第1257話 ネックレスには特別な意味があったようでした



 少し時間が経ち、俺やクレアもそうだけど、使用人さん達もちょっとだけ落ち着きを取り戻した。


「ワフ、ワフ!」

「ははは、ありがとうなレオ」


 俺の隣でお座りしたレオが嬉しそうになく。

 頬を寄せてきたので、感謝を伝えながら撫でる。

 俺の気持ちがクレアに通じた事を、祝ってくれているらしい。

 他方では、クレアがシェリーを撫でながら微笑んでいるから、あちらも同じような感じなんだろう。


「しかし、中々思い切った事をしますな、タクミ様?」

「え……?」


 レオを撫でていると、そっと近づいてきたセバスチャンさんとアルフレットさん。

 感心しながら言うセバスチャンさんに、少しだけ戸惑う。

 もしかして、クレアに背中から抱き着いてしまった事だろうか?


「まさか、宝石の付いたネックレスを渡すとは、私も思いませんでした。プレゼントを、というのは使用人達から意見を聞いた時に多く出ていたので、そうするだろうとは思っていましたし、実際に花を作っていて我々が編んだ物も渡しましたが……」

「ネックレスに、何かあるんですか? クレアに似合うと思っただけなんですけど……あ、アルフレットさん。他の皆もそうですけど、レース編みありがとうございます」


 俺の行動、というよりもプレゼントした物に関してだったらしい。

 花や花瓶は問題ないとして……リボンとして結んで渡したレース編みを感謝しつつ、ネックレスがどうかしたのかと聞いてみた。


「いえ……特に宝石をあしらったネックレスには、特別な意味が込められるので……タクミ様は、ご存じありませんでしたか」

「特別な意味、ですか?」

「ふむ、タクミ様は事情が事情なので、私がご説明いたしましょう」


 アルフレットさんに首を傾げる俺に、セバスチャンさんが少しだけ口角を上げる。

 説明できるから、だろうなぁ。

 しかし、宝石のネックレスをプレゼントする事にどんな意味があるって言うんだろうか?

 日本でも装飾品は、物によって意味があったりするとは言われているけど……よく知らないので、一番似合いそうな物を選んだだけなんだが。


「始まりは、国の建国者……初代国王陛下だったと言われています」

「初代国王陛下……って!」


 語り始めるセバスチャンさんの言葉に、つい驚いて大きな反応をしてしまう。

 初代国王って、ユートさんの事じゃないか!

 公爵家の初代当主様といい、この国は初代様との拘わりが多くないか? まぁ、それだけ連綿と受け継がれてきた文化みたいな物があるって事だろうけど。

 あと、多くの人に愛されている、愛されていた証拠でもあるか。


「どうされましたか?」

「いえ、ナンデモアリマセン……」


 アルフレットさんが俺の反応を気にするけど、ぎこちなくだけど誤魔化しておく。

 一応ユートさんが建国者だって事は、秘密だからな。


「……宝石があしらわれているネックレスは、その初代国王陛下が女性に贈った物でもあるのです。それまで、女性にネックレスの贈り物はほとんどなかったそうなのです。国を建国してすぐの頃だそうで、装飾品を贈る以前に、それらの物を作る余裕や取引する事は少なかったみたいですな」

「ま、まぁ確かに、国を興した直後ですからね」


 既にある国での生活しかした事のない俺には、わからない事だけど……建国間もないのに装飾品を作る余裕はないと思う。

 他国からっていうのならわからなくもないけど、売り買いする余裕も国民にはなさそうだしな。

 国の基盤を築いている最中で、その際どれくらいの国民がいて……等々は俺の知る由もないが、開拓もしなきゃいけないわけで。

 全てを一から作っている時に、ネックレスを含む装飾品は無駄な物にも思える。


「初代国王陛下、ユウト陛下と仰られるのですが……おや、そういえば以前ランジ村におられた王家の方も……?」

「ソ、ソウデスネ……お、王家の方でしたから、偶然同じ名前を付けたのかもしれませんね」

「ふむ、まぁ王家の方々ですから、初代国王陛下の子孫でもありますからな。あやかって名を付けるという事もあるでしょう」

「アハハハ……」


 ふとセバスチャンさんが、初代国王陛下……つまりユートさんの名前を思い出して、首を傾げた。

 そりゃ建国者の事だし、名前は残っているのは当然だけど、秘密にするなら名前を変えるとかそういう事もしておいて欲しかった。

 セバスチャンさんは鋭いから、誤魔化す方も気が気じゃない……既に、察している気がしなくもないが。

 ユートさんに言ったら「ユートとユウトで、違う名になっているんだよ。面白いでしょ!」とか、笑って言いそうだけど。


「ユウト初代国王陛下が、後の王妃様になる方へ宝石をあしらったネックレスを贈り、その話が広まったのです。そのネックレスは、他国から一級品を手に入れたとも、自らが掘り当てた物を使ったとも、言われております。まぁ、宝石を掘り当てるのは一国の王がやる事ではないので、誇張されて伝わっているのでしょうが……」

「な、成る程……」


 ユートさんなら、本当に自分で掘り当てた宝石をネックレスに、なんてやりそうだけど。


「初代国王陛下と、その王妃様は国民に大層愛されたお人柄のようです。贈り物の話が広まり、国民の間では大切な人に大切な事を伝える際には、宝石のあしらわれたネックレスを……という風習が生まれた、と伝わっていますな」

「つまり、今回俺がクレアに贈ったのと同じように、という事ですね?」

「はい。話に伝わるお二人はそれは仲睦まじく、そして国を豊かにさせた。そこから、宝石のネックレスは男女の仲を取り持ち、夫婦の象徴ともされています」


 夫婦の象徴って……指輪ならなんとなくわかるけど。

 ちなみに、プレゼントにする装飾品として指輪も候補に挙がったけど、婚約指輪や結婚指輪を想像してしまい、さすがに段階として早すぎるからと考え、避けた。

 髪飾りは以前プレゼントしたから、特別な物とするにはネックレスが一番かなと考えて選んだんだけど……そんな風習があったなんて。

 選ぶ前に、誰かに聞いておいた方が良かったかもしれない。


「ネックレスには宝石だけでなく、チェーンが輪になり首に下げられるようになっています。連なるその形が夫婦を繋ぎ留めるとも言われておりますな」


 人の輪、という言葉があるように人間関係を連想する事もできる。

 ユートさんの影響かもしれないが、日本の輪と和の考えが混じっているんじゃないかな? と思わなくもない――。



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