある薬ではあるけど、売り出せば助かる人も多いはずだ。

 俺にお礼を言われて、嬉しそうにしているミリナちゃんからは、それだけじゃない様子も見える気がするけど……。


「ワフ、ワフ?」

「お、レオ。興味があるのか?」

「ワフワフ!」

「私もー!」


 おとなしく試薬の話を聞いていたレオが、興味深そうに三つある小瓶のうち一つ……体力回復薬に鼻先を近付けながら、首を傾げる。

 リーザも同じく、興味があるみたいだ。

 体力回復薬……疲労と筋肉回復だから、疲れているのかな?


「ミリナちゃん、この薬は使っても?」

「はい! 幾つか作ってありますし、ライラさん達にも試してもらったので効果は間違いなく。ですが、レオ様やリーザちゃんにはどうかまでは……」

「そういえば、本にも書いてあったね……ふむ」


 ミリナちゃんに聞くと、飲んでも問題ないようだ。

 ただし、試した事のある使用人さん達は人間で、シルバーフェンリルのレオや獣人のリーザに効くかどうかはわからないとの事。

 以前ミリナちゃんと勉強していた本には、種族によって調合された薬の効果があるかどうかは、試してみないとわからないといった事が書いてあった。

 人間に効果が出るからといって、他の種族にも同じ効果が出るかはわからない……という意味だけど、レオやリーザにはどうなのか。


「ワフ、ワフワフ」

「美味しそうな匂いだから、多分大丈夫? うーん、まぁレオがそう言うなら、いいのかな」


 もしレオやリーザに合わなくて、変な効果……悪い効果が出てしまったらと考えていたんだけど、レオにとっては美味しそうな匂いらしい。

 コルクで塞がれている小瓶の口を、鼻先でスンスンと匂っているレオからは大丈夫と請け負うような様子。

 よくそれで匂いがわかるな……とは思うけどまぁ、嗅覚が鋭いからだろう。


「なんとなく、大丈夫そうな匂いだよ? パパ」


 レオの横からリーザが顔を近付けて、鼻をひくつかせてクンクンと匂いを嗅ぐ。

 リーザも、匂いで判別できたりするのかな? 人間より感覚が鋭い獣人特有なのかもしれない。


「リーザもかぁ。レオは以前も、病の気配や匂いとかで危険かどうかは判別できていたし……本当に、大丈夫なんだな? リーザもだけど」

「ワフ、ワフ」


 もう一度確認すると、鳴きながら頷くレオ。

 ここは、レオを信用してみるか。


「それじゃ……って、レオ。どうやって飲むんだ?」

「ワフ? ワフ……ワーウ」

「……口に入れていいのか?」

「ワウ」


 瓶の口は広いけど、リーザはともかくレオがそこから飲む事は……と思って聞きつつ、ライラさんにお皿を用意してもらおうとすると、レオが大きく口を開けた。

 そこに流し込めって事らしいけど……いいのかな。

 まぁ、レオはそれでいいみたいだし、そうしてみるか。


「それじゃ……」


 小瓶を手に取り、コルクを抜く……キュポンという音が小気味いい。

 頭の中で一瞬、コルクが飛んで行く想像が浮かんだが、シャンパンやスパークリングワインじゃないからそんな事は起こらないか。

 新しいからガスが溜まっているなんて事はないし。


「あー……」

「リーザまでレオの真似を。普通に飲もうな?」

「わかったー」


 口を開けてそこに流し込んだら、咳き込んだり鼻に入ったりするから、危険だ。

 俺の言う事を素直に聞いて、リーザが口を閉じた。

 尻尾が振られているので、レオと同じく体力回復薬が美味しい物と思っているのかもしれない。

 ……疲労回復薬草も筋肉回復薬草も、それから安眠薬草も、あまり美味しい物じゃないはずなんだけど。


「師匠、リーザちゃんの分です」

「ありがとう、ミリナちゃん。ほらリーザ、ゆっくり飲むんだぞ?」

「うん! ありがとう、パパ、ミリナお姉ちゃん!」


 ミリナちゃんからリーザが飲む用の小瓶を受け取り、コルクを抜いて渡す。


「それじゃ、レオ」

「ワウ、ワー……」


 両手で小瓶を大事に持って、コクコクと飲み始めるリーザを見つつ、俺はレオの開けられた口に液体を流し込む。


「ガブガブ……」

「こら、こぼすんじゃないぞ。やっぱり、お皿か何かの方が良かったんじゃないか?」

「ガブ、ガブガブガウ!」


 俺達と違って、ノズルの長いレオは当然ながら液体を流し込んだら横から漏れてしまう。

 レオもその例に漏れず、横から少しこぼしてしまったので注意すると、慌てて舌を器用に使ってこぼさないように飲み始めた。

 ……そんな事もできるのか。


「……どうだ? レオ、リーザも」

「ワフ、ワッフー!」

「なんだか、元気になったような気がする……かなぁ? でも、美味しかった! ママも美味しいって!」


 小瓶の中身を全部飲み干したレオとリーザに聞くと、それぞれ尻尾をブンブンと振った。

 まぁ、リーザの方ははっきりと自覚する程の効果を実感していないみたいだけど……疲れていないからってのもあるか。

 ただ、レオもリーザも効果より美味しいという方向で喜んでいるのは、薬としてどうなのかと思わなくもない――。



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